泡のような新食感。江戸時代の伝統料理「たまごふわふわ」を食べ歩く

2016.05.06 更新

東海道五十三次のど真ん中、「袋井宿(ふくろいしゅく)」として栄えた静岡県袋井市は、県西部に位置し、メロンやお茶が有名な自然豊かな場所。そんな袋井市発のご当地グルメ「たまごふわふわ」が全国的に注目を集めています。江戸時代から残るレシピを参考に再現した、料理のようなスイーツのようなこの食べ物の秘密を探ってみました!

『東海道中膝栗毛』にも登場!袋井でいただく江戸の卵料理

かわいらしい名前の「たまごふわふわ」。その歴史は古く、1626年江戸時代初期、京都二条城にて徳川家光が後水尾天皇をもてなした献立のひとつといわれ、当時は武士や豪商が食べる高級料理だったようです。一説によると卵とだし汁を使った「たまごふわふわ」は、茶碗蒸しのルーツともいわれています。

時は下って、1813年。大阪の豪商・升屋平右衛門(ますやへいえもん)が記した『仙台下向日記(せんだいげこうにっき)』には、袋井宿の太田脇本陣に宿泊した際、朝膳に「たまごふわふわ」が載っていたと残されています。また、弥次さん喜多さんでお馴染み『東海道中膝栗毛』でも、弥次さんが袋井の茶店で「たまごふふわふわ」を食べるシーンが描かれています。
ここに目を付けた袋井市観光協会。江戸時代の文献を元に、江戸料理研究家のアドバイスをもらいながら、「たまごふわふわ」を復活。2007年には「第2回B-1グランプリ」に出店し、その名が全国的に知られることになります。さらにケーキやパン、アイスなどにも派生し、今の時代にマッチするようアレンジした創作系を提供するお店も続々と登場。

今回は、再現系1軒と創作系2軒の3軒をピックアップしてご紹介します。

調理法にまでこだわった、おもてなし料理の「たまごふわふわ」を味わう

まずは再現系のお店「遠州味処 とりや茶屋」を訪問。JR袋井駅から歩いて5分ほど、80年以上の歴史がある地元に親しまれた老舗店。3代目店主である松下義之(まつしたよしゆき)さんが浜松市内で修行を重ねた後、店を守り続けています。
▲松下義之さん。遠州の歴史や食文化に精通している

松下さんによると、袋井宿は東海道五十三次の中でも遅くにできた宿。この宿場をもっと利用してもらうために考えられた秘策が、料理でのおもてなし。すっぽんやうなぎといった袋井の名物の他、宿泊者には、朝ご飯のメニューとして「たまごふわふわ」を振る舞ったようです。往時の旅人をも虜にした名物「たまごふわふわ」を早速作っていただきました。
昆布とかつお節を使ったシンプルなだし汁を土鍋に入れ、火にかけます。余分なものが入っていないので、味を左右する素材は厳選したものを使用。
料理に使う卵は1つだけ。まずは卵白を手早く泡立てます。「機械を使うお店もあるけれど、うちは手作業。江戸時代はそんな便利なものはなかったからね。以前は割り箸を10本束ねたものを使っていましたが、時間がかかって注文が追いつかなくて、さすがに泡立て器を使わせてもらってます」と、妥協を許さない松下さん。手作業にすることで、ほどよく空気が入り、卵の歯ごたえと、ふわっとしたきれいな形に仕上がります。
しゃかしゃかと小気味良い音を立てながら、メレンゲ状になるまで5分ほどかき混ぜます。「角が立つ」くらいの状態になったら、卵黄を加えて味つけし、再びしゃかしゃか泡立てます。
沸騰した鍋に卵を加えて、三つ葉を載せふたをして少し蒸したら完成。絶妙な火加減と経験がものをいう瞬間です。
▲「たまごふわふわ」単品432円(税込)。ふたを取ると、上品なだしの香りが広がり、ふわふわにふくらんだ卵が顔をのぞかせます。
だし汁に浮かんだ卵をすくい、ひと口。泡というよりも、ちゃんと卵の食感を残しつつ、口の中で溶けていく不思議な感覚。卵料理というよりも、お吸いもののジャンルになるそうで、優しい味わいに心が癒されます。
お昼なら海鮮丼と一緒に食べたり、夜はお酒の後の〆として注文するお客さんも多いようです。また江戸時代のお膳の雰囲気を味わうなら、お造りや揚げ物、焼き物などがセットになった「たまごふわふわ膳」2,700円(税込)もおすすめです。

B級グルメとして紹介されることが多いですが、献上料理でもあった「たまごふわふわ」。おもてなしに相応しい一品でした。

こちらのお店の自慢は、地元の遠州灘で水揚げされた魚介類を使った料理。店内には生簀があり、注文を受けてからさばくこだわりよう。地酒も豊富に取りそろえているので、遠州の味覚を思う存分に味わえるのが魅力です。

懐かしい味わいの絶品スイーツに変身した「たまごふわふわ」

続いて紹介する創作系のお店は、JR袋井駅から歩いてすぐ。駅前商店街のビルの一角にあるのが「ふるさと銘菓いとう」。こちらは創業明治24年(1891年)、120年以上の歴史がある老舗洋菓子店。昔は和菓子やパンを販売していましたが、今はケーキや焼き菓子などを扱っています。

