京都クラシックカフェ 珈琲都市の文化を継承する名店3選

2016.03.15 更新

コーヒー消費量が日本一の政令指定都市・京都市。町には新旧さまざまな喫茶店やカフェがあり、一大珈琲文化圏を形成している。そんな京都のカフェカルチャーをリードしてきた名店の、こだわりの一杯&一品を紹介しよう。

京都珈琲文化の草分け的存在
「イノダコーヒ本店」

創業は昭和21年。戦前からコーヒー豆の卸をしていた猪田七郎(いのだしちろう)さんが復員後、倉庫に大量に眠っていたコーヒー豆を使って始めたコーヒーショップが店の始まりだ。
創業時から変わらず、本店のある堺町通三条で営業している。現在は市内に8店舗、東京や横浜などにも支店を持つ老舗の喫茶店だ。
▲旧館と新館をつなぐ通路。赤レンガの建物が重厚な雰囲気だ。コーヒーや食事は新館で作られて旧館へと運ばれる
▲新館の2階から見た店内。昭和の空気が漂う、レトロでクラシカルな雰囲気。正統派の「喫茶店」といった趣

創業時から変わらぬ味
「アラビアの真珠」

▲アラビアの真珠560円(税込)
イノダコーヒといえばコレ、という代名詞的存在が「アラビアの真珠」。モカコーヒーをベースにしたヨーロピアンタイプの深煎りで、ホットコーヒーは創業から変わらぬブレンドだそうだ。酸味、コク、旨みのバランスが絶妙だ。
近年でこそ砂糖とミルクを入れるか聞くそうだが、本来は砂糖・ミルク入りが基本。創業当時、高級品だったコーヒー。1杯を時間をかけて飲む人が多く、冷めて砂糖やミルクが溶けにくくなることがよくあったそうだ。予めどちらも入れておけば、冷めても美味しく飲めるだろうという配慮から始まったスタイルだ。
砂糖・ミルク入りではあるが、甘すぎるということは一切なく、むしろコーヒーの酸味やコクを濃密に引き立てている。

相性抜群のパートナー
「ラムロック」

▲ラムロック480円。お好きなコーヒー・紅茶とのケーキセットは950円(いずれも税込)
戦後、銀座でにぎわっていたドイツ人シェフのレストラン「ケテルスレストラン」。80年代に惜しまれて閉店したが、ケーキ部門のレシピや職人、「ケテル」という名と共にその伝統を受け継いだのが、イノダコーヒだ。

懐かしくも洗練された味わいのイノダコーヒのスイーツ。中でも1,2の人気を争うのがこの「ラムロック」だ。細かく砕いたスポンジケーキにラム酒をしみこませて成型し、ビターなチョコレートでコーティング。甘さ控えめで、ラムのいい香りがふわっと漂う大人な味わいだ。

ラムロックをちびちびと少しずつ口に運んでは、アラビアの真珠を一口。店内に流れるゆるやかで大人びた雰囲気に身をゆだね、京都の珈琲文化を存分に味わおう。

老舗のソウルを今に受け継ぐ
「喫茶マドラグ」

御池通から一本北の押小路通沿いで、50年近く地元民に愛され続けた純喫茶「セブン」。惜しまれて閉店した同店を受け継ぐ形で2011年にオープンしたのが「喫茶 マドラグ」だ。通りから店を眺めれば、「セブン」の名が刻まれた看板が当時のままに残されている。
古き良き喫茶店文化を愛する店主の山崎三四郎裕崇(やまざきさんしろうひろたか)さん。
セブンの閉店時に、なんとかこの素敵な空間を残したいという思いにかられ、この店を受け継ぐことを決めたそうだ。

店内の内装や調度品は、セブンの頃の面影を残しつつ、現代的なセンスが随所に加わり、古さと新しさが見事に融合した空間になっている。
▲店内に飾られた洋画のポストカード。無造作にはられてるように見えて店の雰囲気にしっくりと収まっている

復刻版+店主のオリジナル
「コロナの玉子サンド」

▲玉子サンド680円、クリームソーダ530円(いずれも税込)※セットの場合は総額より100円引き
そんなマドラグの名物は、この玉子サンド。京都河原町の名洋食店「コロナ」から受け継いだ復刻版だ。もともと、コロナの玉子サンドのファンだった山崎さん、ご縁があってコロナの店主から直接作り方を教えてもらい、免許皆伝をうけたそうだ。

