文明開化の味わいはA5和牛が常識!? 伝統と革新の地、横浜の牛鍋を食す

2015.06.19 更新

教科書や小説、マンガなんかで見かける“文明開化”を象徴する料理、牛鍋。ここ最近では、ファストフードのメニューでも目にするようになったけれど、これってすき焼きと何が違うのでしょうか?

さっそく調べてみると「牛脂をとかして肉をあぶり、砂糖や醤油などを加えていくのが関西風すき焼き」であり「鉄鍋で肉を数枚焼いてから割り下を入れ、残りの具材を煮込むのが関東風すき焼き」、そして「割り下に具材を入れ、グツグツ煮込むのが牛鍋」とのこと。う~む、作り方の違いは分かったものの、やっぱり食べてみないことにはモヤモヤが解消しません。
さらに調べを進めると、牛鍋の発祥地が横浜であることが判明。しかも明治時代から続いている老舗の専門店があるとのこと。これは、実際に味わってみなくては!

100年以上受け継がれる割り下が、黒毛和牛を更なる高みへと導く

“文明開化の味”を求め、最初に訪れたのは明治28年創業の「荒井屋」。現在の建物は昭和25年に建て替えられたものですが、店構えからも老舗の風格がびんびんと伝わってきます。
さっそく若旦那の荒井亮一さんに創業当時のお話をうかがいました。
「牛鍋が普及しはじめた幕末から明治初頭にかけては、まだ上質な牛肉が出回っておらず、臭みを消すために味噌で煮込むのが主流だったそうです。そんな一度目の牛鍋ブームを経て流通する肉の質が良くなり、“割り下”や“薄切り肉”が登場する第二次牛鍋ブームが巻き起こりました。当店のオープンは、そのまっただ中のころです。以来、より良い牛肉を追い求めてきましたが、割り下の味は創業当初のまま。料理長が秘伝のレシピを代々受け継いできたものでございます」

秘伝の割り下は醤油と砂糖をベースに10種類程度の材料をブレンドしたものだそう。日本の食文化は世界的に見ても豊かだといいますが、そんな昔から創意工夫が盛んだったのですね。
さっそく実食。こちらの牛鍋は鍋の中にあらかじめ割り下と具材を入れ、グツグツと煮込んでいくスタイルです。また「荒井屋」では関西風のすき焼きも提供しているのですが、すきやきには肩ロース、牛鍋にはモモ肉やバラ肉と、部位を使い分けるのだとか。牛鍋の場合には、赤身の割合が多めの肉の方がしっかりと旨みが活きるようです。

使用する具材は甘くて太い千住ネギをはじめ、割り下に絡むように縮れ具合を調整したしらたき、香りにこだわった焼き豆腐など。中でも自慢は、一頭まるごと仕入れている仙台牛。国産の黒毛和牛のなかでも最高の格付け、A5を獲得したものだけを使用しています。

しばらく煮込んだ後、仲居さんがこれ以上ないタイミングで取り分けてくれました。
さっそくパクリとひと口。と、とてつもなく美味しい! 溶き卵と割り下、そして仙台牛の上質な肉汁が見事に口の中で一体となり、豊かな味のハーモニーを奏でます。さすがは120年間も横浜で愛され続けてきた名店の味です。

最高級の肉の旨みに浸るなら、すき焼きよりも牛鍋がいい!?

せっかく牛鍋の本場に訪れたのだから一軒だけではもったいないと、続いて訪れたのは明治26年創業の「じゃのめや」。こちらも第二次牛鍋ブームに開業したとあって、「荒井屋」と同じ“割り下”で牛肉を煮込むスタイルです。
取締役の山崎謙吉さんによると「関東大震災の前までは東京も含め、関東一帯は牛鍋屋ばかりでした。地震でほとんどのお店が焼けてしまい、その代わりに関西のすき焼き店が進出してきたようです。次第に関西風すき焼きと牛鍋が融合して、関東風すき焼きが誕生したと言われております。当店も、場所こそ屋台としてスタートした明治の創業から変わっていませんが、今ではご覧の通りビルの1階。肉を焼かずに煮込む調理法や割り下の味わいは伝統的ですが、営業スタイルはだんだんと移り変わっております」
店内にあるのは、親しみやすいテーブル席エリアと、2名以上で予約ができる高級感溢れる個室エリア。ビルの1階全てのフロアを使って、古きを活かしつつ新しさも取り入れた居心地の良い空間を演出しています。
牛肉の品質も、その時代のなかで最高峰のものを追い求め続けてきたそう。現在も最高格付であるA5ランクの和牛のなかから、その時期に一番良いと思った銘柄を仕入れているそうです。
ピンク色の赤身にクッキリと浮かび上がる見事なサシ。本日の厳選霜降り和牛「静岡そだち」も素晴らしい肉質です。
こちらの牛鍋は、仲居さんが少しずつ仕上げてくれるのが特徴。南部鉄の鍋に割り下を入れ、沸騰がはじまってから、1枚ずつ肉を入れていきます。赤身に浮かび上がる見事なサシが、ちょうど熱でトロけたような頃合いで、さっと卵に通して口元へ。
すると、旨みたっぷりの脂が口いっぱいに流れ出し、その味はひと噛みごとに増していきます。 卵や割り下の風味は徐々に薄れ、最後には肉の旨みだけが余韻として残る……。

すき焼きの場合は、これに肉が焼けた際にでる香りが加わるのですが、それが無い牛鍋スタイルの方が、最上級の牛肉の旨みを純粋に楽しめるように感じました。もちろん優劣があるという訳でなく、好みの問題なのですが。
文明開化の時代から、育まれてきた横浜の牛鍋。今回取材した「荒井屋」と「じゃのめや」では、伝統を守りつつも、常に最高の味を追い求める老舗の心意気が伝わってきました。すき焼きが全盛となった現在でも、客足が絶えない人気店として繁盛を続けているのには、ちゃんと訳があるのですね。
佐藤潮

佐藤潮

編集プロダクション・エフェクト所属。旅&グルメ媒体をメインに編集や執筆をしています。趣味は旅行。歴史探訪をはじめ、建築めぐり、秘湯巡礼、トレッキング、路上徘徊、見知らぬ人への声かけなど、法に触れない範囲で満喫中です。人生の目標は旅気分で働き続けること。著書に『夢がかなう世界の旅』。 編集:山葉のぶゆき(エフェクト)

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