お笑いの街、なんばの「千とせ」に名物・肉吸いを食べに

2016.04.13

その由来からして大阪的、「吉本新喜劇」そのものの「肉吸い」。肉うどんの「うどんはナシ」。つまり肉やネギ入りのダシだけを飲む「吸い物」ということで「肉吸い」と呼ばれるようになった。場所柄、この名物「肉吸い」を食べに行くことは、どっぷり「お笑いの街」に浸るということ。気分は陽気そのもの。

「千とせ」の肉吸い物語

名物「肉吸い」で有名な「千とせ」は、創業50余年、歴としたうどん屋である。
その証左に店の入口の上には「うどん そば」と大書され、店内のメニューは「かけうどん三五〇(円)」から始まっている。
どうしてこのうどん屋から、今や大阪じゅうに知られ、客の大半が注文する「肉吸い」が出来たのか。
「肉吸い」はもともと「肉うどん」である。その肉うどんは、今もこの「千とせ」の人気メニューだ。

もう20年以上も前、吉本芸人の花紀京が来た。
この店は、大阪を代表するお笑いの舞台「なんば花月劇場(現なんばグランド花月)」や、隣接する吉本興業本社社屋から歩いて1分。だから多くの芸人が、出番の合間や昼ご飯などにしょっちゅう来ていた。
▲なんばグランド花月の裏口、このすぐ横が吉本興業の本社
▲こちらがなんばグランド花月の正面
▲吉本新喜劇座長の内場勝則の着ぐるみと記念撮影
その一人であり、吉本新喜劇で当時人気沸騰中の花紀京が、ある日二日酔いか何かでうどんが胃にもたれそうなので、「肉うどん、うどん抜きで」と注文した。
店主はにっこり、それに応えて出した。

このきっかけで、「肉吸い」はどんどん人気メニューになった。
この話は大阪では結構、知られている話だ。

しかし、そば屋で「天ぷらそば、台抜き」はある店が多いが、「肉吸い」は関西広しといえどもあまり耳にしない。
民家の1階がうどん屋である店内は、4人がけテーブルが4つと2人がけが1つで埋められている。
一本筋違いの「千日前道具屋筋」は、東京浅草の「かっぱ橋道具街」と同様、各地から飲食店業者が業務用の調理器具や刃物、食器などを買い出しに来る商店街。
いろんな専門道具店が並んでいるが、面白いのはたこ焼き器やいか焼き器といった大阪ならではの調理器具が店頭に出ている店。看板やのれん専門店、手書き文字を書く店などもある。

吉本芸人に加え、そんな近所の店舗の店主や従業員もご用達の店だけあって、いつも客がびっしりの店内は、まるで吉本新喜劇の1シーンのように大阪弁が飛び交う。
「ニクスイショウタマ!」。
呪文のようにそう言って、肉吸い(650円)とセットで「小玉」つまり、ご飯小(160円)と生卵(50円)を注文する客が多い。
肉吸いは、細かめに切られた牛肉と刻み青ネギがともにどっさり。肉やネギに隠れて見えないが、ポーチドエッグ状態の卵が入っている。
肉吸いのポーチドエッグ状態の卵に加え、卵×卵だが、「卵かけごはん」には専用の醤油をかけて食べると、実に良いパートナーだというのが分かる。

肉吸いをずずっと細かく切られた肉やネギごとすすり、卵かけご飯を食べる。するとまたダシが飲みたくなる。
そのおいしさは、しみじみと下町の味がする。

うどんにしろ鍋料理にしろ、大阪の食は「ダシ文化」と言われているが、その一つのユニークさではナンバーワンが、「千とせ」の「肉吸い」ではないだろうか。

朝10時半から昼2時半までの営業というのも、これまたユニークというか…。
※価格はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP