大阪ミナミの「ごっつぉ」は洋食。名門「重亭」に食べに行く

2016.03.31 更新

大阪の「うまいもん」の一つとしての「洋食」。食べに行くならやはりミナミだ。数ある洋食店の中から今回ご紹介する「重亭」は、一番ミナミらしい街、千日前にある老舗。性別、年齢や好みを選ばないど真ん中メニューの洋食は、いつでもほっとする味だ。吉本興業、なんばグランド花月のお膝元の「ミナミ情緒」もついでに味わってほしい。

「重亭」のある大阪ミナミの風景

キタの梅田や北新地に比べて、ミナミの難波や千日前は、昔ながらの道頓堀の芝居や歌舞伎、なんば花月の寄席や漫才、吉本新喜劇など「観劇」の空気がまだ残っているのがいい。
その前後に「うまいものでも食べよう」という、実に健全な歓楽街らしい街なのだ。
▲小説家・織田作之助の『夫婦善哉』で有名な「自由軒」は「重亭」から歩いて30秒、目と鼻の先にある

黒門市場や道具屋筋といった、料理好きや店の人間が足繁く通う商店街が近く、買い物の帰りに食べに来る人もいる。
ミナミのど真ん中なので周囲にオフィスビルも多く、ビジネスマンやOL客も多い。
夜遊びの前の腹ごしらえやデートのカップル、家族連れも多い。

雑多な人で賑わっているのが、この洋食店「重亭」のある難波~千日前界隈なのだ。
▲上方落語協会副会長の桂春之輔師匠(右)とお弟子さんに店内でバッタリ。落語家、漫才師などの客が多いのも土地柄

洋食店のいいところはフレンチ・レストランや割烹料理店のように、コースや懐石料理を頼まなくても良いところだ。
一人でやってきて、ハンバーグとライス、あるいはカレーライスだけでもいい。3~4人ならテキ(ステーキ)にエビフライ、トンカツ、オムライス……と、おのおのが食べたいものをランダムに注文して、切り分け取り分けで楽しめるのが良い。
大阪流「ごっつぉ(ごちそう)」の気軽さである。
▲「メインディッシュ」と「フライ料理」に分けられているのが面白い。ポークチャップ、ミンチエッグ、ハイシビーフ(ハヤシライスのルーより具が多彩な煮込み料理)……洋食好きは迷う、絶対に

まさにミナミのこの界隈そのものの雰囲気をも具現化しているのがこの洋食店で、創業70年の歴史は味とともにミナミの人々をなごませている。

「欧風料理 重亭」と大書された暖簾、その横にはサンプルケースがあって、メニュー・サンプルに値段が表記されている。
大阪の古い飲食店や喫茶店ではよくあるパターンで、入る前から安心できる。
暖簾をくぐるとホール係のおばさんのみならず、キッチンからも「いらっしゃい」という声が聞こえる。
初めての客にも優しい心遣いだ。

奥の厨房は客席より一段と明るい照明で、客席からコックさんのテキパキと忙しい動きが見える。まるで「お客さんのために、今日もおいしくつくってますよ」との声が聞こえてくるようだ。
ハンバーグ・ステーキ(1,100円・税込)をオーダーすると、厨房の一番客席に近いところにいるご主人の吉原政志さんが、両手でパタパタパタパタとハンバーグを成形し始める。
それがフライパンに入れられるとすぐに蓋がされ、菜箸を忙しく動かしながら丁寧に火入れされる。
出てきたハンバーグは大きくてぶ厚い。180グラムあるそうだ。
弾力があって柔らかい。しっかり火が通されてあるにもかかわらず、ナイフを入れるとじわぁーと肉汁がドミグラスソースの中に染み出す。
これは大きめに切って食べたい。至福の一瞬だ。
この店は精肉店から牛ミンチと豚の塊を仕入れ、店内で挽き直している。品質をきちんと確かめるためだ。合挽きの割合は牛8:豚2で。

「大阪の味」といえば、お好み焼きや串かつ、きつねうどん、あるいはてっちりや焼肉、という答えが返ってきそうだが、「洋食」はまぎれもない食の都・大阪のうまいものの一つである。
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

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