世界でも珍しい唐辛子の発酵食品「かんずり」。料理を選ばず使える万能調味料の里へ!

2016.01.20

冬は辛いものでも食べて体を温めたいもの。特別豪雪地帯にも指定されている新潟県妙高市には、そんな寒い冬の料理にぴったりな調味料があります。昔からこの地に伝わる伝統調味料「かんずり」です。完成までに4年はかかる唐辛子の発酵香辛調味料で、食通にはファンも多く、「西の柚子胡椒、東のかんずり」と言われているのだそう。そんな「かんずり」の故郷を訪ねました。

用途も多彩な伝統調味料「かんずり」

「かんずり」とは塩漬けのトウガラシを雪の上にさらしてあくを抜き、柚子や糀(こうじ)などと混ぜて発酵させたもの。唐辛子に体を温める効果があることから、妙高市をはじめとする上越地域では、昔から冬になると各農家で「手前味噌」ならぬ「手前かんずり」がつくられていたそうです。それは唐辛子を鉢ですりつぶして塩を混ぜ、各家庭によって味噌を加えたりしただけのものでしたが、鍋物に入れたり、寒さしのぎで舐めたりと、家庭ごとにさまざまな使われ方をしてきました。

その文化が根付く上越地域では、今でも一家に1瓶、「かんずり」が常備されているそうで、冬の鍋料理はもちろん、夏のスタミナ料理にも重宝されています。ほかにも、ラーメンや味噌汁に入れたり、カラシの代わりに納豆に入れたり、ワサビのように醤油にとかして刺身や焼き魚に直接つけたり、漬物と合わせたりと、食べ方のバリエーションは豊富です。
▲かんずり80g 648円(税込)
▲刺身醤油にはワサビの代わりに「かんずり」を添えて。あとからじわりとピリ辛の風味が広がる

豊かな妙高の四季を生かした独特の製法

その「かんずり」の製造方法を探りに、妙高山の麓に位置する有限会社かんずりを訪ねました。この社名からわかる通り、「かんずり」を製造できるのは全国でも同社だけです。そもそも「かんずり」とは、漢字で「寒造里」と書き、「寒づくり」が由来。冷え込みが厳しい時期に自家製の唐辛子を雪の上で「寒ざらし(雪さらし)」にすることで甘みを引き出す独特の製法でつくられています。
▲日本百名山のひとつ、標高2,454メートルの妙高山のふもとに広がる妙高市が「かんずり」の故郷
▲雪の上で唐辛子をさらす独特の製法が「かんずり」の特徴のひとつ

まず主要な原料となるのが、かんずり用唐辛子「S-30」です。もともとこの地には上杉謙信が上洛した際に京都から持ち込んだといわれる唐辛子が根付いていました。その地元産唐辛子のなかから毎年一番品質のよいものを自然交配し続けた結果、通常の唐辛子の約3倍の大きさで、肉厚で栄養分が豊富なうえに辛すぎずに甘すぎない「S-30」という品種を生み出しました。
▲肉厚で甘辛の「S-30」。日本に流通している唐辛子の80%以上は外国産ですが、有限会社かんずりでは100%地元産の唐辛子を使用している

その「S-30」を中心に、旨辛や激辛の3種類ほどの唐辛子の種を3月にまき、育てた苗は契約農家で無農薬栽培されます。最初の収穫は8月初旬。その後、良質なものを丁寧に選別し、天然の海水塩で塩漬けをしてアクを出します。海水塩は角が丸くてミネラルが多いので、かんずりの味わいの大きな要素になっているのだそう。
▲山間地の集落でかんずり用唐辛子の畑を集約化した「唐辛子団地」。「S-30」をはじめとする複数の唐辛子を年間約30トン栽培している
▲天然の海水塩をまぶして2カ月間ほど塩漬けにした唐辛子。唐辛子自体は天然のものなので、天候によって味わいに個性が生まれ、夏場に日照りが強いと辛くなり、梅雨が長いと酸味が生じるのだそう

アクが出た塩漬け唐辛子を厳冬期に3~4日間雪にさらすことで、雪が塩分を吸って唐辛子の甘みが高まります。さらに、雪の水分が唐辛子を種まで柔らかくし、加工がしやすくなるのだとか。つまり、この「雪さらし」は「かんずり」づくりの要とも言える作業なのです。
▲「雪さらし」前の唐辛子。塩漬けにした唐辛子はさらす前に井戸水で洗う
▲「雪さらし」の様子

有限会社かんずりでは、毎年1月20日前後の大寒の日を「雪さらし(仕事)はじめ」とし、3月上旬まで15回ほど「雪さらし」が行われます。雪の白と唐辛子の赤、そして晴れた日の青空のコントラストが美しいと、いつ頃からかアマチュアカメラマンをはじめとする見学者が集まるようになり、今ではこの地の冬の風物詩として多くの人に親しまれています。
▲大寒の「雪さらしはじめ」の日の来場者には、甘酒や「かんずり餅」が振る舞われる。また、希望すれば見学だけでなく無料体験も可能(予約不要)
▲雪の白と赤い唐辛子のコントラストが観光客を魅了する

「雪さらし」に最適な環境は、晴れた日に唐辛子をまき、翌日、降雪があること。そこで、大寒以降の「雪さらし」は天気予報を見ながら決まるのだとか。作業日はホームページやSNSを中心に発表されていますが、決定するのは数日前。それでもコアなファンは近隣のホテルで宿泊をしてまで出かけてくるのだそうです。
▲妙高市には温泉宿も多い。有限会社かんずりから車で10分ほどの「神の宮温泉かわら亭 景虎の湯」は日帰り入浴も可能
▲「神の宮温泉かわら亭 景虎の湯」の和食会席創作料理の先付には「かんずり塩辛」が提供される

3年寝かせた「かんずり」は料理の引き立て役

こうして「雪さらし」を経た唐辛子を井戸水で洗浄した後に特殊ミキサーで粉砕し、海水塩と丸ごとすりつぶした柚子、地元の味噌屋で特別につくってもらった「かんずり」用の米糀(こめこうじ)を決まった配合で混ぜていきます。このように糀を入れた発酵唐辛子は世界的にもとても珍しいのだそう。それに、渋みと酸味が効いた柚子を加えることで味の深みと独特の風味も生まれます。

ここまでが下準備。これからいよいよ樽に入れて発酵させるのですが、なんとその熟成期間は3年!昔から「3年味噌」はおいしいと言われるように、3年間、自然状態でじっくり寝かせることで発酵が進んで保存性が高まり、香り成分や味も安定してまろやかになります。

しかも、ただ3年間寝かせているだけではなく、途中で年に一度「手返し」といって空気を入れることで発酵を促進します。そして最後の最後、商品になる直前の初雪が降り始める頃に樽に入った状態で屋外に運び出され、再び寒さにさらされる「寒ざらし」を行うことで味が引き締まり、より一層マイルドな味に仕上がります。
▲四季の寒暖差を利用して3年間寝かせた「かんずり」は、見た目は真っ赤ながら丁寧にアク抜きがされているので、辛さのなかにも深い甘みを感じる不思議な味わい

なお、唐辛子自体の辛さや酸味は天候によって毎年異なるので、仕込む段階でできるだけ均一の味になるよう、その年の唐辛子の味に応じて原料の配合比も多少変えています。愛好家のなかには「今年(3年前の仕込み)の出来は辛い」と気づく人もいるそうで、「ボージョレ・ヌーボーのように、毎年、出来を評価することも楽しんでもらいたい」と有限会社かんずりの社長・東條邦昭(くにあき)さんは話します。

このように、唐辛子の栽培から始まり、雪さらしを経て仕込みまで1年、発酵に3年、完成までには実に4年の歳月をかけてつくられる「かんずり」は、まさに辛さと旨みが調和した万能調味料です。
▲アイデア次第で使い方が無限に広がる「かんずり」。種類も豊富で、用途によって使い分けることができる

「香辛料は必ずしもなければならないものではないけれど、使うことで料理がより深い味になります。つまり『かんずり』は、料理をさりげなく引き立てる“名バイプレイヤー(脇役)”。特に、脂っぽい料理は中和されてさっぱりと食べられると評判ですし、料理の隠し味としても使われています」と邦昭さん。

とある高級料理店からは「うちで隠し味に使っているので、近隣の料理店には卸さないでほしい」と直談判されたエピソードもあるとか。
▲近くにある豚汁の有名店「とん汁たちばな」では「かんずり」を別途、注文することができる。豚の脂を「かんずり」が中和して味が引き立つ

