素敵すぎると噂の宿「御宿 竹林亭」で、庭屋一如(ていおくいちにょ)のもてなしの心を知る

2016.02.22

旅行情報誌制作に携わり早15年、噂には聞いていました。佐賀県の武雄(たけお)温泉に、四季の風景を庭から眺め、何もせずとも幸福に包まれる「素敵すぎる宿」があると。仕事と育児と家事に日々追い回される私…束の間でも良いから幸福に包まれた~い!ってことで「御宿 竹林亭」さんへ行ってきました。

1300年の歴史を持つ武雄温泉にある、神聖な山「御船山(みふねやま)」。
「御宿 竹林亭」は御船山のふもとに抱かれた山間にひっそりと建つ温泉宿です。フランスで最も権威あるガイドブックの「福岡・佐賀2014特別版」で最高評価を獲得したことでも知られます。
「御船山」とは、標高210mの断崖が切り立つ山のこと。
その昔、山の頂上の高さまで海であった時代。神功皇后が新羅出兵の帰りに「御船」をつながれたことから、また山の稜線が三つの船(三船)に見えることからなど、その名の由来には諸説あるそうです。
そして、その御船山を中心に広がる庭園が「御船山楽園」。
第28代武雄領主であった鍋島茂義公が約3年の歳月をかけて弘化2年(1845年)に完成させた、壮大な池泉回遊式庭園です。

狩野派の絵師を京都より招き、完成予想図を書かせた御船山楽園は、まさに鍋島茂義公の理想郷

鍋島茂義公は、領主ながら狩野派に学び、「皆春斎(かいしゅんさい)」という雅号で多くの作品を残した画家でもありました。その茂義公が、御船山楽園造園の際、幕府の御用絵師であった狩野派の絵師を京都より招き、完成予想図を描かせています。
今でいうと、地方で公園を造るのに、日本No.1の画家に設計してもらった…ってとこでしょうか。
そのことからも、いかにこの御船山楽園造園に茂義公がこだわっていたか伺い知ることができますね。

日本の自然の美しさを再認識できる、
御船山楽園の四季風景

東京ドーム10個分という約15万坪の敷地を持つ御船山楽園は、毎年多くの観光客が訪れる武雄の観光名所です。
桜の名所、つつじの名所…と限定されているのではなく、桜、つつじ、藤、さつき、新緑、紅葉…と、ほぼ一年を通じて季節の風景が楽しめるのが人気たる由縁。
なんせ、15万坪!その広大さにより、圧倒的な迫力を持つ大パノラマであったり、幽玄的な美しさを持つまるで水墨画のような風景であったり、様々な四季風景が楽しめるのです。
▲3月下旬~4月上旬は桜。楽園の中ではソメイヨシノやヤマザクラなど2,000本の桜が鑑賞できます
▲4月中旬~5月上旬はつつじ。眼前に広がる5万株20万本のつつじ谷は圧巻の一言。人気があるシーズンの一つ
▲5月上旬~下旬は大藤。樹齢170年の大藤が香り豊かに咲きそろう。たおやかで優美な藤の花は、年配者に特に人気なのだとか
初夏から冬にかけても、また格別。
5月下旬~6月上旬はさつき、6月中旬~下旬はあじさい、7月中旬~8月末までは、楽園内の池に映像を映す、プロジェクションマッピングを予定しているそうです。建物などに画像を投影することはよくありますが、真下の池への画像投影は珍しいそう。夏は一風変わった幻想風景が楽園で楽しめそうです。
そして11月~12月は日本最大級の規模の紅葉とライトアップ。
冬は雪ごもりした白銀の世界で、この時期ならではの楽園を楽しませてくれます。
百聞は一見にしかず。
写真を見ていただければ、御船山楽園の思わずため息が出てしまうほどの美しさが伝わると思います。(蛇足ですが、実物はもっと感動的ということも補足しておきます)

昼はもちろんですが、ライトアップされる幻想的な夜もまた然り。
宿泊者は、この風景を客室から、または専用の散策路から、
滞在中ずっと至る所で楽しめるというからその幸福感たるや…!

