粋なおとなが集うバーVol.4 大阪「バー・アルディ」「バーヒラマツ梅田」

2016.04.07 更新

それぞれの街ならではの空気がただよう酒場に、客が今日も集まってくる。立ち上がるその「香り」は店の数だけある。共通しているのはどこも「顔のあるバーテンダー」がいて、それ目当てに機嫌のいい酒好きがカウンターで飲んでいることだ。

大阪は個性的なバーが実に多い。カクテルにしてもマティーニ、マンハッタンなどスタンダードなものを得意とする店、生フルーツをふんだんに使うカクテルが好評の店、あるいは旧い時代のカクテルを蘇らせる店とさまざま。
そんななかから北新地の「バー・アルディ」のマンハッタン、西梅田の「バーヒラマツ梅田」の旧き佳き時代のカクテル、ヴューカレを紹介してみよう。

カクテルのセンスが光る、バーテンドレスのバー

バーテンドレスの池田育世さんの店「バー・アルディ」は、北新地のちょうど国道2号線側からの入口にある。
6階にあるので、国道越しに大阪駅前ビルの様子がよく見える。
歓楽街・北新地のなかでもちょっと違ったユニークな夜景だ。
▲カクテルをつくる池田さんの姿はとても美しい

このバーは2009年にオープンしたのだが、それまで池田さんは約8年間、国内外のカクテルコンペで活躍し計4回日本一になった佐藤章喜(しょうき)さんが北新地に開いている「バー・ベッソ」で修業を積んでいた。
▲レギュラー・スタッフの桑原聖(あきら)さん(左)とアルバイトの吉田剣(つるぎ)さん
池田さんのスタンダードなカクテルは口当たりがよくてしかも強い。
だからこそ単純なジン・トニック(1,000円)にしても華やかな感じがするのだ。
とくにマンハッタンにカクテルのセンスと人となりがよく表れている。
もちろん客の好みによってバーボンやカナディアン、ライ・ウイスキーなどを使うが、池田さんのオススメは次の2種類。
ひとつはフォアローゼズ・ブラックを使ったもの(1,000円)。
「極めて都会的なマンハッタン。NYの太陽がじわじわっと沈み、夜の期待がわくわくするイメージ」
そして2つ目はジムビーム・ライを使ったそれ(1,000円)。
「田舎臭さが残っている、純朴で不器用なニュアンスが魅力」

2つのマンハッタンは、ベルモットにチンザノを使っているスタンダードなものだが、マラスキーノ・チェリーが2種類出てくる。
池田さんによると「まず、シロップ漬けの甘くて子どものようなイメージのチェリー、次がキルシュに漬けられた大人のせつない味」。

なるほど飲み方、味わい方も変わってくる。
はじめのチェリーで半分弱ぐらい飲んでから、次のチェリーというふうにゆっくり飲みたいので、オンザロックもおすすめだ。
池田さんはカクテルの氷の使い方には細心の神経を使う。
マンハッタンにしても、ミキシング・グラスを冷やす氷、酒をステアするときの氷、グラスに入れる氷と、さまざまな氷全体を「統括する」のがバーテンダーの仕事だという。

元々佐藤章喜さんのカクテルを見ていた関係で、オープン当初は「細かいカクテルコンペにもいっぱい出ていた」という意欲的なバーテンドレス。
2012年に行われた第39回NBA(日本バーテンダー協会)大会の創作カクテル部門において、樹木の芽吹きをイメージした「緑葉(りょくは)」を発表し、「やっと表彰台に立てて、出るのやめました」とのことだが、正確極まりない美しいフォームでシェーカーを振り、ミキシング・グラスを扱う姿はやはりコンペティターのもの。
▲そのオリジナル・カクテル「緑葉」に使うジンやリキュールなど
▲チャームに必ず出てくるキッシュ(テーブルチャージ800円に含まれている)。この日は菜の花とツナ。毎週その季節の野菜を使っている。ビールから甘口カクテルまでオールマイティに合うのが不思議
▲カウンターの木は、微妙にワイルドなニュアンスがある南アフリカのパドックを使っている
小粋でフレッシュなバーテンドレス、池田さんらしいスタンダードなフードは深夜客に好評で、ハシゴの途中の店としてビストロ遣いする酒呑みも多い。
愛嬌があってとてもやさしいタッチがする北新地の人気バー。気取らずに行きたい。
※価格はすべて税別

凄みがある平松良友さんの古典的なカクテル

「バーヒラマツ」といえば、「ミナミ、鰻谷の…」というふうに大阪のバー好きたちに知られている。
世界的なバーテンダー平松良友(よしとも)さんの店である。
2012年、西梅田のホテル、ザ・リッツ・カールトン大阪に隣接する、ラグジュアリーな商業施設「ハービスプラザ」がリニューアルした。
その時に「バーヒラマツ梅田」として2軒目を出店。
ミナミとキタとの両輪でしばらくやっていたが、約1年後この「バーヒラマツ梅田」に統合された。

同フロアにある高級ブランドのブティックとは完全に切り離された、唯一無二の空気感漂うバー空間だ。
煉瓦が敷き詰められた壁と床の奥にようやく店名が表示されてあるだけなので、ひと目でそれとはわからない。
都会空間の商業施設としては、まれに見るスタイルだ。
奥にあるドアを開けると、赤茶色に光る重厚なカウンターが目に入る。
水滴をまとった大きなクーラーではシャンパンが冷やされている。
平松さんはカクテルについての研究と知識に関しては、ほかの追随を許さない。
2012年にパリで開かれたセミナー「COCKTAILS SPIRITS(カクテル スピリッツ)」では、カクテル液中に含まれる溶存酸素量の違いによって、カクテルの口当たりがどう変わるかについて発表している。
ある世界クラスのカクテル・コンペティターは、このバーにある洋書の文献や資料を見にわざわざやってくるほどだ。

今回はクラシックなカクテルのなかから、アメリカ南部・ニューオーリンズの薫り高い「ヴューカレ」(1,550円)をチョイス。
ロンドンやパリ、ニューヨークでも再評価され、人気のカクテルだそう。

材料はコニャック、ライ・ウイスキー、スイートヴェルモット、ぺーショービターズ、アンゴスチュラビターズ、ベネディクティン。
フランスのブランデーやリキュール、アメリカ南部のウイスキーが混じった、ご当地発祥らしいカクテル。
味覚としてはマンハッタンを柔らかくしたような飲み口。ハーブやビターのニュアンスたっぷりの芳香が心地よい。
氷を入れるスタイルなので、とても飲みやすい。
▲19世紀のカクテルが多いこの店のバー・メニューは、見ているだけで惹き込まれてしまう

知らないクラシックなカクテルからデュワーズ・ソーダ(1,050円)に戻ったり、贅沢な空間でゆっくりゆったり酒精と戯れるのにふさわしいバーだ。
※価格はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

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