グラン・シノワ「神仙閣」。円卓を囲み、極上の北京料理を心ゆくまで

2016.05.02

日本の北京料理店を代表する神戸の「神仙閣(しんせんかく)」。創業昭和9(1934)年。中国の要人や在神戸華僑の宴会に、必ずといっていいほど使われる名店だ。北京料理は宮廷料理にルーツがあるため、4人以上で円卓を囲み贅沢なコースを味わうのが醍醐味。

他店が真似できない、
さすがのオードブルとフカヒレの姿煮込み

「宴会料理」を真骨頂とする北京料理の「神仙閣」は、神戸の中華料理店においては「第一樓(だいいちろう)」と併せて「二大北京料理店」として知られている。

来日する中国の要人や華僑の大物たちのフォーマル・ディナーはもちろん、結婚式や誕生日の宴会、貿易やビジネスの商談成立の打ち上げなど、いろいろな食事会に使われている。
それは開港以来、神戸に多く住み着いた中国人の「ことあるたびに円卓を囲む」伝統と風習ゆえのことだ。
▲ロケーションも第一級。開港後、外国人居留地から「トアホテル」まで馬車が登るために勾配を一定につけた坂道・トアロードと生田新道の交差点から東に2軒目
▲オーダーもできる昭和15(1940)年創業の高級帽子店「マキシン」
▲浜側には「トアロード・デリカテッセン」。ミナト神戸らしい老舗店が並ぶトアロード

北京料理のごちそうの代表格「鮑参翅(バオサンチー)」、すなわちアワビ、ナマコ、フカヒレの三大食材ほかの豪快な高級料理と、400人の宴会が可能だというキャパ、中国美術工芸品や歴史的な骨董、調度品をあしらった豪華な雰囲気が他の店を圧倒しているのだ。
▲前述した「鮑参翅」の原型。手前左から黒ナマコ、アワビ、赤ナマコ、奥が世界で最高級の気仙沼産のヨシキリザメの尾ヒレ。デリケートな高級乾物は、どれも5日間以上かけて最高の状態に戻す。フカヒレは「原ヒレ」から下ごしらえする。長い時間かけて戻す過程で、鮫皮をはぎ取り、ゴミや汚れを「掃除」して、丁寧に繊維質を整える
▲これが下ごしらえされた姿煮用のフカヒレ。神仙閣ならではの、この仕事専門で50年のベテラン料理人によるまさに「作品」である
もちろん格式は高い。創業が昭和9年と神戸市内に800軒あるといわれる中国料理店の中でも最古の部類で、伝統的に北京料理本流の山東省出身の料理人が腕をふるってきた。
店舗は1995年の阪神・淡路大震災で被災し建て替えた。クラシックな建物が7階建てのポストモダンなものに替わって完全復活したときは、以前の店舗を知る地元神戸人の度胆を抜いた。
▲1階ロビー。奥にバーカウンターがある
▲芸術家然とした取締役総料理長の劉華喜(りゅうかき)さん

1階はカウンターバーのあるロビーで、2階が厨房。客室は3~7階、掘りごたつの部屋など変化に富んだ客室の総キャパシティは800人と群を抜いている。
さて、メニューだが、ランチタイムで人気を集めている「フカヒレ姿煮コース」(3,800円・税別)もナイスだが、どうせ行くなら4人以上で円卓を囲み、コース料理を堪能したい。
コースは6,000円から10,000円まで千円刻みで設定され、12,000円から上は16,000円~の特別コースがある(すべて税サ別)。
やはり「神仙閣」らしい「ふかひれの姿煮込み」「鮑の姿蒸し特製ソース」がメニューに入る、10,000円以上のコースを奮発したい。
ちなみに10,000円のコース内容は次の通り。
・伊勢海老付きオードブル
・海燕の巣の上湯(しゃんたん)スープ
・三種類の揚げ物
・海老のお料理
・ふかひれの姿煮込み
・鮑の姿蒸し特製ソース
・牛肉の煮込み又は魚の黄韮炒め
・北京ダック
・点心のセイロ蒸し
・中華菓子
・ポテトとバナナの飴炊き
・特製プリン
・果物

グラン・メゾンならではのすごい品数なのはもちろん、多くの料理のベースとなる上湯スープから点心、デザートまで、毎日大量に出るゆえの総勢22名の料理人の徹底した分業制が味を左右している。
宴会北京料理に関しては「大きな店ほどおいしい」といわれるゆえんだ。

まず「伊勢海老付きオードブル」。
お年寄りのグルメなど、これがお目当てで「あとは数品でいい」という人もいるほどの完成度。
内容は伊勢エビのマヨネーズサラダ、鮑の炒め物、マナガツオの揚げ物、貝柱、ズワイガニ、クラゲの酢の物、鶏モモの醤油煮、湯葉の煮こごり、酢豚、キュウリの甘酢。
別皿のピータン。
肉厚のクラゲは、噛むと耳にかけて「コリコリ」と快音がする抜群のものだし、貝柱にしても薄味で高貴な北京料理的な味付けがされていて絶品だ。
▲鶏モモの醤油煮、キュウリの甘酢、湯葉の煮こごり、酢豚

「ふかひれの姿煮込み」は丁寧に取り分けてくれる。それにしても繊維が太い。

フカヒレの素材自体には味がなく、むしろ特有のクセを抜き、いかにおいしい上湯で味わうかにかかっている。
こちらの上湯、ひね鶏と豚のスネを骨ごとミンチ状にして、寸胴鍋でスープを取る。
書くとこれだけだが、ドラム缶大の寸胴鍋3本分を毎日つくる。前日の残りを追い足し、いつも同じ味にするためだ。スープは半日煮込んで、ショウガとネギで風味付けしながら、アクをどんどん取る。スープが減る勢いで、どこまでも取って濾す。店の命の上湯、ひたすら丁寧に。

「鮑の姿蒸し特製ソース」。前菜のアワビは炒りつけたものだが、こちらはナマを蒸して上湯ベースのソースで味わう料理。全国から優れた黒アワビを年中吟味して仕入れている。
オードブルとフカヒレ、アワビをダイジェストしたが、「神仙閣」の魅力のやっと入口にたどり着いたと思っていただいていい。
だからゆっくり時間をかけて食べるのはもちろん、年月をかけて何回か経験すればするほど、このグラン・シノワの奥行きが分かってくる。
事実、地元神戸では華僑のみならず、親から子へ孫へ、という家族ぐるみのファンがあちこちにいる。
▲世界的に有名な中国茶専門店「天仁茗茶(てんじんめいちゃ)」からいただいたという茶壺
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

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