「てらまえ」と「布施風月」のお好み焼きを食べに東大阪へ行く

2016.03.18 更新

お好み焼き。言わずと知れた大阪名物のひとつであり、大阪のソウルフードだ。そのお好み焼き、大阪市の東隣の東大阪においしい店が集中しているのだ。東大阪商工会議所が主催した「東大阪お好み焼きグランプリ」も過去4回開催され、150店舗が参加している。そんなお好み焼き王国・東大阪。選り抜きの2店をご紹介。

近大前の偉大なお好み焼き店

近鉄大阪線長瀬駅には近畿大学前という副駅名が付いている。
近畿大学はこのところ「近大マグロ」や2015年の志願者数日本一でにわかに注目を集める大学だ。
長瀬駅を降りるとすぐ「まなびや通り」の商店街が。
ラーメン店や屋台風のたこ焼き屋に麻雀店、書店に古本屋といった大学前ならではの、それもどこか懐かしい雰囲気がする通りだ。
お好み焼きの「てらまえ」は近大の正門が近づいてくる途中の路地を入ってすぐにある。
店は新しくてモダンでオシャレ。昔ながらの古い洋食店やカフェと好対照でうまくミックスしている。良い学生街だと思う。
▲でっかいお好み焼きの「テコ」をデザインしたドアの引き手。思わずにっこりのセンス
「てらまえ」は昭和53(1978)年に、それまで大阪の生野でやっていたお好み焼き店をここに移した。
現在の店主・鈴木博和さんのお母さんが、住まいの1階をお好み焼き店にして(大阪ではよくある店舗形態)、たちまち人気になったのだが、客層はやはり近大生や近大付属の高校生が多かったものの、地元のお年寄りまで来ていたのは今と変わりない。

現在の店は2012年に建て替えたもの。
お好み焼き店にしては大バコの店。キャパは70人で、2階は6人用の掘りごたつが4台あってお好み焼きパーティーも可。
けれども創業者のお母さんは「お好み焼きは日常食やから、店が大きくきれいになっても高く取ったらアカン」と今も言い続けている。レシピもお母さんゆずりで、お好み焼きが400円台からある。
人情の店である。

近大はスポーツでも有名な大学で、大食いのアスリートもよく来る。
現在総合社会学部事務部長で水上競技部副部長の田中穂徳(ゆきのり)さんはソウルオリンピックの水泳日本代表選手。
トップスイマーだった中学3年の頃、近大附属高の水泳部の見学の帰りに先輩に連れて来てもらった時、あまりのおいしさに驚き近大附属高に進学した(笑)という。
「それで附属高から近大へ進み、オリンピックに出られたんだから、あの時の選択は間違ってなかった」と豪快に笑う。
その30年以上の馴染み客、田中さんのおすすめは何といってもモダン焼きだ。
モダンミックス(925円)は豚、イカ、エビのモダン焼き。焼き上がったら生卵にのせ、ひっくり返して半熟状態にする。
これがまたうまい。
「てらまえ」は店主の鈴木さんほかお好み焼き職人2人が店の奥の鉄板でお好み焼きや焼きそばを焼き、出来上がったらあらかじめ火が点けられていて熱くなっている客席の鉄板に素早く運んでサーブするやり方の店。
奥の鉄板には画期的な「お好み焼き器」が加わった。これを2015年にいち早く導入。
「200度で上下4分ずつ、3センチの厚さで、外はカリ、中はふんわりのスグレモノです。鉄板よりおいしく焼けるみたいです」とのこと
なによりも多忙時は一気に60人分のオーダーが入る人気店。
「一人分の働きをしてくれるんで助かります」とにっこり。
さすがお好み焼き最前線のまち・東大阪、加えてお好み焼きグランプリ金賞(2011年・2012年)に輝く店だ。

さて、モダン焼きの手順を以下に。
モダン焼きは昔通り鉄板で焼いている。
▲まず鉄板に薄くひいた生地にキャベツをのせる
▲続いてそば。これは生のままのせるのが「てらまえ」流。細麺と太麺の2種があり細い方をチョイス
▲イカ、エビをのせ、最後に豚。これは円形になるように丁寧に
▲生地を上から流し、ひっくり返して焼く。もう一回返してこれが上面になる
▲焼けると仕上げに卵。鉄板の上の目玉焼きに具がのった表面を押しつけてくっつける
▲もう一回ひっくり返したこの状態が完成。上からソースとマヨネーズをかけて出される
焼き上がると「おねがいします」とホールのスタッフに声がかかる。
ホールのスタッフは大きなちりとり状の板にのせられたお好み焼きを客席まで持って行く。
鉄板のあるカウンター席、テーブル席には青海苔、粉カツオ、一味、ソースとマヨネーズがセットされてあるから、足りないと思うひとはお好みで。
ここのお好み焼きはモダン焼きに限らずデカいしぶ厚い。
けれども生地が極力少なくキャベツが多いので軽く、ぺろりと食べられる。
モダンミックスは3種の具とそば、半熟の卵がとろりとして、変化に富んでいるから食べ飽きしない。
アツアツをはふはふ。よく冷えた生ビール(510円)をグビリ。
お好み焼き店としては、最新スタイルのしゃれた店だが、キャベツの水分や甘みに気を遣い、季節ごと気候ごとに配合を微調整するお好み焼き職人の技は一級だ。
▲アルバイトの大森由美さん。近大経営学部4年生とのこと
▲大阪のご当地ソース№1である「へルメスソース」を使用。店頭で販売(595円)
その街ごと、その店ごとに焼き方が変わり、具やソースもこだわりが違うといわれる大阪のお好み焼き。わざわざ東大阪まで出かけて食べる価値ありの1軒。

