100%原料自給を目指す、埼玉のマイクロブルワリー「麦雑穀工房」の穀(コク)香る地ビール
一言に“地ビール”といっても、その土地で採れる原料のみで造られるものは多くない。そんななか、原料から自分たちで手掛け、正真正銘の“地ビール”づくりを目指すブルワリーが埼玉県にある。「麦雑穀工房」のビールに迫った。

駅からほど近い場所に構えられたビール工房兼バーには、休みの日ともなるとその地ビールの味を求め、地元のみならず町外からのお客さんで溢れかえるという。

店内はカウンターのみの設えで、お客さんとの距離感を大切にしている様が伝わってくる。


このカウンターキッチンのすぐ裏が、ビール醸造のための工房となっているから、蔵出し生ビールがすぐに味わえるというわけだ。

通年での定番は「雑穀ヴァイツェン(白)」と「おがわポーター(黒)」の2種。

ドイツ風白ビールを独自にアレンジしたという「雑穀ヴァイツェン」には、大麦麦芽・小麦麦芽に加えてなんとライ麦、キビ、アワが加えられているという。一口飲んでみると、穀(コク)の香りが口いっぱいに広がった。そして、味わいまろやか。よく「飲み物のパン」とも表現されるようだが、その意味がよく分かる。
続いて、イギリスの伝統スタイルのビールをアレンジした「おがわポーター」を賞味。

「おがわポーター」は焙煎した大麦麦芽、ホップを原料にした黒ビールだが、想像していた黒ビールの味わいよりもすっきり。これなら黒でもゴクゴクイケてしまいそう。何よりもローストした黒麦芽の風味が絶妙なアクセントだ。
どちらも素材の味をしっかりと感じる仕立てになっている。この滋味深い味わいこそが、「麦雑穀工房」のクラフトビールなのだ。
ほかに、年間で30~40種類ものビールを醸造しており、常に新しいビールの味が楽しめるのもうれしい。それも地元の原料を使用したビールで、春には甘夏やゆずなどの柑橘系、夏には山モモや梅、秋にはなんとねこじゃらし、そして冬にはレモンという具合だ。

季節に合わせて、夏にはすっきりと飲みやすいビールを、冬にはじっくりゆっくり飲めるビールを生み出しているという。
原料100%の自給を目指す
そう話すのは「麦雑穀工房」を営むご主人の鈴木等さん。2007年に奥さんのお父さんからブルワリーを引き継ぎ、2代目をつとめる。

ビールの原料といえば、主に大麦とホップ、そして酵母。大麦は作れても、それを麦芽に生成する技術が必要になる。さらに、安定的に働く酵母を生み出すのは至難の技だ。
そんな中、既に小川町産の麦芽100%とホップを使って醸造したビールを実現させている。毎年、春と秋に限定醸造されている「霜里麦酒」がそれだ。
それでも、年間使用している麦芽量で見ると、麦芽の自給率は全体の20%程度。ホップを含めて原料のすべてを小川町産で賄えるようにするのが目標だという。
「造ったビールの反響が、すぐにバーで跳ね返ってくる。これが原動力になるんですよね。お客さんにわざわざ小川町まで飲みに来てもらっているので、徹底的に小川町産にこだわったビールを造れたらと思っています」
また、原料にこだわる「麦雑穀工房」にとって、同じ穀類(もしくは麦類)を用いるパンを作って提供するようになったのも、当たり前の流れだったのかもしれない。


モチモチの固形のパンを食べながら、飲み物のパン(ビール)を流し込む。なんとも豊かな気分に浸れる瞬間だ。
同じくフードメニューの小川町産の季節の野菜は、どれも力強くやさしい味わい。

それもそのはずで、ここ小川町は、知る人ぞ知る有機農業の里でもあるのだ。全国から有機農業を学びに来るファーマーも多く、有機野菜を求めて訪ねる人も少なくない。
「父も農業を求めて、この地にたどり着いた一人でした。ビール造りは、農業の一環でもあったんです」

百姓のひとつのビジネスモデルに

その頃は周りに麦を育てている農家も数軒あったそうだが、時代の流れからか、いつしか麦を栽培するのは馬場さん一軒に。さらに、収穫した麦は製粉するのも一苦労で、消化しきれず、段々と物置に溜まっていくことに頭を悩めていたそう。

「そんな折、ビール造りのことを知ったんです。ビールなら籾殻がついたまま砕くだけで使うことができる。さらにビールのように付加価値が付けられれば、麦をつくる農家が生き残っていく術になりえるのではないか」
しかし、世は地ビールブームが一段落したタイミング。周囲からは猛反対されたそう。
それでも、家族で運営してビアパブ形態をとり経費をおさえれば、成功の可能性が高いと考えた。そこで、インターネットを活用して、Webと電子メールでヨーロッパや北米の中古醸造設備類を格安で調達。メーリングリストを立ち上げて全国各地の地ビール愛好家・ボランティアの知識や労力を借りて醸造免許の取得をはじめ施設、設備工事、製品開発を行った。


こうして小川町産の麦100%のビールを完成させたのだ。ビール醸造の過程で生まれる麦芽カスは、畑の生き物に還元する循環農業のサイクルも作り上げていった。
そんな馬場さんだったが、実はアルコールは苦手というから驚きだ。ビールのレシピも少しずつ味見しながら、生み出していったそうだ。

馬場さんから鈴木さんへ工房の経営が引き継がれても、モチベーションの源は12席のカウンターバー。

ビールがのどを通るとき、豊かな里山の風味を感じられることだろう。
麦雑穀工房
埼玉県比企郡小川町大塚1151-1
[営業時間]水~土曜 15:00~19:30 L.O. /日曜・祝日 11:00~18:30 L.O.
[定休日]月曜・火曜
0493-72-5673

長谷川浩史・梨紗(株式会社くらしさ)
広告出版社を退職後、世界一周、日本一周を経て「くらしさ」を設立。全国各地のモノ・コト・ヒトを伝え、つないでいく活動に尽力している。全国の仕事人に会いに行ける旅「Life Design Journey」も運営。http://lifedesign-j.com/
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