年間で160種類!“島のジャム屋”が伝える、本当のジャムの魅力とは?

2016.02.03

ジャムはパンに塗るだけではない――。山口県周防大島町にある“島のジャム屋”が全国にファンを増やし続けています。約40種類の果実や野菜から製造されるジャムやマーマレードは、年間でなんと160種類!誰もが魅了されるその美味しさの秘密とは?

▲初めて出会うジャムもたくさん!

山口県大島郡周防大島町の産業の支柱は農業、漁業、観光業の3本柱。特に温州みかんを始めとする柑橘類の栽培が盛んなことから「柑橘の島」「みかんの島」とも言われています。

また、近年では「起業の島」としても脚光を浴びており、新たな移住者たちによる「起業」が島の魅力をさらに増幅させています。カフェやレストランといったお店のオープン、新名物の誕生など、遊びに行けば行くほど新たな魅力に出会えます。
▲島には多くの魅力が生まれ、季節にかかわらず、年間を通じて多くの人が訪れている

今回紹介する“島のジャム屋”こと手作りジャム専門店「瀬戸内ジャムズガーデン&ファーム」は周防大島を代表する人気店の一つ。「島に行くなら絶対に寄りたい!」と多くの人を魅了するその秘密を美味しく体験してきました!

ジャム屋のカフェで味わう魅惑のスイーツ

島をぐるりと回る主要道路からはずれて海辺の集落へ。左に小さな砂浜、そしてすぐに右に見えてくるのが「瀬戸内ジャムズガーデン&ファーム」です。
▲「瀬戸内ジャムズガーデン&ファーム」の入口看板。目の前には瀬戸内海が広がる
▲左が「ジャムズブティック」と呼ばれる店舗、右が「ジャムズカフェ」

店舗である「ジャムズブティック」には常時約20~30種類の季節のジャムやマーマレードが整然と並びます。色彩豊かなさまざまなジャムが詰まった瓶がずらりと並ぶ様子はまさに壮観です。
▲店内の棚には、色鮮やかな季節のジャムがずらり!

購入して帰って、パンに塗って食べる…、それはどんなジャムでも、誰にでもできる一般的な食べ方。同店が多くの人を魅了する理由は、珍しいジャムの製造と新しい食べ方の提案にあります。

そのヒントは隣接するカフェにあります。ジャムを購入する前にまずはこちらに足を運んでみました。
▲カフェの窓からは海が望める。奥にはギャラリーや雑貨スペースも

取材に訪れた2015年12月、カフェでは「島いもスイーツフェア」の真っ最中。周防大島のブランドさつまいも「東和金時」で作られたジャムをふんだんに使った特別メニューが味わえました。

最初に注文したのは「クルミとチーズのスイートポテトピザ」。ピザを焼いてからジャムをのせるのではなく、チーズと一緒にたっぷりジャムをのせてから焼き上げます。
▲「クルミとチーズのスイートポテトピザ」(税込790円)

「デザートピザ」「スイーツピザ」というジャンルのものは食べたことはありますが、ピザにジャムのトッピング、それも焼いたジャムは初体験。さっそく焼きたての熱々を頬張ります。

ほっこり甘いさつまいものジャムに微かなチーズの塩加減、お互いが引き立て合ってなんとも絶妙な味わい。東和金時のジャムの甘さがとにかく優しい~!
▲一口食べれば、今まで抱いていたジャムに対する考え方が変わるはず

お芋のピザのお供に選んだのは「お芋ラテ」。東和金時のジャムをミルクに混ぜて仕上げるホットドリンクです。
▲ほっこり和みたい人にオススメの「お芋ラテ」(税込450円)

こちらもとにかく優しい甘さが印象的。ミルクのあとにふんわり広がるお芋の風味がなんともふくよか…思わず幸せな気分に浸ってしまいます。

続いて、お店の手作り「島カヌレ」を注文。外はこんがり、中はしっとり濃厚、ジャムとの相性を第一に考えて創作された一品です。
▲「島カヌレ」島いも三昧のトッピング(1個盛り税込590円、2個盛り税込1,080円)※価格はトッピング込み、写真は2個盛り

「島いもスイーツフェア」開催中ということで、トッピングは東和金時のジャムと、そのジャムが混ぜ込まれた「島いもアイス」、さらにコンポートとまさにお芋づくし。カヌレにジャムをのせたり、アイスを絡めたり、食べ方はお好みで、あれもこれも美味しそうで目移りしてしまいます。

なお、いちご(春)、ブルーベリー(夏)、いちじく(秋)といった季節のフェア開催期間中のトッピングは、テーマごとのジャムづくしとなります。3月から5月末までは「春いちごスイーツフェア」が開催されます!
▲「春いちごスイーツフェア」で味わえる「春いちごスイーツピッツァ」(税込790円)/写真提供:瀬戸内ジャムズガーデン
▲同じく「春いちごスイーツフェア」で味わえるタルト「いちご島」(税込900円)/写真提供:瀬戸内ジャムズガーデン

この他にも「南の島ラッシー」(税込450円)、「ジャムトースト」(税込460円、13時までドリンク付き)、「手作りあたたかスコーン」(税込400円)など、気になるメニューばかり。ほとんどのメニューに共通するところは「自宅でも真似できそう」なところにあります。

ジャムはパンに塗ったり、ヨーグルトにかけたりするだけでなく、一つの食材としていろいろな食べ方を楽しめる――。カフェはオーナーの松嶋匡史(ただし)さん・智明(ちあき)さん夫妻の提案の場でもあるのです。

初めて出会うジャムがいっぱい。購入前にまずは味見を楽しもう!