店内に入ると、イチゴやイチジク、マスクメロンなど、袋井産のフルーツを使った季節感あふれるケーキがショーケースを飾ります。こちらでは「たまごふわふわ」をアレンジした「たまごふわふわ半熟チーズケーキ」が人気。
▲「たまごふわふわ半熟チーズケーキ」カット200円(税込)

銀座の高級洋菓子店で修行を積んだ4代目店主であるパティシエの伊藤博さんにお話を伺いました。
▲4代目店主の伊藤博さん

「2年ほど前でしょうか、B級グルメとして全国的にも知られるようになった『たまごふわふわ』を使って、新しい味を作ってくれないかと観光協会から依頼がありました」。地元を紹介するトランプを制作するほど袋井が大好きな伊藤さん。依頼を受け開発に取り組むも、試行錯誤の連続だったそうです。

作り方はいたってシンプル。卵と砂糖を混ぜ、小麦粉、チーズに牛乳を加え、レモンで香り付けをします。卵に匂いが残らないよう、鶏の餌にこだわった地元産の卵を使用。クリームチーズはオーストラリア産の薄味でクセのないものを厳選。最初はふんわりとした食感を出すのに苦労したといいますが、卵白を多く使うことでボリューム感を出すことに成功。ボール型の容器で、じっくり1時間焼き上げたら完成です。
▲「たまごふわふわ半熟チーズケーキ」大1,300円は直径18cmほど。他にも中900円、小500円(すべて税込)
▲「たまごふわふわ抹茶半熟チーズケーキ」1,500円(税込)※季節限定、3日前までに要予約
表面はスポンジ状で、中はほんのりとした甘さのクリーム。口の中で溶ける食感がクセになります。サイズは大中小、カットの4種類(カットは大の8分の1サイズ)。抹茶やチョコレートなど、味のバリエーションも用意。シンプルながら優しい味わいの「たまごふわふわ半熟チーズケーキ」は、地元はもちろん、日本全国からも注文が絶えないそうです。
隣接する喫茶店「ぶどうの樹」では、サイフォンで丁寧に淹れられたコーヒー(400円税込)と一緒にケーキ(200円税込)をいただけます。ノスタルジックな店内で絶品スイーツを味わってみてはいかがでしょうか。

浜松名物「遠州焼き」と夢のコラボが実現

「遠州焼き」とは、浜松市をはじめ静岡県西部で昔から食べられる、たくあん入りのお好み焼き。たくあんのコリッとした食感が特徴のご当地メニューです。「お好み焼きレストラン Honey! ハニー!!」では、袋井名物の「たまごふわふわ」を遠州焼きにトッピング。地元民も色めきだってしまう創作系メニューを味わえます。
JR袋井駅から車で約6分。田んぼが広がるのどかな場所にあるこちらは、袋井の新鮮な野菜をたっぷり使ったお好み焼き屋さん。中庭があり明るい店内は、まるでカフェのようなおしゃれな空間です。「フクロイスタイル ヘルシーレストラン」と銘打ち、もう9年。食材や飲み物など、健康に配慮したメニューにこだわり、ゆっくりのんびり過ごせると、地元の人に親しまれるアットホームなお店。早速、店主の鈴木功三さんに「たまごふわふわお好み焼き」を作っていただきました。
まずは鍋に卵、昆布とカツオのだし汁を加え、ハンドミキサーでかき混ぜていきます。一番のポイントは、鍋を火にかけ、温めながら混ぜること。簡単そうに見ますが、火加減や泡の立て方など、意外と経験が必要とのこと。
▲ふっくらと泡立ってきたらハンドミキサーを止め、ゆっくり熱を伝えます。気泡が見えてきたらOK
▲同じタイミングで焼き上がった遠州焼き。たくあんの他、紅ショウガやネギも入ってカラフル。できたての「たまごふわふわ」を大胆にかけていきます。
▲青のりをトッピングしたら、完成。「たまごふわふわお好み焼き」850円(税込)
ふんわりと雪がのったような美しいシルエット。ソースはかけずにそのままいただきます。表面は泡のようにふわふわ、底はお好み焼きの熱も加わって卵がほどよく固まり弾力があります。口の中に卵の食感のグラデーションが広がり、今まで体験したことのないような新鮮な感覚。たくあんの塩味、お好み焼きに使われている塩麹の旨みも加わって、見た目以上に上品な味わいです。
▲店長の鈴木さん

こちらのメニューは夜だけの限定。注文してからできあがるまで30分ほどかかるので、お酒を呑みながらのんびりまって、友人とシェアしながら食べるのがおすすめ。
「たまごふわふわ」は再現系7店舗、創作系7店舗にて味わうことができます(2016年3月現在)。再現系でもだし汁に具が入ったものなど、お店によって味はさまざま。2016年は袋井宿が開設されて400年になる記念の年。イベントも企画されているので、観光がてら江戸時代の名物「たまごふわふわ」をぜひ食べに来てください。
大杉晃弘

大杉晃弘

大阪にて結婚・住宅情報誌の制作ディレクターとして、企業の販促活動に従事。その後、地元浜松へUターン。編集、文章、写真の仕事をしつつ、活版印刷工としても修行中。

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