渓谷の谷底にある秘境温泉を訪ねて。祖谷・大歩危の旅

2015.12.14

徳島県西部、吉野川の支流・祖谷川と松尾川の流域に広がる祖谷渓(いやけい)は、岐阜県白川郷、宮崎県椎葉村と並ぶ日本三大秘境の一つ。源平合戦で敗れた平家の残党が隠れ里として逃れ住んだというだけあって、隔絶された深山幽谷の景観が広がっています。そんな祖谷へ出かけました。

四国でも有数の温泉郷として知られる大歩危(おおぼけ)・祖谷温泉郷。今回訪れた「和の宿 ホテル祖谷温泉」は渓谷沿いに佇む温泉宿で、全国の秘湯が名を連ねる「日本秘湯を守る会」に四国で唯一加盟しています。
そんな宿で、宿泊客はもちろん、立ち寄り客からも絶大な支持をあつめているのが露天風呂。そのワケは1日に約2,000トンも湧き出るという、アルカリ性単純硫黄温泉。なんと、“源泉かけ流し”“無加水”“無加温”の温泉なんです。
こちらの露天風呂は行き方もユニーク!ホテルのフロントでお支払いを済ませて向かうのは、宿に併設した駅。実は露天風呂が渓谷の谷底にあるため、ケーブルカーに乗って行くんです。宿から露天風呂までは約170メートル。傾斜角42度の断崖を約5分かけてゆっくりとケーブルカーで下っていきます。美しい渓谷を眺めていたらあっという間に到着しました。
▲体感では傾斜45度以上!大きな窓から渓谷美を眺めながら遊覧気分
渓流にせり出すようにつくられた露天風呂は、まさに秘湯の趣。岩がゴロゴロと連なる川まではほんの数メートルの距離です。「台風で川が増水し、露天風呂ごと流されてしまったこともあるんですよ」とスタッフの方。
▲温泉から見える渓谷の景色。遠く霞がかった山々が秘湯の雰囲気を倍増させます

湯温はややぬるめの38度。湯の花が浮かぶ少し白濁したやわらかいお湯です。「肩までしっかり30分ほど浸かると良いですよ。芯からホカホカになります」とアドバイスいただいたので、お言葉に甘えてゆっくり浸からせていただきました。
▲少し白濁した湯は源泉の証!じっとしていると細かな気泡が肌を覆います

瞳を閉じれば、鳥のさえずりや、渓流がさわさわと流れる音が聞こえてきます。川から吹いてくる冷たい風が、ほてった頬を撫でてとっても気持ちいい~。春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、移り変わる祖谷の自然を眺めながら入浴ができるのも嬉しいですね。
美しい自然に囲まれた秘湯へ、ぜひ、足を運んでみてください。

寄り道も旅の醍醐味。一行は一路、大歩危へ

▲3年に1回架け替えられるという「祖谷のかずら橋」。渡橋料は大人550円(税込)

冷えた体がほっこり温まったところで、小腹がすいた一行は西へ向かいます。道中少し寄り道して、「祖谷のかずら橋」も訪れてきました。国指定重要有形民俗文化財であるこちらのかずら橋。シラクチカズラという植物を編んでかけられたもので、長さ45メートル、幅2メートル、重さ約5トンもあるそう。水面から14メートルの高さにかけられているので、高所がダメな人はちょっとスリリングかも(笑)。
▲道を挟んで建つ、「歩危マート1号店」と「歩危マート2号店」

そして次の目的地は、妖怪伝説が残る「大歩危(おおぼけ)」エリア!JR大歩危駅近くにある「歩危マート」さんへ向かいます。大歩危・祖谷エリアを旅する際は絶対に寄っていただきたいローカルスーパーです。

「今日は愛媛から?遠かったやろ。とりあえず、お茶でも食べていき!」と満面の笑顔で出迎えてくれたのは、“笑顔のおばはん”ことオーナーの山口由紀子さん。
「この地域で“お茶を食べる”っていうのは、ご飯を出したり、お菓子を出したり、お接待することなんよ。ここらへんは秘境って呼ばれるくらい、険しい山間部でしょう?車がなかった時代、険しい山道を歩いて移動する人たちに“お茶食べんかえ”って声をかけて、ご飯をお接待してたんよ。私も子どものころ、よくご年配の方にお茶を食べさせてもらってたわ~」と当時を振り返ります。
▲食堂の軒先には「お茶食べんかぇ~」の暖簾が