情熱と遊び心で地元古来の「寒づくり」の調味料を商品化

そもそも有限会社かんずりの設立は、先代である邦昭さんの父親、邦次(くにじ)さんが大の「かんずり」好きだったことに端を発します。邦昭さんが小さい頃から邦次さんは自家製の「かんずり」をつくり、近所の家庭のものと食べ比べては「うちのほうがうまい」と自慢の味を追求していたそうです。
▲有限会社かんずりの社長、東條邦昭さん。平成9年に他界した父親の邦次さんと二人三脚で会社を成長させてきた

ところが、戦後の貧しい時代になると、世間では辛いものよりも甘いものが求められ、「かんずり」は人々のなかで次第に忘れられていきました。しかし、邦次さんは「伝統食である『かんずり』づくりをやめてはいけない」と、自家製「かんずり」を近所に配って歩いたと言います。

そして「地元の宝を後世に残したい」という情熱と「地元特産の土産品をつくりたい」という遊び心から「かんずり」の研究を開始。邦昭さんも高校を卒業すると「かんずり」づくりを手伝うようになりましたが、当初は全く売れず、周囲の目も「そんな辛いものは売れるわけがない」と冷ややかで辛い思いをしたのだそうです。

そんなある時、国の事業の一環としてアメリカで農業研修を受けられる機会があり、23歳の邦昭さんは現地で「かんずり」の可能性を左右する光景に出合います。

「向こうでは、1kgもありそうなでかいステーキにたくさんの種類のスパイスを付けて食べているんです。そこで私は持参した『かんずり』を付けてみると、おいしい。周囲の外国人に勧めると、とても喜ばれて『これはいけるな』と思いました。それで、いずれは日本も欧米のように食生活が豊かになって香辛料を受け入れる時代が来るだろうと思って、このオンリーワンの『かんずり』のためにひとつやってみるか、という気持ちになったんです」

ステーキに付けたことで「かんずり」の適度な辛さが油をうまく中和して食べやすいと気づいた邦昭さんは、帰国後、焼鳥屋に「かんずり」を持ち込みました。この地域の焼鳥屋では、今や香辛料といえば七味や一味ではなく「かんずり」が定番だそう。
▲焼鳥とも相性抜群の「かんずり」

こうして決意も新たに帰国した邦昭さんは、昭和35(1960)年に邦次さんとともに「かんずり」の会社を設立。商品化のためにレシピを確立させなければ、と研究を重ねるなかで、約20年かけて現在の製法をつくりあげました。そして登録商標や製法特許を取得し、唯一無二の調味料として、その地位を築きあげたのです。

この「かんずり」を近隣の鉄道駅や温泉地の土産物屋などに委託販売で置かせてもらうと、そのおいしさは少しずつ口コミで広がり、次第に行政のバックアップを受けたり、メディアでも大きく取り上げられたりするようになりました。今ではすっかり地元の名産品として知られ、地域に定着しています。

さて、この「かんずり」は新潟県を中心に各地で販売されていますが、有限会社かんずりに併設された売店と、近くにある「新井道の駅」でのみ販売しているのが、びん詰めにしてから熱処理をしないことで糀の発酵を止めずに仕上げる希少品「生かんずり」。高級料亭や割烹などで利用され、通常のかんずりよりもよりなめらかな舌触りとさわやかな柚子の香りを味わうことができます。現地まで足を運んだら、ぜひ手に入れたい逸品です。
▲唐辛子のオブジェが特徴的な有限会社かんずり。オブジェは石の一刀彫だが外装は着せ替え式で、季節によって色を変えている
▲本社併設の売店ではさまざまな「かんずり」商品を販売。近年は米菓や海産物などとのコラボ商品も増えている
▲仕込みから出荷までに6年間をかけてじっくりと熟成・発酵をさせた「吟醸生かんずり6年仕込み(85g 税込1,080円)」もある。1カ月に100本しか流通しない限定品のため、こちらも見つけたらぜひ手に入れたい極上品

日本にはさまざまな食材や調味料がありますが、そのなかでも生産の背景を感じることができるものは愛着を持って使い続けることができるのではないでしょうか。ますます冷え込みが厳しくなるこの季節。小さな瓶に込められた情熱も感じながら、「かんずり」で体を温めませんか。
島田浩美

島田浩美

編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)

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