月を観る、庭を楽しむ、野鳥の声を聴く…「御宿 竹林亭」には、自然を愉しむために設えられた11の客室のみ

▲貴賓室以外の客室ではほとんどが、このような真っ白の寝室。壁は一面に佐賀市の伝統工芸である白の名尾和紙を使用
この広大な御船山楽園の敷地内に建つのが「御宿 竹林亭」。
11の客室は、それぞれの眺望を生かし、一部屋ごとに間取りや趣き、特徴が異なるという贅沢な設え。
それは月を観るための月見台や、庭を眺める露天風呂、御船山楽園へと続く専用の散策路…といった何とも風流なものばかり。
今回案内いただいた支配人の川久保さん曰く、
「客室はお客様の空間。ゆっくりと滞在できる客室を心掛けています」。

それは客室に足を踏み入れればすぐに納得できる言葉。
客室はどれもごくごくシンプル。シンプルという言葉さえ正しいのかわかりませんが、宿のセンスを主張するような無駄な装飾は一切なく、あるとしても無地、無柄の品の良いグラスやアメニティ、野鳥の姿を見るための双眼鏡、手紙をしたためるための一筆箋やペン、文箱などがあるのみです。
▲棚の奥には紅茶セットが。金平糖が添えてあるのがうれしい
▲書斎には野鳥の本や双眼鏡、一筆箋が

間取りも設えも愉しみ方もそれぞれ。
“客室を選ぶ”という旅のスタイル

11の客室はそれぞれ特徴があり、客室指定で予約するお客さまも多いそうです。
その一部を少しですがご紹介。

まず「佳松(かしょう)」。こちらは御船山に近いのが特徴。
月見台に設えた露天風呂に入浴すればその光景に思わず感動するはずです。
何と見上げれば御船山がすぐそこに!
他には御船山楽園に行くための直通の専用路もあります。
▲「佳松」の客室。奥には月見台を兼ねた露天風呂が
▲露天風呂から仰ぎ見れば、御船山!
次に、その眺望が特徴の「梧竹(ごちく)」。
室内に足を踏み入れればその解放感にびっくり。
2枚の大きな窓越しに約50平方メートルの月見台とその先の庭園が目に飛び込んできます。月見台にはヤマザクラの樹木がひょっこりと出ており、時期には可愛らしいピンクの花を見ながら、月を見ながら、入浴が楽しめるそうです。
こちらにも御船山楽園へ通じる専用路があります。
▲「梧竹」の客室。大きな窓越しに見事なパノラマ風景
▲月見台から客室を見た写真がこちら。4/20~6/20、9/24~10/31には、この月見台で夕食がいただける「月明かりディナー」もできます(利用は2名のみ・1名あたり1,000円の追加料金が必要)
そして、「石楠花(しゃくなげ)」は、「梧竹」と同じく広い月見台があり、月明かりディナー(期間、追加料金は「梧竹」と同じ)ができる客室。
また、石造りの見事な専用展望露天風呂があります。
こちらにも御船山楽園へ通じる専用路があります。
▲大きな岩を配した露天風呂。浴槽の中にも平たい岩があり、ゆっくりと寝そべりながら入浴もできるとのこと
最後に紹介するのは「山茶花(さざんか)」。前述の3部屋よりはこぢんまりとしていますが、3名対応の客室です。
展望露天風呂と、眼前に御船山楽園を望む広い縁側があります。
▲「山茶花」の縁側で、しばしのんびり。目の前にはつつじ谷があり、見ごろには色鮮やかな景色が広がるそうです

