「いぶりがっこ」だけじゃない、秋田の「がっこ」四季折々

2016.05.16 更新

「がっこ」とは秋田の言葉で「漬け物」のこと。「雅香」と書くこともあるそうです。たくあんを燻した「いぶりがっこ」は有名ですね。秋田の人たちは、四季折々の旬の素材を次々と「がっこ」にして保存し、ご飯、お酒、お茶のお供としてこの「がっこ」を楽しむのです。

「いぶりがっこ」は全国的にも有名ですが、「いぶりがっこ」の「がっこ」が秋田弁で「漬け物」という意味だとご存知の方は少ないのではないでしょうか?

この「がっこ」、秋田県民にとってはなくてはならないもの。ご飯のお供にはもちろんのこと、酒のつまみ、3時のお茶受けなど、いたるところで「がっこ」は登場します。

驚くべきはその種類の多さです。漬ける素材は白菜、大根、にんじん、ナスなどの定番以外にも、柿、山ぶどう、菊の花、そしてハタハタまで!つまり、果実も花も、魚にいたるまで、秋田ではとにかくなんでも漬けてしまうのです。

そんな「がっこ」づくりへの情熱と評判がきっかけになって、秋田県内屈指の料亭の一つとなった「お多福(おたふく)」へお邪魔しました。
▲「お多福」の社長兼板長の安倍太郎さん

実食!秋田の「がっこ」

「お多福」は秋田一の繁華街、川反(かわばた)の中心地にあります。

夜はコースがおすすめ。「秋田の味コース(全8品 5,500円・税込)」「きりたんぽコースA(6,600円・税込 ※2名より)」「きりたんぽコースB(5,500円・税込 ※2名より)」「お任せコース(5,500円・税込~)」などがありますが、どのコースにも「お多福」自家製の「がっこ」がつきます。

「はい、どうぞ」と板長の安倍さんが出してくださったのがなんと10種類もの「がっこ」!
▲左上からあねっこ漬け、大根のなた漬け。黒い平皿の左上から時計回りに、大根の柿漬け、らっきょう漬け、やたら漬け、赤かぶ漬け、山ごぼうの西京漬け、いぶりがっこクリームチーズのせ、さっと干し大根、いぶりにんじん

まず、きれいなピンクが目にも鮮やかな「あねっこ漬け」。な、なんと、ご飯の漬け物ではないですか!?
▲もち米に赤しそ、にんじん、大根、きゅうりの古漬けなど、いろいろなものが入っている

食べてみるともち米の甘みに甘酸っぱい赤しその風味が口いっぱいにひろがります。

「米麹やもち米など、米を使った『がっこ』が多いのも、米どころ秋田県の、特に南部の『がっこ』の特徴です」と安倍さん。先代だった安倍さんのお母さんが秋田県南部・大曲のご出身だったそう。お料理上手の先代は、大曲周辺の「がっこ」名人たちからさまざまな種類の「がっこ」の味を習ったのだといいます。

続いていただいた「大根の柿漬け」は、砂糖を一切使っていないのに、驚くほどの甘さ。でも後味はとてもあっさりしています。焼酎に漬けた渋柿がこの甘みを出しているのだそう。元が渋柿とは、にわかには信じられない!
そして、みなさんご存知の「いぶりがっこ」ですが、ここ最近のお多福では7~8mm程度の厚みに切って、そこにクリームチーズを乗せて提供するといいます。クリームチーズのコクと、いぶりがっこの燻製の風味に大根のさくっとした歯ごたえのハーモニーがすばらしい一品です。
また、「やたら漬け」は「やたらめったらいろいろなものが入っている」ことから名付けられたそう。大根、ごぼう、にんじん、しその実などいろいろなものが入っていて白いご飯に合い、お茶漬けにしても良いそうです。
▲食べ心地の良いように、季節によって切り方や厚みも変えているそう

「気温や湿度で、『がっこ』の漬け方も変わるけど、食べる人の体調も違う。だから店で出すときも気候に合わせて浅めに漬けたり、しっかり漬けたり、厚めに切ったり、薄めに切ってお出ししたりと工夫しています」と安倍さん。

ぜーんぶ、「がっこ」なのに、一つ一つ、素材の味わいを生かしながら、素材にあった絶妙な味つけと発酵具合によって、なんとも奥深い世界が広がっているのでした。

「大根のなた漬け」の作り方を見せてもらう

今回特別に、「がっこ」づくりを見学させていただけることに。安倍さんのご自宅の一角にある作業場にご案内いただき、この日は「大根のなた漬け」の仕込みを見せてもらいました。

「なた漬け」とは、読んで字のごとく、木を切ったりする道具「鉈(なた)」で大根をザクザクと切ることからその名がついたといいます。

安倍さんがひょいっと大根を手に取るとザクザク、ザクザクと小気味良い音を立てながらどんどん大根を切っていきます。
「昔はもっと大ぶりに切ったものだったけど、最近はお客さんの好みに合わせて気持ち小さめに切るようになりました」と安倍さん。

