粋なおとなが集うバーVol.3京都「タバーン・シンプソン」「川崎BAR」
それぞれの街ならではの空気がただよう酒場に、客が今日も集まってくる。立ち上がるその「香り」は店の数だけある。共通しているのはどこも「顔のあるバーテンダー」がいて、それ目当てに機嫌のいい酒好きがカウンターで飲んでいることだ。

「バーしか行くところがないのだ」という、とても絵空事だけれど喫緊の課題、いや、バーと街の核心を初っ端に書きたいと思う。
バーで飲むのは楽ではない。楽ではないがバーならではのスタイルがあるからたとえ初めての街の初めてのバーだったとしても、カウンターの一席で飲んでいるうちにとても楽になってくる。自分が飲んでいるその席のその瞬間は私有の空間のように思えるからだ。
言い換えればバーの中で与えられた私的な場所と時間。そんなことが起こり得るのはパブリックなバーだけだ。あー、だめだ。なんだか説明しにくいことを伝えようとしている。
銀座ほどでもないが、京都にもたくさんバーがある。格式や歴史や設えが素晴らしいバーもあるが、それを紹介するのは私の仕事ではない。今回紹介する2軒の店はこの街で生まれ磨かれてきた酒場だ。
京都が誇る黒帯達のバー

「タバーン・シンプソン」は、河原町御池近くの細い筋を入ったところにある酒場。ドアが開くのは夕方5時。開店すると年配のお客さんがポツリポツリと単騎で入ってこられるそんなバーだ。
本当はこれだけでこの酒場がどのような店なのかを紹介できている気がするがもう少し続けたい。

マティーニやショートカクテルを強要するかのような空気でもなく、バックバーに並んだボトルの数の多さに圧倒されることもない、シンプルで奇をてらわない肩に力が入っていない、いわゆるナチュラルな構えの黒帯のバーだ。

それ故か、この店には過ごす時間と酒に対して肩肘張ることなくそれを大事にされているお客さんが多く、現在57歳の私が今でも後輩でいられる貴重な酒場でもある。

私が他の街の人間をこの店に連れて行くと、帰りがけの階段を降りたときに「お前ええなあ、こんな店があって」とほぼ全員が言う。そんな店だ。

気の利いたサイドディッシュしかり、フランクな料理しかり、飲んでも食べてもとてもゴキゲンに出逢えるのでどんなシチュエーションでも足が向いてしまう。

飲み物はビール700円、グラスワイン800円、ウイスキー800円~、サイドディッシュが500円。お勘定をした時に値打ちあるなといつも思ってしまう。
酒場の魅力が「気づき」だとしたら「タバーン・シンプソン」は最高の店だと思う。



※価格はすべて税別
タバーン・シンプソン
京都市中京区河原町通御池下ル一筋目東入ル
[営業時間]18:00~23:00
[定休日]木曜
075-221-2760
どこがいいと表現できない魅惑の酒場

といってもキャリアのない酒場ではない。京都の縦横斜め老若男女が行き交うセントラルステーションのような酒場として30年以上人気のあった「バー・アルペジオ」が建物の老朽化などもあり一旦閉店して名前も新たに開店した酒場が「川崎BAR」という店だ。
京都以外で一度も暮らしたことがない、街デビュー40周年近い俺が半端ではないということを保証する。
けれども街で「半端ではない」ということは、それは実に半端で出来の悪いところもある酒場ということでもある。
我々は自身の出来が悪いことを自己診断しているから飲む前は出来のいい酒場に行きたがる。けれどもその出来のいい酒場に秘められたダメさを感知する能力に長けているからややこしい。わかりにくいけれどその感知能力こそが酒場しか行くところがない我々の大事なところなのだと思う。

「バー・アルペジオ」のマスターだった川崎氏が自らの名を店名にしたこの酒場は、開店直後からかなりこなれた店になっている。いやなりすぎている。少し暗めの店内には居心地のいいやわらかさと傷と滲みがある。
そしてそこには街場で修業を重ねてきた手練れのバーテンダーが3人もいる。そのバーテンダーはお客がここに何をしにきているのかを見抜く能力があり、その加減が出来るところがこの店の凄いところかも知れない。


ウイスキーやカクテルは800円ぐらいからでチャージは300円。ボトルキープをすればセット料金は1,050円。生ビール735円、グラスワイン840円。安いと思う。


余談になるがこの店は時々、妙にグッと来るレコードがかかる。
俺は生涯好きな歌のベスト10位までにクレイジーケンバンドの「路面電車」という歌が入る。歌詞もメロディーも最高だと思う。大好きな矢沢永吉の「チャイナタウン」は同時代というエコひいきがあり7位。岡林信康の「つばめ」が5位以内に入る。1位は秘密だけれど3位以内にはダリダとアラン・ドロンの「あまい囁き」が中学の頃に初めて聞いた時からそこにいる。俺は何の話をしているんだろう。

「川崎」というバーが2016年に店を開けた。旅をして京都でちょっと飲む、そこには好き嫌いや合う合わないがあると思うが、俺が旅をして京都に来て迷い込んで泣きたくなるのは、今はこの店だと思う。
なぜなら、今俺はその「川崎」というバーで山口百恵の「イミテーション・ゴールド」を聴きながらこれを書いているからだ。不真面目なのではなく現場感やその時々に移ろう酒場の素敵さを伝えたいから現場で書いているだけだ。
旅をするならその土地の人達が愛する店に行くべきだ。その店と自分が合わなくてもいいじゃないか。さあ、ドアを開けよう。

※価格はすべて税込
川崎BAR
京都市中京区木屋町三条ニ筋下ル東入ル南側材木町178-3 先斗町日高ビル2階
[営業時間]18:00~翌2:00
[定休日]なし
075-255-1224

バッキー井上
京都は錦小路の西魚屋町で生まれ、以降50数年間京都以外で一度も暮らしたことがない典型的な盆地人。錦市場の漬物店「錦・高倉屋」の店主。そのかたわら酒場ライターとして雑誌などに街や酒場について多く書いている。著書に『京都 店特撰 たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる』(140B)、『行きがかりじょう、俺はポンになった』(百練文庫)、『人生、行きがかりじょう』(ミシマ社)など。Meets Regional、Dancyu、毎日新聞(大阪本社夕刊)にて連載を執筆。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
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