かき氷ホットスポット岡山/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩きvol.6

2016.01.11

かき氷を巡る旅をするようになって、今まで縁のなかった町に何度も足を運ぶ事が増えた。仕事先も親戚もいない初めて訪れた町のアーケードをあちらこちらと歩き回ったり、地元で人気の定食屋を見つけたり、その町の方言を懐かしいと感じたりするなんて思ってもみなかった。今では旅に出るとなると、あのかき氷が食べられる、あの店主さんにまた会えるという事が楽しみで仕方ない。

岡山と言えば「フルーツ王国」と称されるように、桃や葡萄を代表とする多くの果物を生産している事で知られている。ただ単純に生産量が多いという訳ではなく、白桃やマスカットなど、岡山産と言えば「贈答用の高級果物」というイメージと結びつくほど品質が良いのだ。それは岡山県が温暖な瀬戸内気候に位置しているという理由だけではなく、真面目で勤勉な県民性の生産者が、繰り返し品質改良を重ねて作り上げた結果が美味しい果物を生んだのだ、といわれている。
まず紹介したいのは、岡山のおいしい果物をふんだんに使ったかき氷屋さん。通年のかき氷提供を始めて10年以上。岡山の町に「冬でもかき氷」を定着させたお店だ。

かき氷のテーマパーク、岡山「おまち堂」

▲キャラメルミルク480円(税込)

はじめて「おまち堂」を訪れたのは10月の半ば過ぎ、平日の午後だったと思う。そろそろ肌寒くなってきた季節で、本当に通年かき氷をやっているのかなぁと不安になりながら店を捜していた。その頃はまだ都内でも秋冬にかき氷を提供している店は数える程しかなく、いくら岡山が温暖な気候とはいえ、町中からは少し離れた店にわざわざ食べに来るのだろうか、と疑問だった。
カーナビが指し示したところにあった店は思っていたより大きな店構えで、風合いのある木材で作られた高い壁に大きな赤文字の看板が掲げられている。店の前には無造作に置かれた果物の箱と新鮮な果物、おまち堂仕様にペインティングされたワゴン車はこの果物を運んで来たのだろうか、そこにはなんだかワクワクする空間が広がっていた。
お店を覗くとカウンターの上にはかき氷機が置かれ、横に貼られたメニューを見るとたくさんの果物かき氷の名前が並んでいる。これは迷うなぁとお勧めを聞いてみると、この季節は黄金桃が美味しいですよということで早速注文。手渡されたかき氷を見て、「おぉ!」と驚きの声が出てしまった。今まで、このスタイルのかき氷は見たことがない。こんもりとカップから盛り上がったかき氷にはたっぷりトロリとミルクがかかり、その上には山盛りの黄金桃の果肉。黒いつぶつぶが見えるのはパッションフルーツのシロップを上にかけているからだという。
▲黄金桃ミルミルク680円(税込)

この形状ということは結構固めてあるのかな?とスプーンを入れると思いのほか抵抗なくスッと入る。氷は薄く削られていて、口どけは滑らか。そして黄金桃が完熟でミルクの甘さに全く負けない。芳醇で酸味のあるパッションフルーツのシロップが、ミルクの甘さと黄金桃の甘さを引きしめるアクセントになっていて、これは旨い!

聞くと果物は全て店主さんが市場に行って仕入れて来るとのこと。お眼鏡にかなった果物は、店内で熟し具合を見ながらカットされ、出来るだけ切りたてに近い状態で提供される。黄金桃に合わせてあるのはミルミルクという「おまち堂」オリジナルのミルクシロップで、キャラメルミルクに合わせるのはバナナ、マスカットにはヨーグルト風のさっぱりしたシロップという風に、フルーツの味を最もひきたてるシロップを組合わせている。

最初の訪問でかき氷はもちろん、飾らない性格の店主さんご夫妻との会話が楽しくてすっかりファンになってしまい、いまでは最低でも年に一度は必ず食べに行きたいと、岡山に訪れる時期を心待ちにしている。
実は岡山には3つの「おまち堂」がある。ひとつは僕が最初に訪れたおまち堂。それから2015年夏に開店した「おまち堂宇野港店」。こちらは最初に紹介した店の支店で、岡山から直島や四国に渡るフェリー乗り場の近くにあり、本店と同様に通年かき氷を提供している。海側の大きな窓が特徴の建物内には、晴れの日には太陽光がふりそそぎ、店を出ると海を見渡せるベンチや芸術的なオブジェのある広場があり、とにかく気持ちのいい場所なのだ。
先日訪れた際の宇野港は快晴!開店前についたのでちょっと時間潰しに散歩していると、あまりの気持ちよさに気がつけば開店5分過ぎ。店に向かうとこの短時間の間に行列ができている。メニューを見ると売り切れの品もちらほら…。
▲左:ご当地マンゴーミルク920円(税込)、右:シャインマスカットヨーグルト680円(税込)