こうしてなたでラフに切ることで大根の断面がギザギザになり、味がしみ込みやすくなるのだそうです。
▲あっという間に、2本の立派な大根がこの通り

軽く塩をしたところに登場するのが、米麹です。「塩麹」や「寒麹」などがスーパーでも陳列されるようになった昨今ですが、そんなブームとは無関係に、「お多福」の初代にあたる安倍さんのお母さんが自家製で仕込み、作り続けてきたこの麹が、お店の味を支えるもっとも大切なものの一つと安倍さんは語ります。
▲「この米麹だけは、ここの水と空気と温度でないと出せない味なんです」と安倍さん

「一口食べてみます?」従業員の堀井さんがスプーンにすくって差し出してくれました。

口に含むと、ほんのりと優しい甘さ。鼻に抜ける香りは、お米でもあり、お酒でもあり、味噌にも通じるような、つまり、日本人の味覚の根っこの部分が「おいしい!」と思わず反応してしまうような、味わい深さです。

この麹の仕込みは、その日の気温や湿度、連日の天候など、さまざまな要素によってちょっとした塩梅を変えるところにおいしさの秘訣があるそうです。その仕込みを先代から受け継いでいるのが、この道30年以上という堀井さん。
▲「うちの麹の味の出し方は、この人がすべて把握している」と安倍さんが太鼓判を押す堀井さん

「新聞紙や毛布でくるんだりね。今でも昔からずっと変わらない方法でやってるの。先代に教えられたとおり、ずっと」と堀井さん。今では保温ジャーなど便利なものがありますが、「お多福」の麹には昔ながらの方法がやっぱり一番なんだそう。

この麹を惜しみなく大根に加え、彩りの菊の花をぱらりと加えると「なた漬け」の仕込みの完了です。
▲食用菊の花びらは彩りとして秋田の食卓に欠かせません
▲「なた漬け」の仕込みの完成

出てくる、出てくる、数々の「がっこ」

「お多福」の味を支える堀井さんは、まさにスーパー従業員。

「先代に教わるまで、ちゃんとした漬け方なんて知りませんでした。『今日はちょっと長めに寝かせよう』とか、『ちょっと塩を強めに』なんていうのも、先代の背中を見ながら、少しずつ覚えました。ここで働き始めてもう30年以上になりますけど、今でもやっぱり難しいし、奥が深い。先代にね、『がっこには心が入るんだよ』って教わったんです。楽しくて、『がっこ』が大切だから、心が入って、おいしくなるんだと思いますよ」と、「がっこ」歴30年以上の道を振り返って語ります。
▲従業員の堀井さん(左)と伊藤さん(右)。お二人とも麹菌のおかげでお肌は真っ白、しっとりツヤツヤ

堀井さんの後輩の伊藤さんも、勤続20年以上のベテラン。「他にも色々な『がっこ』があるから、見ていかれますか?」そういって、次々と奥から漬け樽を出してくれます。
▲「これがおなじみの『いぶりがっこ』ね」(伊藤さん)
▲「こっちは『梅漬け』。漬ける前はもっと大きかったんですよ」(伊藤さん)

秋田の「梅漬け」は甘酸っぱい味付けにします。ピンポン球よりひと回り以上大きい4Lや5Lというサイズは一般にはあまり出回りませんが、「お多福」では市場に直接買い付けに行き、大きくて味のいい素材を選んでいるのだとか。
▲「これは『ちょろぎ』。秋田の伝統野菜ですね」(伊藤さん)

ちょろぎ、ご存知ですか?おせち料理の黒豆の上に、ちょこんと一粒だけのっていたりします。梅酢に漬けてほんのりとした紅色に漬かった「お多福」のちょろぎのがっこは、大きさも立派。
▲「らっきょうも秋田県産です」(伊藤さん)

「秋田は、冬に野菜がとれない地域ですから、『がっこ』は旬の野菜を塩蔵して、保存するための古(いにしえ)の知恵でした。かといって、塩っけばかりでは味も同じになってしまうから、そこから少し塩抜きをして、甘酢や味噌、醤油や米麹などいろいろな調味料を加えて味付けをすることでこれだけのバリエーションが生まれたわけです。また、『がっこ』は氷点下から5度以下のあたりを行ったり来たりすることでおいしさが増すんです。その点でもやはり秋田の気候に合っているんでしょうね」と安倍さん。

お店の名前の由来となった「お多福」は、先代が命名しました。「お多福さんのように心優しい人でありたい」という先代ご自身の願いを込めたのだそう。このお多福さん像は、1973年の開店当時から、今でもお店の大切な守り本尊となっています。
▲安倍さんのお父さんから先代へのプレゼントだったそう

「お多福」のぴしっとしたのれんをくぐれば、秋田の美味は約束されています。四季折々に味わえる秋田の「がっこ」をぜひ本場で味わってみてください!
伊丹直

伊丹直

編集者、ライター。東京で10年間の出版社勤務ののち、2013年春から秋田へ移住。生活文化ジャンルの雑誌で執筆のほか、地域情報を発信するメディアなどで企画、編集を行う。 (編集/株式会社くらしさ)

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP