鈴虫寺 行列のできるお説法。凛と鳴く鈴虫の声に、よりよく生きるヒントを聴く

2016.01.06

京都の西、嵐山のほど近く。山の中腹にある鈴虫寺に、多くの参拝者が列をなしているという。聞けば「鈴虫説法」なる講話が目当てだとか。その人気の秘密を伺いに、鈴虫寺を訪れた。

苔むす境内に一年中鳴り響く、
鈴虫の声の重奏(アンサンブル)

11月の連休明け。冬の訪れを間近に感じるころに訪れた鈴虫寺。山門へ続く参道の石碑には「鈴蟲の寺」の文字。正式な名称は華厳寺、享保八年(1723年)から続く由緒ある禅寺だ。
早速うわさに聞いた行列が。横目に苔むす庭園を眺めて受付の順番を待つ。
受付を終えて通された書院は満員。参拝者たちのざわつきの奥に、涼やかな音があるのに気づく。
心を向ければそれは、幾重にも重なりあっていて、耳をすませるほどに心が静かになる不思議な音だ。
▲寺の書院で暮らす鈴虫たち。温度や湿度を一定に保つ、雄雌の数を等しくするなど、飼育にもいろいろとコツがあるそうだ
▲オリジナルの和菓子とお茶。お菓子には寿々むし(すずむし)の文字。禅の作法である茶礼のおもてなし

笑い=柔らかな「心のあり方」。
スッと心に染みいる説法

今回、お話を聞かせてくれたのは十代目の桂住職。いわゆる説法といえば堅苦しい印象があるが、鈴虫説法にはまったく当てはまらない。まるで落語や漫談のような軽妙な語り口で話が紡がれていく。
仏教のしきたりや禅の教えなどを中心に、時に笑いを交えながらぽんぽんとリズムよく進む説法。聴衆と住職の掛け合いが、さらに笑いを誘う。硬かった人々の表情も次第に緩んでゆく。
講話のスタートは、「鈴虫寺」の名前のいわれから。
それは八代目の住職が鈴虫の声に耳を傾けていたときのこと。ただひたむきに鳴き続けるその声に感じ入り、「これぞ禅の心である」と悟りを覚えたそうだ。
この心を多くの人に広めたいと鈴虫の飼育を始め、現在では8,000匹もの鈴虫が寺に暮らしている。
一年中鳴り響く鈴虫の声と住職の説法に感銘を受けた人々が、いつしか「鈴虫寺」と呼ぶようになった。

身近にあるものに目を向けて、
思惑はなく、ただ今ここにあれ

内容は季節や世相に合わせて変えることも多い、と住職。すべてをここで紹介するのは不可能なので、強く心に残ったエピソードをひとつご紹介しよう。
八代目の住職が悟りを得た鈴虫の声。
鈴虫はなんの思惑もなく、ただ鳴いている。我々の耳を楽しませるためでなく、ただその生を全うすべく、鳴いている。
今、自分に与えられた生を、ただ生きる。
無いものねだりでなく、あるがままの自分を大切に生きる。
そういう心のありかたこそが幸せに繋がるのです、と住職。
鈴虫の声に、大切な生きるヒントが聴こえるようなエピソードだった。

家まで来てくれる幸福地蔵
御守りを持って願掛けへ

住職の説法も終わり、人々の表情はどこか晴れやかだ。
説法の中で説明のあった幸福御守(300円)を手に、早速お地蔵様のもとへ…とその前に、書院の前に広がる立派な庭園をぐるり。
▲四季折々の美しさを見せる庭園。竹林や苔の景色が美しい
柔和な顔の幸福地蔵菩薩。よく見ると足にわらじを履いている。何故かと言うと、このお地蔵さん、歩くのである。歩いてどこへ行くかと言うと、願い事をした人のもとへ行くのである。
なので、願いごとの際は必ず住所と名前をお伝えしよう。ほかにも参拝にあたってルールがあるのでご紹介。

願いごとは一つだけ。
お礼参りも忘れずに

一度にできるお願いはひとつだけ。身の丈にあったお願いをすることで、願いが叶いやすくなる、とのことだ。
願い事の際は、御守を手に挟んで。御守は、お地蔵さまの化身。幸福の「幸」の字がお地蔵様の顔にあたるそうなので、顔をかくさぬように注意して。
御守は、願いが叶うまで身につけて。願いが叶ったら、古い御守をお寺に帰しにお礼参りへ訪れ、新しい御守に次の願い事をかけよう。
帰り道、参道の入り口にある掲示板が目に留まった。そこには「只今」の文字。
ふっと心にさわやかな風が吹き、身軽な心で寺を後にした。
心にもやもやが溜まっている方は、ぜひ鈴虫寺を訪れてみて。
妙加谷 修久

妙加谷 修久

京都市在住の旅行系ライター兼ディレクター。全国各地に足を運び、旨いモノを食べ、温泉に浸かる日々。ここ京都を中心に、知っているようで知らない「日本のイイトコロ」を紹介します。日本酒好きが高じて利き酒師の資格を取得しました。

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