熊野の郷土料理「めはりずし」は、日本古来のファストフード!?

2016.04.06

和歌山県と三重県にまたがるエリア、紀州・熊野地方。この地域に伝わる郷土料理「めはりずし」は、握り飯を高菜の葉で包んだだけというシンプルさでありながら、地元の人のみならず、観光客にも大人気。今回は、和歌山県新宮(しんぐう)市で、めはりずし専門店を営む「總本家めはりや」で人気の秘密を調査してきました。

やってきたのは紀伊半島の南部、本州の最南端に位置する和歌山県新宮市。
紀南地方の経済・文化を支える街であり、世界遺産に登録されている熊野古道の要所、「熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)」の門前町としても栄える観光都市です。
▲「總本家めはりや」の入り口。看板には「創業 昭和参拾七年」の文字が
この地で昭和37(1962)年の創業以来変わらぬ、作りたての「めはりずし」を提供し続けているのが「總本家めはりや 新宮本店」。入り口の脇にさりげなく掲げられた看板からは老舗の風格が感じられます。
昭和の面影をのこす、こぢんまりとした店内。
ぬくもりあふれる小料理屋を思わせる、カウンターとわずかな座敷だけの空間は、妙に心を落ち着かせてくれます。
▲「總本家めはりや新宮本店」のご主人、村尾太郎(むらおたろう)さん
「めはりずしは、日本で最古のファストフードとも言われているんですよ」

お話を伺ったのは、優しい笑顔が印象的な、新宮本店の3代目ご主人、村尾太郎さん。
はるか昔7世紀ごろ、このあたりは、「木国(きのくに)」と呼ばれ、「きこり」や、筏(いかだ)で木や人を運ぶ「筏師」で栄えたところ。「めはりずし」は、そんな「きこり」や「筏師」の弁当として、握り飯と漬物をいっしょに片手で手早く食べられるようにと作られたのがはじまりなんだとか。

以来、この地域の家庭で長年食べ続けられてきた「めはりずし」を、太郎さんの祖父が、初めて商品化。店で売り出したと言います。
「最初は『めはりずしは家で食べるものだ』って声もあったみたいですけど、今では、このあたりのいろいろなお店でめはりずしを味わうことができるようになって、地元の人もたくさん食べにきてくれます。さらに、この地域の名産・特産品として観光客の方もたくさん立ち寄ってくれるようになりました」と太郎さん。

「總本家めはりや」は、この新宮本店と2014年に新たにオープンさせた和歌山店の2店舗を展開。太郎さんら3兄弟でのれんを守っているそう。

日本で最古のファストフードとも言われる伝統的な食べ物ならば、ぜひ一度は食べてみたい。
はやる気持ちを抑え、まずは厨房にお邪魔して、作り方を見せていただきました。

丹精込めて握られる「めはりずし」

「總本家めはりや」の「めはりずし」は、作り置きは一切なし。注文が入ってから一つひとつていねいに握られています。
使用する材料は、高菜の漬物とご飯、醤油ベースの特製ダレのみ。
▲まずは高菜の漬物を一枚ずつ水洗い
まずは高菜の漬物をさっと水洗い。使用する高菜の漬物は、地元新宮産の高菜を1~2週間塩漬けして作られたもので、その名も「めはり漬け」。ご主人いわく、漬け込みすぎると酸味が強くでてくるため、これぐらいの漬け具合がベストなのだとか。
▲茎の部分に包丁を入れ、葉と分ける
「總本家めはりや」の「めはりずし」は、高菜を葉と茎の部分にわけるのが特徴。
高菜農家が、歯ごたえのあるおいしい漬物を作るために品種改良を重ねたことにより、日本の高菜は茎の部分が昔より硬くなってきているそう。しかし、握り飯に巻く「めはりずし」の高菜としてはそれでは硬すぎる。そのため太郎さんの祖父は、茎の部分を刻んで、具としてご飯の中に入れるというこの作り方を独自に編み出したのだとか。
▲茎の部分は刻んで…
▲特製のタレをまぶしたものを握り飯の中に詰める
▲ふんわりと握られたにぎりめしを高菜の漬物の葉の部分でくるっと包む
いよいよ握り飯に高菜が巻かれていきます。こちらの葉っぱ部分も特製ダレにさっとくぐらせ、軽快な手つきでご飯を包んでいくご主人。
▲味付けは特製ダレだけ。ご飯も酢飯ではなく何も味付けをしていない様子
▲あっという間に完成。「めはりずし」 一人前/4個 560円(税込)
こんもりとした俵型の「めはりずし」。特製のタレで高菜の葉がテリテリと輝き、食欲をそそります。

「大きいですね~」
見るからにボリューム満点。筆者のげんこつより大きいです!
「昔は、一個がソフトボールくらいの大きさだったと伝えられているんです。そのため、食べる時に目も口も大きく開けることから『めはりずし』という名がついたとか…。あるいは目を見張るほどおいしいからという説や、源平の合戦で、新宮を拠点にしていた熊野水軍の見張り役が片手で食べたことから、『見張り寿司』が転じたという説もあるんですけどね」
大きさに驚く筆者に、平然と答えるご主人。
ひぇ~ソフトボール大!「 總本家めはりや」の「めはりずし」は、現代の人が食べやすいように、これでも多少小さくしてあるそう。
「さあ。どうぞどうぞ」
「いただきま~す」
昔の人に習って、豪快に手づかみでパクリ。
頬張った途端、高菜のさわやかな香りが口いっぱいに広がります。ほのかな酸味とほどよい塩気の高菜の中からやってくるのは、しっとりふんわりとしたあたたかいご飯。醤油ベースの特製ダレが染み込み、米の旨みを引き立てています。
そしてさらにその中から、ダメ押しのように登場する刻んだ高菜。シャキシャキと歯ごたえのいい高菜はご飯との相性もバツグン。決して塩辛すぎず、ご飯にしっかり味わいを与える最高のバランスです。
▲「めはり定食A」は、めはりずし一人前(4個)に山芋とろろ、めざし、豚汁がついて1,400円(税込)
ご飯と漬物は、いわば日本人の食の基本。これが絶妙なタッグを組んでいるのですから、おいしくないわけがありません。ダイエット中の人は要注意。もう一口、もう一口と手が止まらず、ついつい食べ過ぎてしまうおいしさ。気づけば、あっという間にげんこつ大の「めはりずし」4個をペロリと完食してしまいました。
▲めはり漬け400g(めはりや秘伝のタレ付き)890円(税込)
食べるだけでは物足りないという人のために、お土産や通販用として、「めはりずし」が作れるキットも。めはりや秘伝のタレ付きなので、ご飯さえ用意すれば、自宅で「總本家めはりや」の「めはりずし」を作ることができます。今回ご紹介した「めはりずし」の作り方を参考に、自分だけのオリジナル「めはりずし」を作ってみるのもオススメです。
時代を超えて、この地で親しまれ続けてきた「めはりずし」。素朴でやさしいその味は、後世にまで残り続けるだけある確かな理由を感じました。また、その味を愛し、今につないできた人々の思いこそが、かつてのファストフードを最高のご馳走に感じさせる、見えないスパイスだったのかも知れません。現地で、歴史に思いを馳せながら味わってみてはいかがでしょうか。
James

James

イギリス人と日本人とのクォーター。大学では工学部、情報システムを専攻したかと思えば、ミュージシャンとしてギタリスト、MC、DJとして活動。TVやラジオなどでも活躍。その後(株)アドビジョンにて、デザインやコピーライティングなどマルチに活躍。バックグラウンドを活かした独自の視点が人気のライター。

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