歴史を紡ぐ銘菓「山口外郎(ういろう)」。おっとりとした味わいは「生」で堪能すべし!

2016.05.17

山口県山口市を代表する銘菓「山口外郎(ういろう)」。古都・山口とともに歴史を紡ぎ、国内各地の外郎とは一線を画し、“おっとり”と表現される独特の味わいです。市民にこよなく愛される「生外郎」の名店「御堀堂(みほりどう)」で美味しさの秘密を聞きました。

山口旅行のお土産としても人気の高い「山口外郎」ですが、地元山口では、来客時のおもてなしや、挨拶の際に出す“お使い物”としても重宝されており、市民にとって特別な存在です。

名古屋、小田原、京都など、国内各地にも「外郎」は存在しますが、そのほとんどは米粉から作られています。対して「山口外郎」の主な材料はわらび粉です。わらびの根からとれるデンプンは糊(のり)としても使われていたこともあり、食感、風味など、他地域の「外郎」とは一線を画しています。

そんな「山口外郎」を製造・販売する店は、山口市を中心に山口県内に複数ありますが、今回は中でも伝統の製法を一筋に継承している名店「御堀堂」へ足を運んでみました。
▲本店はJR山口駅から徒歩3分。開店は午前8時と早く、ひっきりなしにお客さんが訪れる

「御堀堂」は昭和2年創業。かつて山口市内にあった元祖の店「福田屋」に伝わる製法を引き継ぎ、初代・田中順助(じゅんすけ)、2代・忠治(ちゅうじ)、そして現堂主・米吉(よねきち)氏の3代にわたって伝統の味を守り続けています。

オススメは「生外郎」。出来上がりから早ければ早いほど美味!

「御堀堂」の「外郎」は、通常は「白外郎」「黒外郎」「抹茶外郎」の3種類。それぞれに普通型(1個税抜190円)、小型(1個税抜100円)の2サイズがあります。
▲“ちょっとつまめる”小型(長さ7cmほど)は食べやすさで人気。上から「白外郎」「黒外郎」「抹茶外郎」

その製法は「本わらび粉」に小豆餡(あずきあん)と小麦粉を練り込み、最後に蒸籠(せいろ)で蒸し上げるという素朴なもの。シンプルゆえに、素材や工程に相当なこだわりが隠されているに違いありません。

また、「御堀堂」を始めとして、県内の各店で作られる外郎には、日持ちがするように真空パックされたものと、そうでない「生外郎」が存在します。ここ山口では、特に「生外郎」が好まれており、よほどのことがない限りはほとんどの人が“生”を買い求めるといいます。
▲店内には、「生外郎」が味わえる試食コーナー(無料)も!

今回ご案内いただいた専務の田中真樹(まさき)さんによると、
「工場で蒸し上げられて常温まで冷めた状態、商品にするためにちょうど切り分けている頃合いが最高に美味しいですよ。その日の朝に製造したものを、午前中のなるべく早い時間に食べるのがいちばんの贅沢です。お土産用に真空パックの外郎を買って、さらに移動中に自分が食べるための生外郎を買うという人も少なくありません」とのこと。
▲専務の田中真樹さん。お話からは「山口外郎」への熱い思いがひしひしと伝わってくる

ちなみに「生外郎」は夏季でわずか2日、冬季で3日しか日持ちしません。まさにご当地・山口へと足を運んでこそ味わえる逸品です。

“おっとり”した「山口外郎」を堪能!

それでは最初に「山口外郎」の定番とも言える「白外郎」をいただきます。品名に“白”とつきますが、藤色とも表現される薄紫色で、見た目からも上品さが伝わってきます。
まずは一口、柔軟性豊かなもちもちとした食感と一緒にほのかな甘さが口いっぱいに広がります。他に例えようのない、このなんともいえない食感こそが「本わらび粉」によるもので、「山口外郎」が他地域の「外郎」と大きく異なる部分です。

米粉を材料とする「外郎」ももっちり感はありますが、口に入れるとさっくりとした食べ応え。一方の「山口外郎」は、粘りも併せ持った柔らかみのある弾力で、山口、特に「御堀堂」ではこの食感のことを“おっとり”と表現しているのです。

次にいただいたのは、伝統の「白外郎」に対して2代目・忠治氏が考案した「黒外郎」。「白外郎」に使用する小豆餡に沖縄産の黒糖が練り込まれています。
▲「元祖の店とは違う外郎を作りたい!」という2代目・忠治氏の思いが生み出した「黒外郎」

一口頬張ると、さっぱりしつつもしっかりした甘み、さらに黒糖の深い風味が広がります。オーソドックスなさらりとした味わいの“白”に対して、一転コクのある味わい。こっちも美味しい~!

なお、黒糖は作っている島によって味が異なるそうで、小豆餡との相性を考慮した上で産地を吟味。今は与那国島産と西表島産をそれぞれ仕入れ、最高の味わいになるようにその二つをさらに同店独自の割合でブレンドして使用しているそう。

続いて、3代目・現堂主の米吉氏が考案した「抹茶外郎」。小豆餡に、宇治産の抹茶が練り込まれています。
▲甘味も苦味もほんのり。特に若い女性に人気が高いという「抹茶外郎」

きれいなモスグリーンの色合いが食欲をそそります。まずは一口、お茶の香りといっしょにほのかな苦み、さらに見え隠れする控えめな甘み…、白、黒に続いてこれもクセになること請け合い、美味しくて何個でも食べられそう!

