遠野ジンギスカンの元祖「あんべ」から始まった、バケツジンギスカン!

2017.05.24

ジンギスカンといえば北海道が有名だが、岩手県の遠野市民たちも50年以上前からジンギスカンをこよなく愛してきた。遠野で「焼肉食べるか?」といえば、それはジンギスカンを指すのがあたりまえ。家族の帰省や地区行事など、人が集まる時にたびたび振る舞われる料理なのだ。そんな遠野には七輪代わりにブリキバケツで肉を焼く“バケツジンギスカン”文化がある。その発祥を探るため、老舗専門店を訪れた。

老舗の専門店「あんべ」で、美味しい肉を満喫!

ジンギスカンを遠野市内で提供する店舗は現在4軒。中でも、昭和22(1947)年に創業した「ジンギスカンのあんべ」は遠野ジンギスカンの元祖といえる。まずはその味を堪能すべく店の暖簾をくぐることに……。

同行してくれたのは遠野で育ち、ジンギスカンをこよなく愛する高宏美鈴(たかひろみすず)さん。遠野のジンギスカンを広く知ってもらおうと、数年前からイベント運営も行っている。
▲高宏さんと「ジンギスカンのあんべ」へ
▲看板にも元祖の文字

一言でジンギスカンと言っても肉の種類はいろいろ。生後1年未満のラムはマトンに比べてクセがなくて食べやすいため、最近はラムだけを扱うジンギスカン店も多いが、同店ではラムとマトンそれぞれ、カタ、モモ、カタロースが用意されている。各部位の使い分けや管理ができるのも老舗専門店ならではだ。
▲さすが専門店。メニューが豊富に揃っている。オーダーに迷ったら気軽にスタッフに聞いてみよう

やはり、子どもの頃から「焼肉と言えばジンギスカン」で育ったという高宏さん。店内で食べ方指南をしてもらった。

今回は、店の人気メニューである「ラムカタロース定食(税別1,400円)」をオーダー。さっそく運ばれてきた肉は、赤身と脂のバランスがよく色も鮮やか。鮮度の良さは素人でもわかるほどだ。
▲準備はOK!コンロの下に脂はねに備えた新聞紙を敷くのもあんべ流
▲ほどよいサシが入ったラムカタロース
▲直々にツウな焼き方を教えてもらう

想像以上に柔らかくジューシーなラム肉に感動!

しばし高宏さんに肉を焼いていただく。まず、ジンギスカン鍋を十分に温めたら、羊の脂を鍋全体に塗る。
まんべんなく脂を塗り終わったら鍋のてっぺんに脂を置き、鍋の縁に野菜をのせて、その上部に肉を投入!ここで初心者は要注意。少しだけ我慢が必要なのだ。高宏さんいわく、「野菜ちょしても(さわっても)、肉ちょすな(さわるな)」。

肉のまわりに焦げ目がつき、くるんと持ち上がる程度までひっくり返さないのがポイントだという。すぐにひっくり返すと肉が鍋にくっついてしまうのだ。
ひっくり返して裏面に焼き色がついたら、食べごろ!焼き過ぎは禁物だ。

「さあさあ!召し上がれ」と勧められ……。特製タレをたっぷりつけ、温かいごはんに乗せて、いただきます!
ほおばったひと口は、ほどよく噛みきれる歯ごたえがありながらも、サシの脂に頼らない肉そのものの柔らかさ。ラム肉のクセのない旨み、ジューシーな食感が肉好きの心を瞬時に打ち抜く。しかも羊肉は融点が高く脂が体内に吸収されにくいため、ヘルシーな肉としても人気が高いのだ。

同店のジンギスカンのおいしさを探るべく、店主の安部吉弥(あんべよしや)さんに肉へのこだわりを尋ねてみた。

「品質の良いオーストラリア産の羊肉を、鮮度を保つチルド状態で輸入しています」と吉弥さん。そして、肉は全て注文を受けたあとに手切りで丁寧に切り分ける。肉の繊維方向を目と手で確かめながら包丁を入れることで、柔らかな肉を提供できるという。
▲安部吉弥さんは三代目店主、子どもの頃から父の仕事を見て育ったという

遠野のジンギスカン文化、その発祥は?

遠野にジンギスカンを広めた伝道師ともいえるのは、吉弥さんの祖父である初代店主の安部梅吉さんだ。梅吉さんは、太平洋戦争終結後、従軍先の満州から帰郷して精肉店を開店。満州で食べた羊肉料理のおいしさが忘れられず、家族の賄い料理としてジンギスカンを食べていたそう。
その後、お客に振る舞って喜ばれたため、昭和30年頃から店内でジンギスカンを提供。当時は輸入肉ではなく地元で飼育する羊を食していたという。

「日本は大正期以降に軍服用に羊の飼育が盛んに行われ、遠野でも毛織物用の羊をあちこちで飼っていたようです。地元で新鮮な羊肉を調達できたことは遠野でジンギスカンが広まった背景として大きいと思います」と吉弥さん。

最初は日本で馴染みのない羊肉は受け入れてもらえなかったが、試行錯誤の末に完成したタレが評判となって、徐々にジンギスカンの人気も高まっていった。今や、この門外不出のタレこそ地元住民がこよなく愛する味。フルーティーだが甘すぎず、ほどよい酸味とさっぱりした辛口が特徴。ジンギスカンのおいしさを更に引きたてる。
▲創業時から変わらぬレシピで作る自慢の特製タレ

遠野名物「バケツジンギスカン」を考案したのも、あんべの二代目!

もう一つ、遠野のジンギスカンの大きな特徴は野外で行う“バケツジンギスカン”だ。実は、この仕掛け人が同店二代目店主の安部好雄さん。初代によってジンギスカンは市民に定着し、祭りなどの野外でも振る舞う機会が増えていった。

しかし、肉や貸し出し用の七輪を配達する際に、道路事情の悪い山道で土の七輪が壊れることも多かったのだとか。そこで二代目の好雄さんが七輪に代わるものとして考えた道具が、ブリキの「ジンギスカンバケツ」なのだ。
▲穴を開けたブリキのバケツに固形燃料を入れ、南部鉄器の鍋を乗せるだけ!

そして、店頭でも肉を購入したお客さんに無料でバケツを貸し出すようになり、野外イベントと言えば“バケツジンギスカン”という食文化が遠野に根づいていった。
▲市内の金物店で販売される「ジンギスカンバケツ」には、初心者向けの注意書きも!
▲同店には100個以上の「ジンギスカンバケツ」が完備(貸し出し無料だが固形燃料は実費)。二代目が考案した第1号のバケツ(手前)も健在だ

数年前にテレビ番組で紹介されるとその存在は一気に全国に知れ渡り、ジンギスカンの本場北海道などでも「ジンギスカンバケツ」が販売されるように。「県外からバケツだけの注文が来ることも多いんですよ」と吉弥さんは苦笑い。

観光客に人気!「バケツでジンギスカン大会」

これからの季節はお花見に始まり、初夏に川原で行う「雑魚(ざっこ)食い」、秋の「芋の子汁会」など行事が増えるが、みんなでブルーシートに座って“バケツジンギスカン”を食べる光景は遠野の風物詩だ。

そんな和やかな風景を見て、「地元住民だけでこっそり楽しむのはもったいない。観光客も気軽に参加してもらいたい」と考えたのが高宏さん。2013年に有志で実行委員会を立ち上げ、遠野駅前で「バケツでジンギスカン大会」を開催している。
▲記念すべき第1回「バケツでジンギスカン大会」の様子

「遠野に息づく食文化を観光客の方々にも知って欲しくて。駅前なら列車の窓からも見えるでしょ」とにっこり笑う高宏さん。ふらりとやってきた観光客もバケツジンギスカンを堪能できるとあって、イベントは毎年250人前後の参加者で賑わう。2017年は6月11日(日)に開催予定だ。

遠野市民のソウルフードであるジンギスカンは、じわじわと観光客も巻き込みつつある。独自の文化を持つ遠野のジンギスカンを未経験の方は、ぜひ一度同イベントなどで羊肉本来のおいしさを味わってみてはどうだろう?
水野ひろ子

水野ひろ子

岩手県在住フリーライター。行政や企業等の編集物制作に関わる傍ら、有志とともに立ち上げた「まちの編集室」で、ミニコミ誌「てくり」やムック誌の発行をしている。(編集/株式会社くらしさ)

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