コーヒー、ビール、梅酒などが無料の談話室や茶屋バー。
素敵すぎる!宿泊者限定の空間

宿入り口からすぐの場所に、談話室という宿泊者専用のスペースがあります。
そこには水出しコーヒーや、ビール、手作り梅酒などの飲み物がずらりと揃えられており、なんとすべて無料!
▲本格的なサイフォンで淹れた水出しコーヒー、ビール、自家製の梅酒
▲御船山楽園内に自生する梅の実で作った梅酒。とろっとした口当たりで美味!
談話室の楽しみはもうひとつ。
中央にある火鉢を使って、あられ作りも体験できるんです。
作り方は、専用の金網にお餅を入れて、火鉢の上で振るだけ。約5分ほどで香ばしいあられのできあがり!
小さなお子さんなら初めての体験として、ご年配の方だと「懐かしい!」とおっしゃいながら、あられ作りを楽しまれるそうです。
▲カラフルなお餅を専用の金網で炙って…
▲ぷくっとしたら塩を振りかけて、あられのできあがり。アツアツで香ばしい!
そして宿泊者限定の大人なサービスがもう一つ。
御船山楽園内にある「萩野尾御茶屋」で営業する「茶屋バー」も利用できちゃうのです。こちらを夜のバーとして利用できるのは宿泊者だけ。
この「茶屋バー」、楽園内の池に面しており、ライトアップされた庭園を眺めながらカクテルなどのアルコール(有料)が楽しめるとか。
素敵すぎます!
…はぁ、こんなところでカクテルが飲めたら至福の極みです…。
カップルの方、ご夫婦におすすめですね。
▲桜の時期の「茶屋バー」。ロマンチックがとまりません…
▲カクテルなどを飲みながらごゆるりと

干渉せずに寄り添う。本物のおもてなしの精神

特筆すべきは庭園や客室、施設だけではありません。
「御宿 竹林亭」のおもてなしは、そのサービスにも感じます。
今回取材で気づいたのは、“丁寧なれど、干渉しすぎない”という対応でした。
支配人の川久保さんに伺うと、
「基本的には一度客室へご案内すると、ご要望がない限り夕食の時間まで仲居は客室へ入りません。それは、客室という空間そのものをお客様に提供しているからです」との答え。
これは、ご要望があればもちろん伺うが、客室で過ごしていただくのに、突如仲居が現れるのでは心からゆっくりしていただけないからという考えでした。
さらに、研修中の仲居さんは、お客様に接することはほぼないということ。これは一人前に満たない仲居さんが接客することは、お客様に甘えることになるから。
干渉しすぎないということは手を抜いていることでは決してありません。
「御宿 竹林亭」では、週に一度花の先生が宿を訪れ、宿内にあるすべての花を活けなおしています。広大な庭は毎日スタッフが手入れをし、数カ月に一度樹医も訪れます。客室など宿で使用されている広い窓には、手垢はもちろん、少しの汚れもありません。毎日新品のように、と掃除されている賜物なのでしょう。

宿内を歩いていると、生け花を持った仲居さんが足を止め、私たちが通り過ぎるまで頭を下げ続けていてくださいました。
気づけば、仲居さんは皆、通路の板間部分を歩いています。
お客様は畳部分を歩くので、仲居さんはじめスタッフは常に板間を歩いているのだそうです。
▲生け花を運ぶ仲居さん。仲居さんが歩く板間もピカピカに磨かれており、夜は奥のガラスにこの板間が映り込み、また格別なのだとか
楽しみの一つ、食事もまた然り。
夕食は旬のものをふんだんに用いた会席料理。
月毎に、季節感やその時期に一番おいしいものを料理長が考え提供してくださいます。もちろん、小さな子供やご年配の方などには配慮し、またお客様個人の好みにも対応いただけるそうです。こちらも楽しみです!

何をするでもなく、この宿で過ごす時間こそが幸せ

「庭屋一如」という言葉を、恥ずかしながら今回初めて知りました。
そして茶の湯の精神に通じる心こそが、おもてなしなのだと。
シンプルに、あるがままに。
そんな言葉はよく聞きますが、実践するのはどれだけ難しいことか。
この御船山楽園の季節の花々、いずれも手を加えて新しく植樹したものではないということです。
今ある素晴らしいものをそのまま生かし、またそれを最大限楽しめる場所が「御宿 竹林亭」なのかもしれません。
何をせずとも幸福に包まれる、それは自然と宿とサービスそのすべてがもてなしの心で迎えてくれる“楽園”だからでした。
少しの間でしたが、素敵なものやおもてなしに触れて、ほっこり幸せ…。
贅沢な値段ではありますが、ここで得られるものはそれ以上です、きっと。
桑野智恵

桑野智恵

フリーの雑誌ディレクター/ライター。福岡生まれ、福岡育ちの博多女。3つの出版社を渡り歩き、雑誌編集歴はや17年。九州の温泉地・観光地はお任せ。2歳娘の子育てをしながら、旅行情報誌を中心に活動中です。

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