南禅寺 順正 四季映す庭園を愛で、純白の湯豆腐を食す

2016.01.10

南禅寺参道の傍らに佇む「南禅寺 順正」は、江戸時代の医学校を起源にもつ湯豆腐店。創業当時と変わらぬ湯豆腐と、京の風情を味わい尽くす、贅なる時を味わおう。

古より受け継がれし「豆腐」は
日本文化そのものを味わうが如し

豆腐の歴史は古く、日本ヘは奈良時代に中国大陸より伝わったとされている。
以降、僧侶たちの食料として、後に精進料理の普及に伴い貴族や武家に、やがて室町時代に全国に広まった。
現在、中国や周辺のアジア諸国で食べられている豆腐は、豆腐の起源に近いもので、硬く固められたものが多い。
つるりとした滑らかな食感を楽しめる豆腐は日本独自のもので、長い歴史の中で積み重ねてきた先人たちの創意工夫が伺える。
湯豆腐という料理法がいつ誕生したかは定かではないが、江戸後期には南禅寺周辺の茶屋で供される湯豆腐が名物となっていたようだ。

一歩足を踏み入れれば、
見事な庭園がお出迎え

風情ある店の門をくぐると、まず目の前に広がる庭園に心奪われる。回遊式の庭園は江戸時代の作庭で、東山の優美な姿を借景にした見事なものだ。
▲べテランの庭師たちが毎日手入れをし、往時の姿を現在に伝えている
▲どの席からも庭園が見えるように配されていて、湯豆腐を待つ間も庭を愛で楽しむことができる

口の中でほどけてゆく、
創業当時と変わらぬ味

席で待つことしばし。運ばれた料理を眺め、まずは豆乳を一口。
口の中に、大豆の旨みが広がった後に、豊かな香りが鼻を抜ける。味は濃いが意外に喉越しがよい。美味しい豆乳だ。
聞けば、毎朝こだわりの国産大豆を絞った新鮮な豆乳とのこと。フレッシュな味わいに舌鼓。
▲特製の味噌がたっぷり塗られた田楽。豆腐の凝縮した旨みと、味噌の甘みと香りが味わい深い一品
そして、いよいよ真打登場。係の方が目の前で火を入れて、頃合を教えてくれる。蓋をあければ、ふわ~っと柚子が香る。なんとも言えない爽やかで上品な印象だ。早く食べたい!
美しい純白の豆腐をひとすくい。柚子の香りの奥に、ほのかに香る上品な出汁の香り。ふわりとした箸触りに期待感が高まる。刻んだ九条ねぎをのせ、秘伝のたれをひとまわし。
これは絹ごしですか?と思わず聞いてしまうほどの滑らかさ。表面の熱さと、ほんのり温い芯が口の中でほどけあう。
特製の木綿豆腐は、火を入れることでふんわりと膨らみ、他にない滑らかで柔らかな食感になるとのこと。
濃厚な豆腐の大豆感と、ねぎのシャキシャキ感、そして、出汁と濃い目のしょうゆがキリッと効いたたれが口の中で三位一体となり、喉をすべり落ちてゆく。
嗚呼、豆腐って、こんなに美味しいのか…。
普段自分が食べている豆腐とはなんだったのか…と思うと同時に、現在にいたるまでにこの味を受け継ぎ、進化させてきた先人たちの努力に、改めて頭が下がる思いがした。
▲季節の野菜を使った天ぷらや炊き合わせなど全7 品の「ゆどうふ(花)」(1人前税込3,090 円)※写真の湯豆腐は2 人前

登録有形文化財「順正書院」で
緩やかな時の流れを感じて

お店の敷地内にある「順正書院」は、江戸時代の蘭学医である新宮凉庭(しんぐうりょうてい)が開設した医学学問所で、国の有形文化財に登録されている史跡だ。
天保10 年(1839年) に開設され、蘭学医として著名な新宮凉庭のもと、大名諸侯や文人墨客らが集い、文化サロンとして此処に論を交わしたと伝えられている。
東山界隈の案内書として作られた『花洛名勝図会(からくめいしょうずえ)』に紹介されるなど、幕末の頃には書院と庭園の美しさが知れ渡っていたようだ。
ちなみにこの書院でも食事をすることができるというから驚きだ(詳細は要問合せ)。
口の中でほどける絶品湯豆腐を堪能した後は、書院見学と四季折々の優美な庭園を眺めてぶらり。
積み重ねてきたものと、今この瞬間が重なりあう豊かな時間が「南禅寺 順正」には流れている。
妙加谷 修久

妙加谷 修久

京都市在住の旅行系ライター兼ディレクター。全国各地に足を運び、旨いモノを食べ、温泉に浸かる日々。ここ京都を中心に、知っているようで知らない「日本のイイトコロ」を紹介します。日本酒好きが高じて利き酒師の資格を取得しました。

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