まるで昔話の世界!冬の「大内宿」で江戸時代からのこる町並みを歩こう
福島県の会津若松の南に位置する下郷町(しもごうまち)。ここに、江戸時代の宿場町の姿を今にのこす「大内宿(おおうちじゅく)」があります。茅葺屋根の家が並ぶ町並みは、まるで昔話に出てきそうな世界。今回は大内宿めぐりの見所と、大内宿名物「ねぎそば」を紹介します。


駅から10分で昔話の世界へ
駅前に停まっているタクシーは1台……。しばらく待つかなと思っていると、先にタクシーをつかまえたご夫婦が相乗りさせてくれました。ちょうど大内宿へ観光に行くところだったようです。
タクシーで山道を進むこと約10分。標高約650mの高さにある大内宿に着いたとたん、真っ白な雪をかぶった茅葺屋根の家が並ぶ景色が目に飛び込んできました。


取材した日は大雪の翌日で、屋根には雪が積もっていました。真っ白な雪が目を細めるほどまぶしく、キーンと澄んだ空気がおいしい!
「ここはもともと宿場町で、家々はみんな宿でした。明治18(1885)年に国道ができると、大内宿を通る下野(しもつけ)街道を通る人がいなくなり、すっかりにぎわいが消えてしまいました。それでも、ひっそりと残っていたんですよ」
そう教えてくれたのは、大内宿ガイドの山名田(やまなだ)久美子さん。
昭和42(1967)年、武蔵野美術大学の相沢韶男(つぐお)教授が、同大学の学生だったときに、大内宿に足を踏み入れ、建物や人々の暮らしぶりに感動。何年も通って文化や建築を研究し、大内宿の名を世に広めたそうです。


いまも人々が暮らしつづける生活の場
現在の人口は約130人。ここは観光地であり、人々が暮らす場所なのです。



住人みんなで守ってきた祭にも訪れてみたい!
「ここに暮らしてみたいなぁ」ともらすと、ガイドの山名田さんが、大内宿のさらなる魅力を教えてくれました。
「大内宿では年間を通していくつものお祭りがあります。そのすべてを住人たち全員で守っているんですよ。祭りの日は、子どもから大人まで集まって大賑わい。大宴会がつづきます」と、山名田さん。
お正月は、大内宿にある高倉神社のわき水を汲み、その水を沸かして皆でお茶を飲むことから新年がはじまるそうです。2月の第2土・日曜は雪まつり、7月には半夏(はんげ)まつり、ほかにも子安観音のお祭りなど盛りだくさんです。


「大内宿という名が知られる前から、人々は、こうして祭りなどの文化を大切にしながら粛々と暮らしてきました。今は観光客も増えましたが、何よりも“大内宿に住んでいる”ということを大切にしています。テーマパークではなく、生活している場所として、昔からの生活風景を見てほしいと思います」(山名田さん)
道の両脇には山からの自然水が流れていて、清らかな水の音がなんとも心地いい……。冷たく新鮮な空気もあいまってリフレッシュ効果抜群です。



「これ、なんだかわかりますか?」と山名田さんが指さす方を見てみると、茅葺屋根の下に、何やら小さな米俵のようなものが……。聞けば、これはマメコバチという小さな蜂の巣箱。大内宿は、日本でも数少ないマメコバチの生息地で、4月上旬にこの巣箱を果樹園に設置。蜂たちが受粉活動を行うことで、おいしい果物が生産されるのです。


長ねぎが箸がわり!?大内宿名物「ねぎそば」

その名前から、ねぎがたっぷり入ったそばかな?と考えながら待っていると、出てきたのは長ねぎが1本まるごとのったそば。一瞬、冗談かと思うほどインパクトがあります。

この不思議な料理は、もともとは信州のお殿様が食べていた大根おろしそば「高遠(たかとお)そば」になります。三澤屋の初代店主が箸のかわりに長ねぎを用い、薬味をかねてみたところ名物として広まったということです。
つゆは大根おろしの汁と削り節、秘伝のしょうゆで作られています。冷やしそばです。
長ねぎでそばをほぐし、ねぎの先端でそばをたぐり寄せるようにして、そばをすくって食べます。口に入れたらそのままねぎをかじり、薬味として一緒にいただきます。



そばはコシがあり、甘めのつゆと薬味の辛さが絶妙です。新鮮なねぎはシャキシャキと歯ごたえもいい。ねぎ(箸)がすすみます!
「長ねぎは、会津若松にある契約農家で育てたものを使用しています。ひと口めだけにはなりますが、そばをひっかけやすいように先端が曲がるように育ててもらっています。青い部分まで食べることができますよ。お箸も用意していますので、食べにくい方はお箸で食べてくださいね」(三澤屋スタッフ)


ねぎが余ってしまい、もったいないなぁと思っていると、ねぎ袋をくれました。取材後、自宅に持ち帰って食べたところ、まだまだシャキシャキ!みずみずしいままでした。

食後に「とち餅」をいただきました。つき立ての餅はやわらかく、とちの実の香りと風味をしっかりと感じることができました。餡はつやがあり、しっとりとしていてコクがあります。



大内宿 三澤屋
福島県南会津郡下郷町大字大内字山本26-1
[営業時間]10:00~16:30L.O.
[定休日]正月明けに休みあり(HPで案内)
0241-68-2927
「大内宿町並み展示館」で、昔の生活道具を見学

中に入ると、囲炉裏で火を熾していました。囲炉裏の前でパチパチと鳴る火の音を聞きながら、どこか香ばしい匂いに包まれて暖をとります。
「茅葺屋根は、囲炉裏から上がる煙でいぶされることで、茅の乾燥を防ぐことが出来たり、防虫効果が高まったり、塗料がコーティングされて長持ちするんです。これを『煙出し』と言います。今は、囲炉裏のある家が減ってしまって『煙出し』がめずらしくなりました」(山名田さん)

大内宿町並み展示館
福島県南会津郡下郷町大字大内字山本8
[営業時間]9:00~16:30
[定休日]12月29日~1月3日
[入館料]大人250円、小・中学生150円
団体(30人以上)大人200円、小・中学生100円(すべて税込)
0241-68-2657
晴れていれば、見晴らし台から大内宿を一望できる


「全国の田舎で過疎化が進む中、大内宿は人口が増えています。新しく家を建てることはできないので、家族や親戚しか住めませんが、息子さん夫婦が子どもを連れて帰ってきたりしています。湯野上温泉駅のほうに小学校や保育所もあるので、子育てにもすごくいい環境なんですよ」(山名田さん)
のんびりめぐること約2時間。観光地を訪れたというより、人々の暮らしの中にやさしく迎え入れてもらったようなあったかい気持ちでいっぱいになりました。
帰りは予約していたタクシーで湯野上温泉駅まで戻ります。

湯野上温泉駅のすぐ近くには足湯があったり、駅の待合室にはストーブや漫画などがあったり、時間をつぶすこともできるのでご安心を。


日常に戻っても、大内宿のことを思い出すだけで、どこかほっとこころが落ち着くような気がしました。忙しい日常をしばし忘れ、昔ながらの町並みの中でのんびりと過ごしてみてはいかがでしょうか。
大内宿
福島県南会津郡下郷町大字大内字山本
大内宿ガイド
[料金] 10名まで2,000円、11名からは1名ごとに200円追加(すべて税込)
[所要時間]1時間
※一週間前までに要予約
※「大内宿ガイド」の案内ルートに順路はなく、ガイドが参加者に、大内宿について知りたいことや見てみたいところを聞き案内してくれる。ただし、団体の場合は事前にルートなどをガイド側で決定。天候によってもかわる。今回は、「三澤屋」以外のルートを案内してもらった。
0241-67-3135(下郷町観光ガイド協会 受付時間8:30~17:00)

齋藤春菜
編集者、ライター。女性の美容・健康・ライフスタイルに関する書籍、雑誌を多数編集・執筆。文芸、料理、アート本の編集も行う。全国各地へと取材に訪れたさいには地元のおいしいお店を必ずチェックする。編集を担当した本に『お灸のすすめ』『瞑想のすすめ』(ともに池田書店)、『足もとのおしゃれとケア』『わたしらしさのメイク』(ともに技術評論社)、『はじめてのレコード』(DUBOOKS)、『顔望診をはじめよう』、『月の名前』、『健康半分』などがある。
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