熊本お好み焼きカレー/全国カレー巡礼の旅Vol.12

2016.01.03

今や世界中で愛されるカレー。しかし、カレーの世界というのは奥深いもの。この企画では、カレーの第一人者・井上岳久先生と、私、カレー初心者ライター・井上こんの“ダブル井上”で全国の名店カレーを食べ歩き、先生の解説とともに地域性や歴史背景も交えてさまざまなカレーを紹介していきます!

前回は、カレー大国・鳥取を代表する喫茶店「ベニ屋」で大人気のチキンカツカレーをご紹介しました。今回はどんなカレーが登場するのでしょうか?

【Contents】

1.看板メニューの誕生秘話に迫る
2.見た目と味にギャップあり!気持ちよく裏切られたし

東に阿蘇山、西に金峰山――。ダイナミックな景観を抱える火の国、熊本。九州のほぼ中央に位置する熊本は、地の利を生かし古くから九州の行政や経済の拠点として発展してきました。さらにトマトやスイカ、ナス、生姜などの品目でトップクラスの生産量を誇る農業県であると同時に、有明海や天草沿岸では海苔や真珠、県魚であるクルマエビの養殖も盛んに行われています。
本日は、恵み豊かな熊本から地元産食材を使った珍しいカレーをご紹介します。

1.看板メニューの誕生秘話に迫る

熊本屈指の繁華街、中央街の銀座通りに店を構える「肥後のたこ坊」。出前や持ち帰りもできるお好み焼き屋として平成元年(1989年)に創業しました。
井上「いや~久しぶりだなぁ」

こん「お付き合い、長いんですか?」

井上「2002年からですね。当時、私は横濱カレーミュージアムへの参加店を探して全国を飛び回っていました。そんなとき、九州にうまい店がある、との噂を聞きつけ『たこ坊』さんを知りました。最初に伺ったとき、『カレーミュージアム?何だそりゃ』と言われてしまったのを今でも覚えています(笑)。何度か通い、やっと出店を了承してもらった半年後、カレーミュージアムの『たこ坊』さんのブースには大行列ができていましたね」
井上「こちらの看板メニューは『ライス焼カレー味』です」

そもそも「ライス焼」という言葉に馴染みがない方も多いでしょう。それもそのはず。ライス焼はたこ坊の正真正銘のオリジナルメニューで、さかのぼるとその生まれはなんと“まかない”。それが今では多数のメディアで紹介され、伊勢丹のショッピングサイト「全国おとりよせグルメ」の売り上げランキングでは週間5位に輝いたこともあるほど。また、2015年8月には熊本の中心街にある老舗デパート、鶴屋百貨店のフードコートに「肥後たこ坊 鶴屋店」がオープンしました。夕方から深夜にかけて営業している本店と違い、鶴屋店は午前から夕方まで営業しているため、こちらも連日大盛況だそうです。

まかないから看板料理へ――。マスター宮城建男(みやぎたてお)さんの息子、一路(かずみち)さんに作っていただきながら、その昇華の軌跡をたどります。


▲クレープのように薄く引いた生地に豪快に乗るのは地元産キャベツ。そこへ食感と甘みを生むたくあんをパラリ

その“まかない”が生まれたのは創業間もないころ。当初はマスターの奥さまのマヨネーズ好きが高じて、余った白米とマヨネーズを混ぜてお好み焼き風にしたものだったそう。「簡単そうに見えるけど、お客さんに出せるようになるまでそうやねぇ……半年かかったわ」とマスター。「“ごはん焼”より横文字で“ライス焼”にした方がお客さんも『何これ』となるやろ?食べてもらえば分かるから、まずは興味を持ってもらうこと。食べて吐かれたらこっちの負けったい!」。

元祖ライス焼の誕生からおよそ10年。店を訪れたある少年の「カレー味も食べたい」のひと言が契機となり、次はカレー味への挑戦が始まりました。以来、ライス焼はバリエーションを増やし、現在は馬肉味、豚キムチ味、納豆カレー味など全9種類。

▲ルーとライスを混ぜ合わせたものと天かすを乗せた途端、カレーの香ばしい香りが立ち上がります
▲お好み焼きソースをたっぷり塗り、青のりを振れば「ライス焼カレー味」のできあがり

2.見た目と味にギャップあり!気持ちよく裏切られたし

苦労したところは「カレールーとソースの相性」と話すマスター。「カレールーが強すぎてもいけないし、お好み焼きのソースが強すぎてもいけない。ソースに合うルーを何十種類も試してみて、納得できるルーができるまで3ヶ月かかったよ」。完成したライス焼、その見た目はどこからどう見てもおいしそうなお好み焼き。
しかし、断面から顔をのぞかせ、鼻腔を刺激するのは紛れもなくカレーライス。
▲いただきます!

ルーは第4回の大阪編で紹介した「混ぜカレー」を思わせる、スパイスが軽やかに香る爽やかなタイプ。ひと口ごとのキレが良く、飽きさせません。またソースはカレーに負けず、カレーもソースに負けず。かといってそこには互いを力で押さえこむ強引さはなく、演劇でいうダブル主演のようにそれぞれの持ち味で舌を楽しませてくれます。

井上「こんなにソースがかかっているのに、カレーとのバランスがいいね。スパイシーさが引き立てられ、食べた後も辛みが残る。それから意外とキャベツの甘みと旨みがカレーを支えていて……語りたくなる味だね。ここでしか食べられないというのもポイント」
▲マヨネーズを足すと、まろやかな仕上がりに変化
▲こうしてマヨネーズあり、なしを交互に楽しむのも◎

それでは本日のカレー格言、いきます。
井上「地方に奇想天外なカレーあり!広島・大阪にない熊本のお好み焼きはカレーだ!料理人の技あり」

こん「この裏切りが嬉しい!食べてビックリ名物カレー!」
とにかく“豪快”のひと言に尽きるマスター。自身を「俺はもうロートルったい!(※「老頭児」:中国語で老人の意)」と称し、ガハハと笑いビールをグビッ。いえいえ、そんなことはございません。だってたこ坊では、マスターが「子ども」と呼ぶ新メニューが毎年生まれており、先ほども「次はマヨネーズを使った若者向けの料理かのう」と呟くのを聞いちゃいましたから。

「こりゃうまか どこでにゃ食われん味しとる」をモットーとする同店。次はどんなオリジナル料理を魅せてくれるのか楽しみです。
たこ坊さん、ありがとうございました!

井上岳久(カレー大學学長/株式会社カレー総合研究所代表)

カレー業界を牽引する、業界の第一人者。横濱カレーミュージアム責任者を経て現職に至る。カレーの文化や歴史、栄養学、地域的特色、レトルトカレーなど、カレー全般に精通。レトルトカレーは全国から2,000種類を収集し試食している。著書に『一億人の大好物 カレーの作り方』『国民食カレーに学ぶもっともわかりやすいマーケティング入門』など多数。



※平成28年熊本県熊本地方を震源とする地震により被害に遭われた方々に、謹んでお見舞い申し上げます。被災地域の皆様のご健康と、一刻も早い復興をお祈りいたします。
当該地域にご旅行予定の場合は、あらかじめ現地の状況をご確認のうえ、十分に注意してご訪問下さい。
井上こん

井上こん

1986年生まれのフリーライター。「Yahoo!スポーツナビDo」「SPA!」「nomooo」「ウートピ」などのWEBメディアや雑誌「散歩の達人」などで執筆。

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