真向かいにある、歩危マートの2号店ならぬ食堂「じ~ば~さんのお立ち食い処」でお茶をいただくことに。「じゃ、お茶はこれを挽いて、そこのポットでお湯入れてな。ここらへんでとれた大歩危茶やから美味しいよ~」と山口さん。指差された先にはドーンと茶臼が置かれていました。
力を入れて茶臼を回すと、薄緑の細かな粉茶が脇からサラサラと落ち、辺りにお茶の良い香りが広がります。「自分で挽いて飲むっていうのも面白いやろ?」とにんまり。
お茶を飲みながらくつろいでいると、軒先に何やら四角いものがつるされているのに気づきました。よーく見ると、大きな豆腐と油揚げが縄でくくられているではありませんか。「豆腐は名物の“祖谷豆腐”。大きな油揚げは“ぼけあげ”といって、歩危マートのオリジナル商品よ」と山口さん。豆腐は通常の4丁分ほどの大きさ。「ぼけあげ」にいたっては羽子板くらいの大きさです(笑)。
「ぼけあげ」は豪快に網焼きに。表面がこんがりと焼けたら、たっぷりの大根おろしをのせ、地元でとれた柚子をぎゅーっと搾り、醤油をたらして完成です。皿からはみ出さんばかり…どころか、はみ出してます(笑)。カリカリのあげが、大根おろしと柚子果汁を含んで、なんともジューシーな食感に。
▲ぼけあげ1枚1,000円(税込)。大勢で食べるならこちら。1人前は300円(税込)

もう一品、ぼけあげや祖谷豆腐、祖谷こんにゃくを使用した看板メニュー「ぼけ祖谷汁」(税込400円)をいただきました。椎茸・にんじん・ほうれん草なども入った具だくさんのお汁で、身体がじんわりあったまるー。
食後は隣のマートでお買いものタイム!先ほどのお汁に入っていた、祖谷豆腐やぼけあげ、祖谷こんにゃくももちろん購入できます。店のお母さんたちがつくるお惣菜やお寿司も美味しいですよ。

ちょっぴり怖くて、ちょっぴり可笑しい妖怪に会いに

歩危マートから車で数分、山城町(やましろちょう)は妖怪の伝承が数多く残る地域。60種類もの妖怪がいるといわれています。そんな伝承を後世に伝えるためにできたという「妖怪屋敷と石の博物館」を訪れました。

「妖怪屋敷と石の博物館」は「道の駅 大歩危」内にあるミュージアム。館内には、そのほかにもフードコーナーや売店などが併設されています。
▲「妖怪屋敷と石の博物館」の2階部分が石の博物館コーナー。大歩危渓谷は世界的にも有名な地質学のメッカ。日本列島の誕生についてひもときます
▲ミュージアムショップには天然石を使ったアクセサリーや小物、三好市の特産物などが並びます
いざ、妖怪たちのもとへ!
入館して早々、体長3メートルはあろうかという大天狗が上空からお出迎え。館内には、山城町に伝承の残る大小約90体の妖怪が展示されています。これらの妖怪、実は地域の方々の手づくり。伝承から妖怪の姿を想像し、一つひとつつくりあげたというから驚きです。
そもそも、なぜ山城町にこんなに妖怪の伝承が残っているのか…。「山城町は平地がほとんどなく、自然の厳しさと隣り合わせの場所が数多く残っているからでしょうね」と話すのは、館長の永本和明さん。危険な崖や淵、細くて暗い山道、多発する地滑り。そのような自然の驚異から子どもたちの身を守るために、親が妖怪の話をして、危険な場所へ近づかないように諭していたんだそう。
▲茶碗を片手にもって差し出しているのは「ヒダルガミ」。山道で飢えや疲労、脱水などで亡くなった人の霊。難所とされる峰を越える際、米一粒、水一口でももっていないと憑りつかれて一歩も歩けなくなるそう
▲徳島といえば“狸”!「狸の嫁入り」の様子
▲「ドロメキ淵のエンコ」は河童に似た妖怪で、ドロメキ淵に近づく人や馬を引き込み、尻子玉を抜き取ってしまうそう
怖いお話なのにどこか可笑しく感じてしまうのは、妖怪たちの表情がとってもユーモラスだからでしょうか(笑)。「おお、この狸の妖怪、小学校の頃の担任の先生に似てる!」なんて発見も。妖怪一体一体に解説や目撃情報が書かれているので、じっくり見て回りました。
▲妖怪たちのほかにも、お祓いで有名な「賢見(けんみ)神社」の金幣や御神鏡、山伏が厄除けの札を刷る際に使っていた版木なども展示
展示の最後には、毎年11月に行われる「妖怪まつり」で使われる、妖怪の被り物がずらり!こちらも住民の方たちの手づくり。まつり当日、コナキジジイをはじめ、たくさんの山城妖怪たちがパレードで練り歩く姿は圧巻だそうです。
ケーブルカーでむかう秘湯を満喫し、祖谷の家庭料理をたっぷり味わい、ユーモラスな妖怪たちに癒やされた「大歩危・祖谷の旅」。いかがでしたでしょうか?
「南の方だし、雪なんて降らないでしょ」と思われがちな四国ですが、祖谷・大歩危エリアは、降るときはガッツリ降ります(笑)。その分、観光タクシーやバスが充実しているので、公共交通機関を賢く使って楽しんでください!
伊藤秀美

伊藤秀美

愛媛生まれ、愛媛育ちの編集者。地元の出版社でタウン情報誌、女性誌の編集を経て、旅雑誌「四国旅マガジンGajA」の編集長に。食べること・飲むこと・自然の中で遊ぶことが大好きで、不便さや田舎っぷりもひっくるめて四国を愛している。リサーチ(仕事)と称し、年中、四国中をふらふらしている。

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