製菓の現場においては、色づけ香りづけに特化した加工品向けの抹茶を使う場合が多いそうなのですが、同店では京都宇治の上質の挽き抹茶を使用しているそうです。

元祖の店より製法を引き継ぐ「御堀堂」

さて、生の「山口外郎」を堪能したところで、田中専務に同店のこだわりを聞きました。

「当社で使用している『本わらび粉』は鹿児島産で、手作業で製粉された“上”あるいは“極上”に分類されるものです。これは製粉業者さんに言わせると『ありえないぐらい贅沢な使い方』だそうです。わらび粉が製造されるのは12月から3月の間だけなので、これだけの品質のものを1年分確保するのはとにかく大変なんです」と話します。
▲水に溶かれた状態の「本わらび粉」。この後、さらに漉し器にかけられる(写真提供/御堀堂)

さらに、練り合わされる小豆餡は同店特製。北海道・十勝産の小豆の皮をむいて、豆の白い部分のみを手作業で丁寧に煮込み、最上級のこしあんに仕上げます。

「豆の中身だけを使うことで、雑味のないさっぱりとした甘みを引き出すことができます。また、『白外郎』の美しい藤色は皮をむかなければ実現できません」と田中専務。
▲小豆餡は手練りで仕上げられる。伝統の製法を忠実に守ってこその美味しさ(写真提供/御堀堂)

機械で練り込むと豆の粒子が崩れてしまい、せっかくの風味が失われてしまうのだとか。手作業による丁寧な製造工程こそが、「山口外郎」が記録に残る江戸時代中期からの美味しさをそのまま伝えていると言えます。
▲外郎の生地を、型に流し込んで大型の蒸籠で蒸し上げる(写真提供/御堀堂)

ひと通りお話を聞いたところでもう一口。こだわりを聞いた直後だけに、思わず唸ってしまうほどの至福な味わい。そのもっちりとした食感と上品さに感動もひとしおです。
▲表面のざらつきは蒸籠で蒸されてこそ。一つ一つの表情の違いが素朴な風合いをいっそう引き立てる

「山口外郎」の一時代を築いた「梅旭堂」と、歴史の継承者「御堀堂」

「山口外郎」は、江戸時代中期には既に存在していたという記録が残っています。その当時、名物「白外郎」を製造・販売していた店こそが、「山口外郎」の元祖といわれる「福田屋」であり、「梅旭堂(ばいきょくどう)」という名の茶店を出して人気を博していたようです。

江戸時代の山口には、「西のお伊勢様」と呼ばれる「山口大神宮」への参詣を目当てに、西日本一円から多くの人が訪れました。そして、町の入口の街道沿いにあった「梅旭堂」には、山口に暮らす人だけでなく多くの参詣者も立ち寄ったといわれています。
▲「西のお伊勢様」と呼ばれる「山口大神宮」

明治時代以降も、「福田屋」の「白外郎」は変わらず山口の人々に愛され続けますが、残念ながら戦後間もなくの昭和21年に廃業してしまいます。

そんな「福田屋」において「白外郎」作りの修練を積んだ職人頭が、「御堀堂」の初代・田中順助氏でした。独立開業後もその製法を忠実に守った、初代堂主。江戸時代、ひょっとすると室町時代から続くとも言われる「山口外郎」は、「福田屋」から「御堀堂」へと継承されることとなりました。

いずれ4代目堂主となる田中専務は「『山口外郎』は山口の文化であり、市民の誇り。その継承者として、また和菓子屋としてではなく『外郎屋』として、製法を後世に伝える使命を全うしたいです」と意気込みを話してくれました。
▲「山口外郎」の歴史について起源を辿り続ける田中さん。「白外郎」は、守護大名・大内氏が山口に本拠を置いていた室町時代に、「福田屋」によって創製されたとする説もある

また、山口ではなぜ米粉ではなくわらび粉が使われたのかという理由について、「江戸時代やそれ以前の庶民の暮らしを考えると、お米は大変貴重でお菓子の材料にするというのは考えづらい。それで、庶民にも手に入りやすかったわらび粉が使われたのではないでしょうか」と田中専務。

事実、当時の山口ではわらび粉の生産が多くあったようで、飢饉の際の非常食としてだけでなく、その上質なデンプンは糊(のり)としても活用されていました。毛利氏の参勤交代時にはわらび粉が江戸幕府に献上されており、その質の良さをうかがい知ることができます。

「山口外郎」を頬張りながら歴史のロマンに浸ってみると、その味わいはいっそう奥深く感じられるかもしれません。「山口外郎」を味わうなら「御堀堂」で、朝イチの「生外郎」を味わってみてください!
兼行太一朗

兼行太一朗

記者兼営業として、地元山口の地域情報紙に14年間勤務。退職後はNPO法人大路小路ひと・まちづくりネットワークに籍を置き、守護大名大内氏や幕末における歴史資源の取材に携わる。同時にフリーライターとして活動しながら、たまに農業も。自称ネコ写真家。(編集/株式会社くらしさ)

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP