いづう 創業230年、花街が愛した鯖姿寿司を召し上がれ

2016.03.01

創業天明元年(1781年)。京都・祇園新地の現在地で変わらず暖簾を守りつづける老舗寿司店「いづう」。創業時から続く名物「鯖姿寿司」をご紹介しよう。

祇園の目抜き通り「花見小路」より一本西の通を北へ上れば、「いづう」の暖簾を見つけることができる。屋号は、この地で創業した初代「いづみや卯兵衛(うへえ)」の名にちなんで名づけられた。
もともと、京都の町衆の間で、ハレの日に食す家庭の味であった鯖寿司。それを専門店としてはじめて世に送り出したのがいづうの「鯖姿寿司」だ。
長年、お座敷への出前やお土産として、花街の旦那衆を中心に愛され続けてきたが、一般客には味わうことが難しいものだった。ところが、1970年に当時の六代目が本店に腰掛処を設けたことで、誰でも気軽に味わうことができるようになった。
▲本店に設けられた腰掛処。昼時には鯖姿寿司を求めて多くの人がつめかける
▲迫力のある木彫りの寅の絵馬は、蔵に眠っていたものだそう。老舗の歴史を感じさせてくれる
▲古い水車の軸を利用した卓。水に関わるものは「沈まない」という縁起物なんだとか。長く続く店のこだわりはこんなところにも

古伊万里に映える鯖姿寿司。
色香すら感じる美しい一皿

お座敷への出前は、創業時から変わらぬこの「上菊の一本盛」。
鯖姿寿司の代表的な盛り付け方だそうだ。
この美しい一皿が運ばれた時の、宴席の華やかな雰囲気は想像に難くない。花街に長く愛されているからだろうか、艶っぽさすら感じる一皿だ。
断面の酢飯の形は、初代の卯兵衛の名にちなんでうさぎ型に見えるように工夫されている。これも創業時より続く伝統だそうだ(鯖姿寿司1人前税込2,430円※写真は2人前)。
さっそく、一切れ口に含む。まず、鯖と酢飯の食感のバランスがいい。鯖、米、鯖、米。かみ締めるほど、口の中で米と脂の旨みがほどけあう。塩加減も絶妙だ。合わせ酢と昆布の成分が、あとからそっと旨みをサポートする。
鯖の浸かり具合は比較的フレッシュで、全体的にさっぱりとした印象。丁寧な仕事ぶりが、一口でわかる流石の味だ。

変わらないこと、変えていくこと。
八代目に聞く「いづうの心」

230年以上も愛され続ける鯖姿寿司。その美味しさの秘密は何か、老舗の暖簾を受け継ぐ若主人・佐々木勝悟さんにお話を伺った。
「基本になる部分は変えずに、時代や環境に合わせて少しづつ調整をしていくことが大切だと思います」
食材の仕入れや物流などの変化、経済状況による消費者の変化…商売の環境は日々刻々と変わっていく。
そんな中で、いろいろなお店を食べ歩いたり、外に出て街の空気を感じたりして情報収集につとめ、状況の変化に合わせてお店を導いていくこと、それが若主人の役目なんです、と佐々木さん。
嗜好の変化に合わせて味付けを微調整をしたり、ニーズに合わせて改良を加えたりと、小さな工夫を積み重ねて至った今日。
ただし、「商いは、両手の範囲で」。
調子がいいからといって商売を広げすぎず、目と手の届く範囲で実直に美味しいものを作り続ける。それが、代々受け継いできた、いづうの大切な心なのだそうだ。
「じゃあ、ちょっと握ってみましょうか」と調理場へ案内してくれた佐々木さん。鯖姿寿司の調理を実演していただいた。

塩で〆られた鯖の半身を手際よく捌き、長方形の板状に並べる。その上に酢飯をのせ形を整え、ふきんを巻いて棒状に成形していく。

「鯖の食感と酢飯の食感がバランス取れるように、少し固めに握ってますね。そのほうが、保存性も高まるんですよ」とのこと。

鯖は馴染みから仕入れる間違いのない近海もの、米は滋賀県産江州米、昆布は北海道産の真昆布と、素材も吟味を重ねたものばかり。一級の素材を、積み重ねた技で仕上げていく。これぞ、老舗の老舗たる所以なのだ。

時間の経過とともに増す旨み
お土産は味の変化を楽しんで

作りたてのフレッシュな鯖姿寿司をお店で味わったら、もう一本をお土産(2人前税込4,860円)で持ち帰ることをおすすめする。
半日、1日と時間を置くごとに、鯖に昆布の出汁が染みこみ、鯖の旨みが酢飯に溶け出し、全体の味がひとつにまとまって、えもいわれぬ美味しさを醸し出すのだ。常連客の中には、置き時間を計算して、半分は夜に、もう半分は翌日のお昼に、と食べ分けている人もいるそうだ。
酢飯が硬くなるので冷蔵庫には入れず、常温で2日、味の変化を楽しみながら味わおう。
お土産の包み紙に描かれているのは、お店の象徴であるウサギと、富士山、三保の松原。日本一の矜持を込めて、創業より変わらない木版画が使われてる。

「商標をとらなかったのは、京都の名物として日本全国に広めたかったから。日本の食文化として根付かせていきたい」と佐々木さん。

家に戻り、頂いたお土産の鯖姿寿司を一切れ頬張りながら、若主人の情熱がこもった言葉をかみ締めた。

奥深い京の老舗の味、ぜひご賞味あれ。
妙加谷 修久

妙加谷 修久

京都市在住の旅行系ライター兼ディレクター。全国各地に足を運び、旨いモノを食べ、温泉に浸かる日々。ここ京都を中心に、知っているようで知らない「日本のイイトコロ」を紹介します。日本酒好きが高じて利き酒師の資格を取得しました。

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