「大谷石」の採石場と静かに水を湛える地底湖へ。地下神殿のように美しく荘厳な空間に感動

2016.03.30

「採石場跡」と聞くと、どんなイメージがあるでしょう?想像つかない?「大谷石(おおやいし)」は栃木県宇都宮市で採れる石。江戸後期から採石され、加工して建築物に利用されてきました。その「大谷石」の今と昔に触れるツアーに参加します。

現在も稼働する「大谷石」の採石場

▲暖かみのある肌合いが特徴で、加工しやすいため建築物によく使用される「大谷石」
栃木県宇都宮市の北西部にある大谷地域一帯で、江戸時代の後期頃から採られていたという「大谷石」。採石は明治時代から盛んになり、昭和40年頃のピーク時には240軒程の採石場がありました。しかし今はわずか8軒しかないといいます。
大谷石を採石するのも運ぶのも、当然人の手によって行われてきました。それは想像以上に過酷な労働。大谷石の価格の70%が人件費だった時代もあります。昭和47年頃になると安価なコンクリートブロックが日本でも普及し始め、高価な大谷石は徐々に廃れていったようです。大勢いた職人たちも大谷を離れ、今では周辺の空家率が5割となってしまっているそうです。
▲宇都宮方面に運送するため、石切り場から大谷石を運び出す当時の様子。昭和19年以前のものとみられています(写真提供:大谷石材組合)
今回はLLPチイキカチ企画の「OHYA UNDERGROUND 大谷地底探検と里山ハイキング」のツアーに参加してきました。
▲ツアーは「道の駅うつのみや ろまんちっく村」より出発。帰りもここで解散
道の駅からバスに乗り、採石場まで移動。現役の採石場を見学させてもらいます。大谷石が並ぶ様子は圧巻です。

ハイキングしながら出会う荘厳な景色

先ほどの採石場から移動し、里山ハイキングへ。切り開かれた山道を登ることもあるので、動きやすい格好がおすすめです。
かつて採石していた人々が使っていた休憩所やお風呂場などが、当時のままの姿で残っていることに驚きます。
採石場は地下深く、自然光が当たらない世界。作業を終えて地上に戻った人々がどんな思いで太陽を見つめ、休憩所でつかの間の楽しみであろう酒を酌み交わしたか、想像が膨らみます。
▲目の前には当時のまま残る建物が。ぜひ中を覗いてその空気を感じてほしい
▲更に歩いて奥へ進みます
地層のような大谷石の間、上に伸びる木々の間を歩き、ふと見える地下空間。ガイドさんが「あとからあの場所に行くんですよ」と教えてくれるのですが、なんだかまだピンときません。

そして急に広がる採石場。
これが人の手で掘られたとは到底思えないほど、美しい壁面。中に入り見上げると、波打つような模様が出来上がっています。手際の良さ、きめ細やかさなどそれぞれの職人によって壁面が違っていることも非常に興味深いです。
▲歩いて辿り着く、その初めての景色に言葉を失う
人が造ったとは思えない、と感じる反面、人の手の温もりや心を感じる不思議な感覚。光が当たらない場所はひんやりとしますが、だからこそ感じる温かさもあります。自然にずれた岩、自然に裂けた壁。すべてがあるべき場所に戻ったかのような静かな空間です。
▲かつてはひとつだったと思われる石の裂け目
そこを抜けると、また里山の木々が迎えてくれます。岩山の上に草木が伸びる大谷らしい原風景ともいえます。

先ほど見た稼働している現代の採石場から、少しだけタイムスリップして現場を見学しているようです。ここに人はいませんが、確かに人の気配を感じる。「見学」というものの中で、最も価値があるもののひとつと言えます。

ついに地底湖へ!そこから広がる雄大な空間

▲暗闇に広がる地底湖。小さな声も響き渡る空間
奥へ進むほどに気温が徐々に下がり、光も遠くなります。黄色のボートがぼんやりと浮かぶなか、地底湖の水がゆらゆらとし、自分の影が大谷石の壁に強く映ります。

最低限の光しかない空間で、目にするものは職人が掘った壁と、天井と、自分たちだけ。

川からの流出入があり水が溜まった場所を「湖」と呼びますが、この地底湖の水はどこからくるのか?目にする神秘的な光景と、ガイドさんのお話に興味は尽きません。
装備を整えていざ出陣。ガイドさんのサポートを受けてボートに乗り込み、いざ出発です。
暗いため深さは感じられませんが、触ると水も冷たい。年間での水量は大きくは変わらないそう。
斜坑も通過し、奥に行くほど斜めに狭くなります。ちょっとドキドキしながら行けるところギリギリまで!天井に触れてみると、職人が掘った石のリアルな感覚が伝わってきます。荒々しい、生の感覚が手に残ります。
途中でボートを降りて、別の空間へ移動します。
▲狭い入口から広がる空間に、言葉を無くす
先ほどの地底湖とは別の入口から人が掘ってきたのであろう、まったく別の空間に出てきました。地上からは想像もつかない場所が、あちこちで繋がっているようです。わかりやすくいえば、地下の「アリの巣」のようなもの。色んな道から色んな空間へとつながっているわけです。

足元の岩、天井の緩やかさ、それとは異なる鋭敏な縦の壁。そこに差し込む上からの光…。時々、くるくると回りながら小さな葉っぱが落ちてきます。全てが静かで、誰かがここに腰かけて休憩していたかもというような、リアルな感覚と同時に、人間が本来入り込んではいけないような神聖な空気が混在します。
最初は感動の声をあげていた私たちも、この空気の中にいるとどんどん無言になっていきます。
かつて採石した石を外へと運び出していたトロッコの線路跡や、別の入口なども発見しました。里山ハイキングで見ていた場所が、こことつながっていたのか!という感動も。
昔の職人たちも知ってか知らずか、掘りながらも思いがけない場所に出てくる、なんてことがあったかもしれません。
▲光の世界へ。太陽の輝きが最高にあたたかい
現代の採石場、そして150年ほど前のまま残る採石場跡を里山から眺め、最後には地下空間へとつながるツアー。
時代を経て変わっていくものは多くありますが、大谷の職人たちが働き続け、残してくれたものははかり知れません。

地底湖探検!というアクティブな一面はあるものの、感じられるのは大谷で働いていた人々の息づかい。
「OHYA UNDERGROUND 大谷地底探検と里山ハイキング」は、大谷の人々の今と昔をつないでくれるツアー。きっとその壮大さに感動するでしょう。
金澤佑樹

金澤佑樹

旅行ライター・編集者。 旅行雑誌で新潟や栃木を担当して12年の後独立。現在はLCCの機内誌tabicシリーズを制作。LCCを使って弾丸日帰り旅するのもダイスキ。4人の子どもの母でもあるため、長期は家を空けられないと言う理由もある。好きなものは、旅とビールと子どもたち。

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