「甲州みそ」を伝える老舗の“発酵兄妹”から味噌づくりを教わる!

2016.03.27

味噌は、昔はどの家庭でも“手前味噌”として手づくりされていたもの。この手前味噌文化や食を通した交流を広めていくために、山梨県甲府市にある創業明治元年の「五味醤油」の若き後継ぎ兄妹が、蔵の敷地内に食の体験スペース「KANENTE(カネンテ)」を2016年2月にオープンさせました。意外と簡単に、しかもほとんど手ぶらでできてしまうという味噌づくりを体験してみました。

そもそも甲州味噌ってどんな味噌?

「五味醤油」では、昔ながらの製法にこだわって甲州味噌を中心に醸造しています(醤油は約20年前からお休み中)。味噌のバリエーションは原料である麹の種類で決まりますが、甲州味噌は米麹と麦麹を大体半分ずつミックスした、甲府ならではの合わせ味噌。

狭い盆地で斜面が多く米の収穫が少なかった甲府では、麦を裏作として育てることで米麹と麦麹を合わせて味噌をつくるようになったと言われています。
▲甲州やまごみそ(小) 540円(税別)。発酵を止めていないため、時間の経過とともに風味も変化する

甲州味噌の味は、さっぱりした関東や東北の米味噌に似ていて、そこに九州の麦味噌の甘みがミックスされてしつこくないのにまろやかという印象。甲府の郷土食にほうとうがありますが、このほうとうのベースになっているのが実は甲州味噌なんです。

甲州味噌造りを体験!

このあまり知られていない甲州味噌のことや、手前味噌文化を伝えるために、各地で味噌づくりワークショップを開催しているのは“発酵兄妹”こと、五味醤油6代目の五味仁(ひとし)さんと妹の洋子さん。
“発酵兄妹”は、幼稚園や公民館、イベントスペースなどに出張して味噌づくりをレクチャーしていましたが、蔵の敷地内に新しく手前味噌がつくれる食のワークショップスペース「KANENTE」を新設しました。

「KANENTE」という名前は、建物の建つ地元の金手自治会に由来します。甲府のまちに根ざして発展していくようにという意味を込めて命名したそう。
▲富士山のような独特な外観が目印の「KANENTE」。この形は屋号にもなっている“やまご”のマークと同じ形

「KANENTE」では、エプロンと三角巾(帽子)さえあれば手ぶらで来てお味噌がつくれてしまいます。

「昔はどの家庭でも手づくりされていたので、実は失敗もほとんどなく味噌はつくれます。『KANENTE』での味噌づくりは材料も全部用意していて、煮大豆に麹と塩を混ぜるだけなんですよ」と洋子さん。

混ぜるだけ?本当にそんな簡単にできてしまうのか、早速つくってみたいと思います。

その前に日本各地の味噌の種類や、原材料の話など“発酵兄妹”から簡単なレクチャー。兄妹の息のあった掛け合いで場も和みます。
▲スライドで味噌にまつわる話をレクチャーする“発酵兄妹”

それではいざ味噌づくりスタート!まず、用意されたボウルに2種類の麹を入れてよくほぐしていきます。細かく砕くと麹のとてもいい香りがしてきます。よくほぐれたら、今度はボウルに塩を入れてよく混ぜます。
▲左上の茶色いのが麦麹、右にある少し白いのが米麹
▲塩は麹菌だけが発酵できるように、他の菌をシャットアウトする役目なんですって

両手の手のひらで擦るように麹を砕き、全体的に麹と塩が一体になるようにしていくのがポイントだそう。麹をずっと触っていると手がしっとりとしてきました。独特な触り心地です。ここまでが下準備。

自分で味噌を仕込む時には、大豆を煮てすりつぶすという作業が一番始めにありますが、「KANENTE」での味噌づくりでは、その工程をあらかじめ事前にしてくれています。
▲煮た大豆を実際つぶしていくのは大変な作業。KANENTEでは、ミキサーで前もって大豆をミンチ状にし、手でこねやすくしている

麹と塩を混ぜたボウルに煮大豆を入れ、手でつぶしながら混ぜていきます。塩麹と大豆を混ぜる時は、手のひらの下の部分で押しつぶすように混ぜて今度はそれをお団子にします。味噌玉にするのは容器に入れる際に空気を抜いて詰めるため。
▲味噌玉は直径5cmくらいが目安だそう

たくさんの味噌玉ができました。ここまできたら、もう終盤です。麹の仕込みから、ここまでで大体30分ほど。

続いて、できた味噌玉を保存容器の底に「えいっ!」と投げつけていきます。ほんとうに投げつけるんですよ。ここでも空気ができるだけ入らないようにするために、めいっぱい投げつけるそう。
▲味噌玉を勢い良く投げ込み過ぎて、的をはずさないように注意
▲空気を一生懸命抜くことで、酵母菌が働き風味豊かなみそになるそう
▲詰め終わったら上から塩をまぶしてラップをして、その上に重しをのせて蓋をしたら完了

参加者のみなさんと会話したり、夢中になっていたら50分ほどであっという間に仕込むことができました。ほんとにこねて混ぜるだけ。下準備がされているからこそですね。

といっても、できあがるのはまだこれから先。仕込んだ保存容器は持ち帰ってなるべく温度変化のない冷暗所で保管します。甲州みそは半年以上じっくり寝かせて赤味噌にして完成です。そう、味噌づくりには待つ楽しみもあるんです。
▲みんなでワイワイ味噌づくり

味噌を仕込んでいる間、“発酵兄妹”のアドバイスや食や地域の面白い話もあり、参加者同士の会話がうまれるきっかけにもなっていました。仲のよい友人同士、お一人での参加の方もいましたが、終始和やかな共同作業ができました。最後はみんなでお茶やコーヒーを飲みながら世間話に花が咲きました。

「KANENTE」では10:30~、14:00~、19:00~の1日3回の手前味噌づくり教室を随時開催しています。平日の夜、仕事帰りに味噌づくりというスタイルがもしかしたら定着していくかもしれません。

味噌屋だからこそできる役目

どうして味噌を売る味噌屋が家でつくる手前味噌を広めているの?世間が家で味噌をつくるようになったら商売成り立たないんじゃないの?と、そんな疑問が浮かびました。

これまでは、呼ばれれば県外まで味噌づくりワークショップをしに出向いていた2人ですが、実際に味噌をつくっている場所に来てもらうことも必要だと考えるようになったと言います。
▲味噌づくりに参加した子どもたちや親御さんから「楽しかった!」という声が多く届くそう(写真提供:五味醤油)

「味噌屋で味噌を買うのは敷居が高いと感じている人が実際多いんです。だったら味噌屋に来るきっかけの敷居を低くしようと考えたんです」と仁さん。

さらに次のようななんとも潔い答えが!

「麹も五味醤油で造って販売していますが、味噌屋や麹屋が必要ないくらい世の中に自家製が広がればそれはすごいことですよね。そうなったら潔く歴史に幕を閉じます」
▲五味醤油の蔵の中。自分たちの目が届く範囲の量を丁寧に仕込んでいる

“発酵兄妹”が手前味噌や昔ながらの発酵を通した暮らしの営みを伝え発信しているのは、味噌屋の自分たちだからこそできることで、味噌や発酵の文化を、世代を越えて伝え守っていきたいと思っているからでした。
▲最大15人でできる味噌づくり。全員の顔が見える範囲で丁寧に食の体験をすることが、とても重要なことだと考えているそう

食べるものを自分でつくることで、今までなかった“食や食文化への感心”が生まれてくるかもしれません。特に発酵食品には「待つ」という時間の経過が、できた時の喜びに拍車をかけます。

皆さんも気軽に味噌づくりやこれから企画される食の体験をしに、「KANENTE」に来てみませんか? Let's 手前味噌!
土屋誠

土屋誠

山梨の人や暮らしを伝えるフリーマガジン『BEEK』編集長、アートディレクター。山梨を拠点に、編集やデザインで地域やモノゴトを伝える仕事をしています。本屋さんが好きなので、休みができたらもっぱら本屋に出没。2児の父としても奮闘中。(編集/株式会社くらしさ)

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP