100%原料自給を目指す、埼玉のマイクロブルワリー「麦雑穀工房」の穀(コク)香る地ビール

2016.02.24

一言に“地ビール”といっても、その土地で採れる原料のみで造られるものは多くない。そんななか、原料から自分たちで手掛け、正真正銘の“地ビール”づくりを目指すブルワリーが埼玉県にある。「麦雑穀工房」のビールに迫った。

池袋駅から東武東上線で1時間余り。近年、ユネスコの無形文化遺産に登録された「細川紙」の産地としても知られる埼玉県小川町に、「麦雑穀工房」はある。

駅からほど近い場所に構えられたビール工房兼バーには、休みの日ともなるとその地ビールの味を求め、地元のみならず町外からのお客さんで溢れかえるという。
▲味わいのある看板が、クラフト(手づくり)感を彷彿とさせる

店内はカウンターのみの設えで、お客さんとの距離感を大切にしている様が伝わってくる。
▲席はL字のカウンター12席のみ。週末は早めの時間帯に行くのがオススメ
▲カウンター裏の棚には、店主が飲んできたという国内外の地ビールの空き瓶が並ぶ

このカウンターキッチンのすぐ裏が、ビール醸造のための工房となっているから、蔵出し生ビールがすぐに味わえるというわけだ。
▲タンクの大きさも500リットルと小規模醸造を心がける

通年での定番は「雑穀ヴァイツェン(白)」と「おがわポーター(黒)」の2種。
▲雑穀ヴァイツェン(420ml)税込500円

ドイツ風白ビールを独自にアレンジしたという「雑穀ヴァイツェン」には、大麦麦芽・小麦麦芽に加えてなんとライ麦、キビ、アワが加えられているという。一口飲んでみると、穀(コク)の香りが口いっぱいに広がった。そして、味わいまろやか。よく「飲み物のパン」とも表現されるようだが、その意味がよく分かる。

続いて、イギリスの伝統スタイルのビールをアレンジした「おがわポーター」を賞味。
▲おがわポーター(400ml)税込500円

「おがわポーター」は焙煎した大麦麦芽、ホップを原料にした黒ビールだが、想像していた黒ビールの味わいよりもすっきり。これなら黒でもゴクゴクイケてしまいそう。何よりもローストした黒麦芽の風味が絶妙なアクセントだ。

どちらも素材の味をしっかりと感じる仕立てになっている。この滋味深い味わいこそが、「麦雑穀工房」のクラフトビールなのだ。

ほかに、年間で30~40種類ものビールを醸造しており、常に新しいビールの味が楽しめるのもうれしい。それも地元の原料を使用したビールで、春には甘夏やゆずなどの柑橘系、夏には山モモや梅、秋にはなんとねこじゃらし、そして冬にはレモンという具合だ。
▲ねこじゃらしビール/秋限定(270ml)税込500円

季節に合わせて、夏にはすっきりと飲みやすいビールを、冬にはじっくりゆっくり飲めるビールを生み出しているという。

原料100%の自給を目指す

「まだまだ難しいんですけど、原料も100%、地元産で造るのが夢なんです」

そう話すのは「麦雑穀工房」を営むご主人の鈴木等さん。2007年に奥さんのお父さんからブルワリーを引き継ぎ、2代目をつとめる。
▲オーナーの鈴木さん。もともと飲むのも食べるのも大好きだそう

ビールの原料といえば、主に大麦とホップ、そして酵母。大麦は作れても、それを麦芽に生成する技術が必要になる。さらに、安定的に働く酵母を生み出すのは至難の技だ。

そんな中、既に小川町産の麦芽100%とホップを使って醸造したビールを実現させている。毎年、春と秋に限定醸造されている「霜里麦酒」がそれだ。

それでも、年間使用している麦芽量で見ると、麦芽の自給率は全体の20%程度。ホップを含めて原料のすべてを小川町産で賄えるようにするのが目標だという。

「造ったビールの反響が、すぐにバーで跳ね返ってくる。これが原動力になるんですよね。お客さんにわざわざ小川町まで飲みに来てもらっているので、徹底的に小川町産にこだわったビールを造れたらと思っています」