ただ、現在は当時のものより大きくなっていたり、レシピや製法も微妙に進化しているとのこと。
「常連さんの思い出の中にある玉子サンドはなかなか手ごわくて。自分なりのやり方も試しつつ、今にいたっています」と山崎さん。

早速大きく口を開けてパクリ。ふんわりジューシーな食感。ほのかに香るダシの味、そして酸味あるデミソース。パンも厚切りで食べ応え充分、なのにペロっと食べられてしまうから不思議だ。
純喫茶的クリームソーダも、ザクロの赤が鮮烈な印象。玉子サンドのイエローと美しいコントラストだ。
店内に置かれた赤いベンチもまた、京都木屋町の名喫茶「みゅーず」から受け継いだもの。京都喫茶店今昔物語。積み重ねた時と現在が交錯する空間で、受け継がれた名店の味を堪能してみては。

親子三代で紡ぐ珈琲文化
「六曜社珈琲店」

三条通から河原町通を下がると程なく、「六曜社珈琲店」の看板を見つけることができる。今はすっかり若者の町になってしまったが、古き良き大人の町・河原町の面影を残すシックな店構えだ。開店の8時半には、古くから通う常連客が思い思いにモーニングを楽しんでいる。
「六曜社珈琲店」の創業は昭和25年。終戦後に奥野実さんが夫婦で始めた喫茶店は、河原町という土地柄もあってか、多くの文化人たちが足しげく通ったそうだ。

創業時は地下階での営業だったが、のちに1階にも拡張し、現在のスタイルに至ったとのこと。1階を切り盛りするのは、実さんの孫の薫平(くんぺい)さん。土曜日には実さんの奥様、八重子さんもお店に立っている。
▲こちらは昼の12時から営業する地下店。実さんの三男・修さんが担当している。歴史を感じさせる店内は、濃密な文化の香りが充ちている
▲お店の入り口に鎮座するレジスター。「いつから使ってるかは定かじゃないですが…」と薫平さん。今でも現役なのだから驚きだ

異なるスタイルで味わう、
珈琲のある豊かな時間

1階のコーヒーは、実さんの頃から変わらぬネルドリップ式。おいしさを引き立てるようオリジナルでブレンドされた豆を使用している。地下は、修さんが生豆からハンドピック(質の低い豆を除く作業)し自家焙煎した豆を、一杯づつ丁寧に淹れている。
「1階は、いわゆる昔ながらの喫茶店。地下は、こだわりの一杯をゆったり楽しんでもらう空間ですね」と薫平さん。
創業者の想いを受け継ぎながら、子が孫が、それぞれのスタイルで六曜社を表現しているのだ。
▲オリジナルブレンドコーヒー500円、ドーナツ150円(いずれも税込)
六曜社で味わうべきは、コーヒーとその相棒の「ドーナツ」だ。こちらは修さんの奥様の手作りで、毎朝出来立てがお店に運ばれる。周りサクサク、中はもっちり、小麦の甘さと香りを感じる素朴な味わいだ。
深煎りでしっかり味、ほのかな酸味を感じるコーヒーとの相性もぴったり。コーヒーで口の中を潤し、ドーナツをパクリ。かみ締めた後に、コーヒーを啜って余韻を楽しもう。
肩肘はらず頭をからっぽにして過ごせるのは、ただ美味しいコーヒーがそこにあるから。六曜社珈琲店なら、そんな「珈琲のある豊かな時間」を味わえるだろう。
いかがだっただろうか。一杯の珈琲に込められた、積み重なった時間と受け継いできた人々の思い。たかが珈琲、されど珈琲。京都を訪れたのなら、こういう店で過ごす時間が贅沢なのだと思う。
妙加谷 修久

妙加谷 修久

京都市在住の旅行系ライター兼ディレクター。全国各地に足を運び、旨いモノを食べ、温泉に浸かる日々。ここ京都を中心に、知っているようで知らない「日本のイイトコロ」を紹介します。日本酒好きが高じて利き酒師の資格を取得しました。

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