少し慌てるが、良かった!お目当ての「ご当地マンゴーミルク」と「シャインマスカット」はメニューに残っている。「ご当地マンゴーミルク」は季節によって変わる日本のマンゴーの旬を追って、その時期においしいマンゴーをかき氷の上にたっぷりのせたご馳走かき氷で、「シャインマスカット」はマスカットの中でも大人気の「桃太郎ぶどう」という品種が使われているとの事で、どうしてもこの日食べたかったのだ。
舌の上でとろんととろけるマンゴーに、皮ごとたべられるマスカットの食感が楽しく、非常に美味しいかき氷に感動した。
もしも訪れた日が晴れならば、海を見ながら食べるかき氷は更に絶品になる事だろう。ただし、雨の日と冬は「のんびり営業してます」とのこと。雨の海を眺めながら落ちつく店内でゆったりと時間を繕うのも悪くないかもしれない。
もうひとつの「おまち堂」は、本店に勤めたていた店員さんが独立して開店した「おまち堂&FRUTAS(フルータス)」。リノベーションされたおしゃれなカフェやインテリアショップが並ぶ問屋町にあり、本店と同じレシピのかき氷とフルーツたっぷりのタルトや洋菓子を販売している。店内にはつやつやと美しい果物がディスプレイのように並べられ、元気な店員さんの声が響く。センスのいい小物や鮮やかな色彩が溢れる店内の雰囲気が、ちょっと外国のフルーツショップにいるような気分にさせてくれる。
まるでフルーツパフェのように盛られた「フルータススペシャル920円(税込)」は、本店にはない限定品で、せっかくだから色んなフルーツを食べてみたいという人には、お勧めのかき氷。いちご、キウイ、バナナはもちろん、マスカットやイチジクなど旬の果物が驚くほど盛りつけられ、見ているだけでもうっとりする華やかさ。美味しい果物と町歩きを楽しみたいなら、このお店は絶対に外せない。

3つの「おまち堂」はそれぞれ異なるシチュエーションで、ここに食べに来る人達をたのしい気持ちにさせてくれる。
かき氷という食べ物は「ハレの日(特別な日)」の食べ物だと僕は思っている。子供の頃の花火大会、盆踊りや海の家など、特別(非日常的)な場所で食べるかき氷は、僕にとっては一大イベントで特別なご馳走だった。 楽しい雰囲気の中で提供される「おまち堂」のかき氷は、そこに訪れる人々に特別な思い出を残してくれるに違いない。

昭和のかき氷を訪ねて。「喫茶カニドン」

岡山には、もう一つ僕のお気に入りの店がある。
表町商店街にある「喫茶カニドン」は、ミルク金時発祥の店として知られる喫茶店だ。(※2016年夏頃に閉店)
商店街の中にあるビルの階段の「喫茶カニドン」という看板と文字を見て、なんだか面白そうな店だぞ、と思った。
もちろんその店名から不思議な印象を受けてはいたが、この愛想のない看板と殺風景な階段から始まるプロローグが好奇心をそそる。ガラス戸に店名が書かれた扉をあけて店に入ると、昭和感の強い内装…というか、そこはまさに懐かしい昭和の喫茶店だ。
きっとこのテーブルも椅子も、随分昔から使われていたであろう。そしてかき氷機は、レトロというより動く奇跡。大変珍しく古いかき氷機が、現役で働いているではないか。
このかき氷機で作られたかき氷を、ぜひ味わってみたい!!
メニュー表に書かれた名物「ミル金」とは「ミルク金時」の略称で、実はお客さんの思いつきからこのかき氷は生まれたのだという。かき氷機の歯を調整して淡雪のように削った氷に、自家製金時とたっぷりのミルク。常連さん達に愛され続けた飾らずシンプルなかき氷を、「喫茶カニドン」では開店間もない大正14年頃から今でも変わらず提供している。移り変わりが激しい現代の流れの中で、「変わらない」という選択肢は簡単なことではない。変わらず昔の味を継承し、それが支持されている店というのは、手抜きで同じことを繰り返しているというわけではなく、「変わらないための努力」をし続けているのだと僕は思う。それは時として変化させたり流行りに合わせたりすることより難しいかもしれない。だからこそ一本気で真面目な「昔ながらのメニューを続けています」というお店に、僕は敬意を表し魅力を感じるのだ。
▲ミル金700円(税込)

その「喫茶カニドン」、かき氷メニューは「ミル金」だけではなく、注文が入ってからお抹茶をたててシロップを作る「宇治ミル金」や、卵と練乳とかき氷を混ぜ合わせてつくる「ミルクセーキ」も人気だ。昔、岡山では有名な洋菓子屋が出したかき氷のようなミルクセーキが大人気で、以来ミルクセーキと言えばどこの店でもこのスタイルだったというが、今ではこれも珍しくなってしまったという。訪問の度「ミル金」ばかり頼んでいたが、次回は必ずミルクセーキを食べに行こう。そして懐かしい昭和の話をきかせてもらいたい。
▲イチゴミル金800円(税込)
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP