野菜を使ったかき氷/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩きvol.7

2016.03.02

最近増えてきた通年提供のかき氷店は、ぼくらかき氷好きの秋冬の楽しみを増やしてくれた。Xmasをイメージしたかき氷に、チョコレートを使ったかき氷など、季節やイベントに合わせたメニューを期間限定で提供してくれるのだ。イベントかき氷の提供期間はほとんどの場合とても短く、「どこの店でクリスマスが始まった」とか、「限定メニューがもうすぐ終わりらしい」とか、ざわざわとネット上で噂が流れるのだ。華やかなイベントかき氷の紹介もしたいところだが、僕はその他にかき氷オフシーズンの間に食べ歩いておきたいものがある。それは「野菜を使ったかき氷」だ。

▲日替わりかき氷ではなく、只今のかき氷!

「野菜のシロップってどうなの?」と食わず嫌いな方もいらっしゃるに違いない。 けれどまさにそう思っていた自分が衝撃を受けるほど感動し、かき氷って奥が深い!とますますかき氷にのめり込むきっかけとなった理由のひとつが、この「野菜を使ったかき氷」なのだ。

野菜のかき氷は裏ごしや仕込みに時間がかかるうえに、ある程度かき氷を食べ歩いた人でないと注文しないメニューなので、忙しい夏の間は多くの店が提供していない。口当たりも重めだから、サッパリした後味が求められる夏のかき氷にはむいてないのだろう。秋冬から春にかけてメニューに登場する野菜のかき氷を、冬が終わる前に味わってみてほしい。

東京・谷中にかき氷革命を起こした名店「ひみつ堂」

▲ひみつのいちごみるく900円(税込)

2011年の開店以来、夏でも冬でも行列が途切れない店として知られる「ひみつ堂」。一番人気は「ひみつのいちごみるく」。甘く真っ赤な苺のシロップを食べる為に、夏には3~4時間待つのも珍しくないという人気店だ。

この店のオフシーズンを飾るメニューが「パンプキンクリームキャラメル」のかき氷だ。このかき氷を食べた時、あまりの美味しさにその場で同じかき氷をもう一杯追加せずにはいられなかった。

よく「芋栗かぼちゃ」が大好きという人の話を聞くことがあるが、自分はどちらかといえば興味がない方で、かぼちゃの煮物もあまり興味がないし、パンプキンパイなんて横文字になると尚更手を出さない。
その日も連れの頼んだかき氷を味見程度に食べたところ、その美味しさに一瞬でこのかき氷のトリコになってしまった。
▲パンプキンクリームキャラメル900円(税込)

パンプキンクリームと名前が付いている通り、そのシロップはとろっと柔らかいが、まとわりつくようなかぼちゃの重さが一切ない。
シロップの「とろっ」と氷が喧嘩をしないように、氷にはミルクシロップで下味がついていて、口の中で氷とパンプキンクリームがすっと一体化したと思えば一緒のスピードで溶けてゆく。このとろけるスピードが大切なのだ。

かき氷というものは、シロップだけが目立ってもいけないし、氷だけが残ってしまっても美味くない。二つのバランスが良く、両方が双方を引き立てるように仕上がってこそ、美味いかき氷と言えるだろう。

パンプキンクリームにかかったキャラメルは、食べ進むと所々にほろりと香ばしい甘みを感じるが、ここでは脇役に徹していて前に出過ぎてないのがいい。冬のかき氷と言うのに結構ボリュームたっぷりだなあと思ったものの、食べ終わると食べ足りない。それで、同じメニューでもう一杯、となった訳だ。

かぼちゃのかき氷は今ではあちこちのかき氷店で提供されているし、夏だって食べられるお店もある。けれど、僕にとって「ひみつ堂」の「パンプキンクリームキャラメル」は初恋の人のようなもので、他のお店のそれとはやっぱり違うのだ。

東京・六本木の自分流カスタマイズかき氷「yelo」

▲レアチーズケーキ オレオトッピング1,000円(税込)

「yelo(イエロ)」 が開店した時、かき氷界にもついに黒船がやってきた!!と激震が走った。場所はあの六本木。深夜までバリエーション豊かなかき氷が食べられる上に、自分好みのカスタマイズも対応可能だという。

テレビの情報番組や雑誌にも数多く取り上げられ、かき氷業界の人々も興味津々で「どうなの?yeloは?」とあちこちで聞かれた。快調な滑り出しをした「yelo」は、夏には深夜の六本木に行列を作り、かき氷専門店にとって難関である1年目の冬も危なげなく乗り越えた。

「yelo」には通年提供されるレギュラーメニューがあり、その一つが「有機にんじんマスカルポーネ」で、開店当初から注目されていた看板メニューだ。開店当初から気にはなっていたものの、夏の間は注文するチャンスがなく冬になった頃に初めてお願いしてみた。
▲有機にんじんマスカルポーネ おいりトッピング1,000円(税込)

「美味しい」という噂は聞いていたが、そうはいっても人参だ。お菓子の世界に参入しているかぼちゃとは訳が違う。美味しいという人もいるかもしれないが、人参独特の人参臭はどうなっているのか?人参臭がなければ人参らしくないだろうに…。食べる前から色々想像していたが、運ばれてきた鮮やかな人参色のかき氷を一口含んで首をかしげた。
確かに人参臭はある。しかしそれが臭くない。不思議に思って聞くと、香りは活かしつつ臭いの部分は目立たないように工夫を施していると言う。よくよく味わうと、たしかにシロップの奥の方に人参臭をかすかに感じる。けれどそれ以前に人参の爽やかな甘みとクセのない風味が広がり、「人参、美味い!」と唸らされるのだ。

マスカルポーネも、違和感なく人参に溶け込んでゆくではないか。きっとこのバランスを見つけるまでに、何度となく試作品を食べただろう。人参臭に 悩んだからこそ、この美味しさが生まれたのだ。人気の陰には努力あり。華やかさばかりが目立つ事が多いが、僕にとって「yelo」はそんな真面目な店なのだ。

美味しさを追求するのはもちろん、六本木に店を構えた以上「yelo」は「エンターテイメントとしてのかき氷」を考え続けなくてはならない宿命にある。
カフェバーのような外観から店内に入り、特徴のあるメニューブックを見てあれこれ迷う。
カスタマイズできる分メニューは複雑になり、これをあれこれ迷う時間がまた楽しいのだ。更に季節の変わり目に出される限定メニューが遊び心をくすぐる。
見ているだけで楽しくなってくるかき氷。これからも楽しく美味しいお店で僕らを楽しませ続けて欲しいと思う。

アイデアが止まらない!埼玉・熊谷の「慈げん」

▲大根とゆず 730円(税別)

「大根のかき氷が出来た」と店主から聞いた時、ここまでやるのかこの人は…と尊敬に近い思いを抱いた。誰もが食べたことがないようなかき氷を、「美味しく」作り上げるのが本当に得意な人で、これ以前にもかき氷にすると味がぼやけてしまいがちなスイカや、到底美味しくなるわけがないだろうワサビまで、「美味しい!」とつい口をついて出てしまうシロップをヒョイヒョイッと作り上げて驚かされていた。いや、もしかしたらそんなに簡単なものではないかもしれない。けれど、試行錯誤して行き詰まっている姿を想像することの方が難しいくらい、ヒョイヒョイッとやっている風に見えるのだ。

店主がこだわっているのは口溶けの良さで、どんなに美味しくてもかき氷らしい口溶けや爽快感が無くなってしまっては意味がない。儚く消えてゆくかき氷の美味しさに人一倍のこだわりを持ち、美味しくないものを出すなら店を閉めたほうがましだという強い気質と信念があるからこそ、「慈げんのかき氷は何を食べてもおいしい」とかき氷ファンの人びとの期待を裏切らない逸品が出来るのだ。

大根のかき氷「大根とゆず」は、一見すると地味。白いかき氷の上にはこれまた白い大根おろしがちょこんと乗っている。添えられた和三盆蜜をかけて食べるとほのかに甘さが加わる。かき氷の中にはたっぷりの柚子ピールが隠されていて、この柚子ピールを口に含んだ瞬間、大根のかき氷は急展開をするのだ。甘い柚子に大根おろしが加わり、和食の前菜を食べているような気になっていたところが、和風のかき氷へと変貌する。大根と柚子と和三盆、まさかこんな組み合わせがあったとは!
▲さつまみるく780円(税別)

もうひとつ、この時期に楽しめる野菜のかき氷は「さつまいも」のかき氷だ。とろりと柔らかめに仕上げたさつまいもシロップは、薄羽のように氷の上を覆っている。ここに黒ごまの入った醤油シロップをかけると、まるで大学芋のような味わいになる、冬の「慈げん」の人気メニューだ。シロップをかけて口に運ぶと、とろんとろんと氷とシロップが溶けてゆく。カキ氷のシロップはもったりと重すぎてはいけない。氷とシロップが絡み合う時間と溶けてゆく時間は短く、もったりしたシロップはうまく氷と融合できずに、氷が溶けた後も口の中にとり残されてしまう。いくら美味しくても、これではかき氷にした意味がない。

多くの食べ物は、食べ手主導で食べる速度を選べる。例えば肉まんの場合なら出来立て熱々が好みならその場でふうふうと頬張ればいい。熱いものが苦手ならゆっくり冷まして食べればいい。
けれど氷はそうはいかない。氷が溶けていくまでの短い時間に食べきってしまわなければ、冷たい水と薄まったシロップが残るだけだ。作り手は食べる速度を想定し、それに合わせて氷とシロップを組み立てる。氷が溶ける速度と作り手の計算がピタリと合うと、最後のひと匙まで美味しいかき氷が出来上がるのだ。計算づくなのだろうか、それとも本能なのだろうか、「慈げん」はどの氷も最初から最後までずっと美味い。僕らは気付かぬうちに、作り手の狙い通りに食べ続けるだけなのだ。
▲アンティーク氷削機がずらり

僕は思う、野菜のかき氷は珍しい。他と違うことをやれば面白いだろう、と安易に考える方もいるかもしれない。
けれど、野菜は野菜なりに主張があって、果物の美味しさと野菜の美味しさはずいぶん違う分野のものだ。両方の美味しさを知る店主らによって作り出される野菜のシロップは、決して奇をてらっているわけではなく、新しい野菜の楽しみ方を僕らに教えてくれる。
季節外れと言われるかもしれないが、冬には冬の楽しみ方があるかき氷の食べ歩き、こういう発見があるから楽しいのだ。
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

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