※価格はすべて税込

大阪のお好み焼きの名門「風月」の伝統を東大阪で引き継ぐ店

東大阪の中心地、布施。
近鉄大阪線と奈良線の分岐点でもある近鉄布施駅のガード下(奈良線)は、「ポッポアベニュー」という名前の商店街で、次の河内永和駅まで延々続いている。

居酒屋やうどん屋や喫茶店といった飲食店に、ブティックにテーラー、雑貨店、ヘアサロン、薬局…と、なんでもござれだ。
そのポッポアベニュー1番館のなかほどに「布施風月」がある。
この「風月」系列の元となるお好み焼き店は、昭和25(1950)年に大阪はキタ、天満で創業。
その後、生野区の鶴橋、東大阪市の布施、旭区の千林に創業者の兄弟達が暖簾分けした。
その一つの流れが昭和37(1962)年創業のここ「布施風月」で、辻昇さんが奥さんとともに「風月の創業一族の家」のお好み焼きを守り続けている。

経営母体が変わって飲食ビジネス化を突き進む「風月」系列がフランチャイズ制にし、東京や海外にも支店を持ったりするなか、この「布施風月」は開店当初からの「家族の店」を守っている。

大阪地元のグルメやファンは、お好み焼き店に関しては「地元ならではの古い店」「おばちゃんやおっちゃんの店主がやってる店」がおいしいと口を揃えるが、お好み焼きは庶民の食べ物であるが、なかなか奥が深くて、「レシピで括れないもの」だとの認識があるからだ。
一番重要なのがキャベツ。
この店のお好み焼き=風月流は、キャベツが多めでつなぎは極力少ない。古い大阪のお好み焼きファンは、大阪のお好み焼きの方向性を変えたのが「風月」だとも。

キャベツは水分量が少ない「寒玉」と呼ばれる品種のものを使うが、それも季節や産地、その時の気候で左右される。
この店では季節外の「寒玉」は冷蔵ものにこだわるが、その日の状態を見極めたうえで毎朝その日分のキャベツを刻んでいる。
この店のお好み焼きのことをホットサラダだ、という人もいるほど「サクサク」そして「ふんわり」、キャベツそのものの味もダイレクトに感じられる。
「コナもの」という言い方は、こと「風月」のお好み焼きに関しては、半分そうだがあてはまらないかも。
もうひとつの特徴、これは店主の辻さんは「鉄則」と言っているが、お好み焼きを「客の目の前の鉄板で焼くこと」だ。
これについては「キッチンの鉄板で焼いて持ってくるのは店側の都合と技術不足によるもの」ととくに辛口だ。
この店の鉄板は260~280度で焼くのだが、火を止めても余熱で「最後まで続けて焼けている状態」になるからおいしいのだと。
一度別のところに移し、温度が下がったお好み焼きは「死んでいる」とも言う。
さてこの店の名物「風月玉」(1,166円)を実況中継しよう。
▲まず客席の鉄板に火を付ける
▲しばらくして鉄板が熱くなったら油をひく。見事な手つきだ
▲大きな片手ボウル状の金属の器にお好み焼きの生地、キャベツ、牛肉、豚、イカ、海老と一切の食材が入れられて客席へ
▲それを見事な手つきで具ごとかき混ぜる。かき混ぜながら鉄板に置く、という感じだ
▲この通り。見るだけでほとんどがキャベツで生地が少ないのがわかる
▲花カツオを上から。生地が少ない「風月」の特徴で、花カツオはつなぎの役目も兼ねているとのことだ
▲横から見るとお好み焼き自体のぶ厚さや、キャベツと生地、具の具合がよくわかる
▲だいたい6分ぐらい。下面が焼けるとひっくり返す。これはシロウトでは返せないな
▲ひっくり返すとこの状態。上面も約6分。焼けるまで一切テコで触ったり確かめたりしないところが職人技
▲焼けたらソース、そしてマヨネーズ。双方混ざらないのがおいしいお好み焼きの要素の一つ。ソースはあらかじめ辛口と甘口があって聞いてくれる。

見事なお好み焼きが焼き上がり、味付けされる。これをテコで切って皿にのせ、箸で崩しながら食べるのがおいしい(見た目が悪いが)。
時には花カツオや青海苔、一味を再度ふったり、途中でソースを足したりする。
大阪のお好み焼きの偉大な流派「風月」の伝統の味を堪能しに、東大阪・布施へ行きたい。

※価格はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

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