ジャムの美味しさを堪能してお腹を満たしたら、「ジャムズブティック」と名付けられたジャム売り場へ。「新作」「オススメ」「人気」などのポップが添えられていますが、あれもこれも…目に入るすべてのジャムが美味しそう!

2月には「きんかん蜂蜜マーマレード」「きよみアールグレイマーマレード」「早春いちごジャム」などが並びます。なお、お店では「ジャム図鑑」(ウェブサイトでも閲覧可能)が配られており、年間で購入できる主なジャムが月単位で紹介されています。
▲「ジャム図鑑」ではオススメの珍しいジャムの紹介もされている

また、ジャム売り場を「ブティック」と名付けた背景には、「しっかり味見(=試着)をして、好きなジャムを選んでもらいたい」という思いが込められており、ブティック内には多くの種類のジャムで試食が用意されています。
▲店頭に並ぶほとんどのジャムで試食が用意されている

一部のジャムの瓶に貼られた「焼きジャム」のシールも要チェック!「焼きジャム」とは温めるとさらに美味しく味わえるジャムで、オーナーが提案する新しい食べ方の一つでもあります。

「せっかく焼きたてのトーストに冷たいジャムを塗っても美味しくない…という率直な感想から生まれた商品です。『焼きジャム』シールのあるジャムは、ぜひパンに塗って一緒に焼いてください」と匡史さんは話します。
▲瓶のラベルの「焼きジャム」シールに注目

さて、早速人気商品を試食してみました。

まずは人気の定番「ブルーベリージャム」。工房前の自家農園で夏に栽培されたブルーベリーが使用されています。
▲「ブルーベリージャム」(税込700円)は自家栽培果実を使った最初の製品で、お店にとって最も思い入れの強いジャム

べったりとした甘さは一切なく、ブルーベリーそのものの果実としての甘みと爽やかな香りが楽しめます。ヨーグルトやバニラアイスととても相性がよさそうな、限りなくシンプルゆえにクセになりそうな美味しさです。
▲オーソドックスなブルーベリージャムとは一線を画した鮮烈な味わい

お次は、訪問時(12月)の一番人気「厚保(あつ)くりのつぶつぶ贅沢ジャム」。山口県美祢市のブランド栗「厚保くり」が使われています。

栗のジャムは初体験。砂糖の甘さは控えめで栗の実の濃厚な甘さが際立ちます。その名の通りとても贅沢な味わい、ジャムをそのまま食べてもスイーツとして成り立ってしまいそうです。
▲「厚保くりのつぶつぶ贅沢ジャム」(税込920円)
▲風味豊かな栗の味わいが存分に堪能できる

カフェメニューでも使用されている「島の東和金時ラムジャム」も冬期の人気商品。さつまいも好きにはたまらない一品です。

お芋の優しい甘さにラム酒の風味、味見をしてしまうと止まらなくなりそう…。このジャムは「焼きジャム」としてもオススメの品。パンに塗ってぜひジャムトーストを作ってみましょう。
▲「島の東和金時ラムジャム」(税込650円)
▲焼きジャムトーストを作ってみました。左はジャムにとろけるチーズをトッピング。お芋の甘さの後に広がるラムの風味がたまらない!

最後は“本日のスタッフのオススメ”として並んでいた「大島みかんとりんごのジャム」。みかんとりんご、どちらも冬の定番果実でありながら一緒に保存するのは通常は避けた方が良いとされていることを考えると、面白い組み合わせですね。

みかんとりんご、双方の甘さと酸味は意外にも相性抜群。フルーツ感たっぷりで、カフェのメニュー「マーマレードジンジャー」に倣って炭酸で割って飲んだり、紅茶にいれたり、ドリンクでのアレンジが楽しめそうです。
▲冬の二大人気フルーツが織りなす、ありそうでなかった「大島みかんとりんごのジャム」(税込650円)

なお、ここで紹介したジャムは12月時点で販売されていたものです。季節の移り変わりとともに、日ごとにラインナップが変わるからこそ、何度も店を訪れる楽しみがあります。

果物一つ一つの美味しさを生かすジャム作り

「瀬戸内ジャムズガーデン&ファーム」では、果物本来の美味しさをそのまま表現するという点にこだわってジャムやマーマレードが製造されています。まず、無添加による加工が前提で、果物を煮込む際は化学的精製がされていない種子島産の「洗双糖(せんそうとう)」という砂糖が使われます。

次に、欧米などのジャムは糖度60度が一般的ですが、同店のジャムは日本におけるジャムの基準糖度の最低値である40度。低糖度だからこそ、果実の風味や味わいがしっかり残り、よりフルーティな美味しさが楽しめるのです。
▲蓋を開ければフルーツそのものの美味しそうな香りが漂う

また、果物は国内産、特に地元の周防大島産にこだわって選ばれています。島内の農家50軒から約40種類の果物や野菜を仕入れ、さらに耕作放棄地などを譲り受けて、栗、レモン、ライム、ブラッドオレンジ、いちじく、さつまいもなど10種類以上をジャムの素材として自家栽培しています。
▲工房付近の丘陵で自家栽培にも取り組んでいる

ジャムの材料となる果実は、傷がついていたり色が悪かったり、果実そのものとして商品価値のないもの、つまり「加工するしか利用方法がないもの」が一般的といいます。しかし、松嶋さんたちは「ジャムにしておいしい果実」という視点で素材を選んでいます。

「果物はそのまま食べて美味しい時期と、ジャム加工に最適な時期は必ずしも一致しません。そのままでは食べられなくても、ジャムにすると美味しく食べられる果物もあります」と匡史さんは話します。

また、同じ果物でも一つ一つがまったく同じ味ということはなく、収穫場所、収穫タイミング、年ごとの気候や日照時間、さらに実った木によってなど、さまざまな要因によって味も変わるのだそうです。

松嶋さんたちが自家農園で次々に新しい果物の栽培に挑み続けるのも、生産現場に直に接することで、果実の個性を把握しさらに美味しいジャム作りに生かそうという意図があってのものです。

都市部ではなくあえて果実生産地のど真ん中に工房を構えた松嶋さん夫妻。実際に生産現場に寄り添って、また自ら携わって、果物について理解できたことはたくさんあったといいます。
▲自家農園で栽培されているレモン。生産現場に身を置いてこそ知り得る知識は数多いという

“島のジャム屋”が生み出した「起業の島」のうねり

“島のジャム屋”が誕生するきっかけは、2001年に松嶋さん夫妻が新婚旅行で訪れたフランスにあります。現地のジャム(フランスではコンフィチュール)専門店で出会ったのは、日本で見知っていたジャムとは根底から異なる、デザートとしての扱いの奥深さでした。

衝撃を受けた匡史さんが「こんな食文化が日本にあれば良いのに」と思い描いたのがすべての始まり。名古屋市で会社勤めを続けながらジャム作りに没頭し、ジャム工房の創業を目指すようになりました。
▲オーナーの松嶋匡史さん、智明さん夫妻。智明さんは実家のお寺で副住職も務める

智明さんの故郷・周防大島は、過疎・高齢化に直面していましたが、あえて移住し創業の地として島を選んだことには、果実の産地であるという理由とはもう一つ別の理由がありました。

島では確かに、柑橘類を中心に多彩な果実が栽培されていました。しかし、正規に価値が見いだされず、場合によっては流通すらしない果実も数多いという現実がありました。松嶋さん夫妻が最初に商品化した「いちじくジャム」も、出荷されずに実が開ききって商品価値がないとされるものを農家から譲り受けたものでした。

「相応の価値を付けて果実を買い取れば、農業の衰退の阻止にも繋がり、儲かることが分かれば就農を希望する若い人も現れるかもしれない。さらに工房の事業が拡大できれば、雇用創出にも寄与できる。地域のために、島の果実を生かしてここでしかできないジャム作りをしたいと考えました」と匡史さんは振り返ります。
▲松嶋さん夫妻の取り組みには山口県農林総合技術センターなども協力。最新の栽培技術の実証や試験も兼ねて進められている

「元々島に暮らす人も新たに島に移住してきた人も、周防大島にはいろんな人がいて、多様性に富んだ島。こうした多くの人によって眠っていた資源が掘り起こされ、島外の人の心を引きつけるようなたくさんの活動が生まれ続けています。先駆者として新たな移住者の起業の力にもなりたいとも思っています」

店舗の前庭には、2011年から自家栽培に取り組み始めたブルーベリー農園があり、夏には収穫体験が楽しめます。ジャム紹介でもふれたように、ブルーベリーは栽培から製品化まですべて自家で手がけた最初の果実であり、松嶋さん夫妻にとっても思い入れはひとしおです。

新しいジャムを提案し続けることはもちろん、自家栽培で培ってきた知識や経験を生かして、将来的には収穫からジャム作りまで楽しめる「農園型テーマパーク」を作りたいという構想を匡史さんは話してくれました。
▲工房前のブルーベリー農園。収穫期は夏で、秋から冬にかけては鮮やかな紅葉も楽しめる

季節の移り変わりとともに、次々に新しいジャムが登場する“島のジャム屋”。ここに来れば、オーナーがフランスで受けた「ジャム文化」の衝撃を誰もが理解できるはずです。

きょうはどんなジャムに出会えるか、それは扉を開いてからのお楽しみ!
兼行太一朗

兼行太一朗

記者兼営業として、地元山口の地域情報紙に14年間勤務。退職後はNPO法人大路小路ひと・まちづくりネットワークに籍を置き、守護大名大内氏や幕末における歴史資源の取材に携わる。同時にフリーライターとして活動しながら、たまに農業も。自称ネコ写真家。(編集/株式会社くらしさ)

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