また、原料にこだわる「麦雑穀工房」にとって、同じ穀類(もしくは麦類)を用いるパンを作って提供するようになったのも、当たり前の流れだったのかもしれない。
▲木の実ロール(税込300円)
▲手前「本日の自家製パン(税込200円~)」と奥「ビアシュタイゲン(税込100円/1本)」

モチモチの固形のパンを食べながら、飲み物のパン(ビール)を流し込む。なんとも豊かな気分に浸れる瞬間だ。

同じくフードメニューの小川町産の季節の野菜は、どれも力強くやさしい味わい。
▲自然力野菜プレート(左から赤カブの柚子胡椒ソースがけ、キャロットラペ&ルッコラ、菊芋の漬け物、キャベツのピクルス)税込350円

それもそのはずで、ここ小川町は、知る人ぞ知る有機農業の里でもあるのだ。全国から有機農業を学びに来るファーマーも多く、有機野菜を求めて訪ねる人も少なくない。

「父も農業を求めて、この地にたどり着いた一人でした。ビール造りは、農業の一環でもあったんです」
そう話すのは、等さんの妻で初代オーナーの娘、鈴木由実子さん。ビール醸造を担当する等さんに対し、由美子さんはパン作りと調理を担当している。そして、初代オーナーのお父さんはというと、今や畑専門。まさに家族ぐるみで成り立っているのだ。

百姓のひとつのビジネスモデルに

鈴木由実子さんの父、馬場勇さんが小川町で「麦雑穀工房」を立ち上げたのは2003年のこと。元々大学で教鞭をとっていた馬場さんが千葉県柏市から移住したのも、農業を目的としてのことだったそう。
▲自然栽培で穀類や野菜を育てる、「麦雑穀ファーム」の馬場さん

その頃は周りに麦を育てている農家も数軒あったそうだが、時代の流れからか、いつしか麦を栽培するのは馬場さん一軒に。さらに、収穫した麦は製粉するのも一苦労で、消化しきれず、段々と物置に溜まっていくことに頭を悩めていたそう。
▲納屋に保管されていた麦莢

「そんな折、ビール造りのことを知ったんです。ビールなら籾殻がついたまま砕くだけで使うことができる。さらにビールのように付加価値が付けられれば、麦をつくる農家が生き残っていく術になりえるのではないか」

しかし、世は地ビールブームが一段落したタイミング。周囲からは猛反対されたそう。

それでも、家族で運営してビアパブ形態をとり経費をおさえれば、成功の可能性が高いと考えた。そこで、インターネットを活用して、Webと電子メールでヨーロッパや北米の中古醸造設備類を格安で調達。メーリングリストを立ち上げて全国各地の地ビール愛好家・ボランティアの知識や労力を借りて醸造免許の取得をはじめ施設、設備工事、製品開発を行った。
「百の仕事までをやるのが百姓ですから。何から何までやりました」と話す馬場さんは、ついには、難しいとされた麦から麦芽を造る製麦までを、自分で手掛けるように。
▲庭先で、収穫した麦を天日干しする

こうして小川町産の麦100%のビールを完成させたのだ。ビール醸造の過程で生まれる麦芽カスは、畑の生き物に還元する循環農業のサイクルも作り上げていった。

そんな馬場さんだったが、実はアルコールは苦手というから驚きだ。ビールのレシピも少しずつ味見しながら、生み出していったそうだ。
「工房と併設したバーで、私が作ったビールがどう受け止められるか。美味しいと言ってもらえることがモチベーションでしたね」

馬場さんから鈴木さんへ工房の経営が引き継がれても、モチベーションの源は12席のカウンターバー。
そんな想いの詰まったカウンターバーへ、小川町の穀(コク)を味わいに行ってみてはいかがだろうか?
ビールがのどを通るとき、豊かな里山の風味を感じられることだろう。
長谷川浩史・梨紗(株式会社くらしさ)

長谷川浩史・梨紗(株式会社くらしさ)

広告出版社を退職後、世界一周、日本一周を経て「くらしさ」を設立。全国各地のモノ・コト・ヒトを伝え、つないでいく活動に尽力している。全国の仕事人に会いに行ける旅「Life Design Journey」も運営。http://lifedesign-j.com/

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP