「こんぴらさん」の本当の魅力は、長い長い石段を登らないと分からない

2016.05.05

「こんぴらさん」の呼び名で親しまれている、香川県仲多度郡(なかたどぐん)の金刀比羅宮。その最大の特徴は、御本宮まで続く長い長い石段です。参道入口から御本宮まで石段の数は785段(奥社まで行けばなんと1,368段)。登るのはもちろん大変ですが、ここには登った人たちを皆笑顔にする何かがあります。そこで実際に石段を登って、その秘密を体験してみました。

江戸時代の人たちの憧れ「こんぴら参り」

古くから信仰の地となっていた金刀比羅宮への「こんぴら参り」が全国に広まったのは江戸時代のこと。当時は庶民が旅をすることを禁じられていたのですが、金刀比羅宮や伊勢神宮を始めとした社寺への参拝の旅は、その限りではありませんでした。金刀比羅宮も「一生に一度はお参りしたい場所」として、多くの人々の憧れのまとでした。
農業殖産、漁業航海、医薬、技芸など、さまざまな神徳を持つ神様として、現在も厚い信仰を集めています。
ちなみに「こんぴら」というちょっと変わった響きのある名前は、サンスクリット語の「クンビーラ」(ガンジス川に住むワニが神格化されたものを指す)が語源だと言われています。

レトロな駅からこんぴら参りの始まりです

スタート地点はJR琴平駅。赤い屋根の駅舎は、大正時代に建てられたレトロな欧風建築です。付近には町営の駐車場があるので、車で来た人はそちらへの駐車がおすすめ。
駅を出るとすぐ正面に狛犬と灯籠が並んでいて、遠くには鳥居も立っています。神社はまだまだ先なのに、ここからもう、こんぴら参りの雰囲気がたっぷり。
お参りのルートはいくつかありますが、今回は「旧高松街道」を選択しました。「旧高松街道」に入り、江戸時代に奉納された鳥居をくぐった先は古い商店街。生活雑貨を販売する、懐かしい雰囲気のお店が並んでいます。
商店街を出て橋を渡ると、表参道入口です。ここからは道の両側にお土産屋さんや飲食店が建ち並んで、一気に賑やかになってきます。
この辺りには、江戸時代から金刀比羅宮の御神酒として愛飲される地酒「金陵(きんりょう)」の製造元の資料館「金陵の郷」や、讃岐うどんの手打ち体験ができる「中野うどん学校」など、注目スポットもたくさんあります。
石段を登り始める前に、便利なグッズを紹介。
参道横に並ぶ多くのお店では、参拝客のために「杖」の無料貸出を行っているので、ぜひ借りていきましょう。足に自信のある人も、そうでない人も、後々必ず助けになるはず。写真は「しょうゆ豆本舗」さんのレンタル杖です。
参道の石畳が終わり、いよいよ石段が始まります。気合いを入れて登って行きましょう。どうしても自信がないなら、石段下にいる「かご屋」さんにお金を払って、運んでもらうのもいいでしょう。石段をかごに乗って上がるという、貴重な体験ができます。
その途中にある「山中象堂(ぞうどう)」は、明治から続く讃岐一刀彫のお店。こちらで斬新な伝統工芸作品が人気になっています。それは現代アートのようなカラフルな色付けをした「POPだるま」。
▲伝統的な彫刻につけられたカラフルな模様が目を引くPOPだるま(6,480円~・税込)
伝統工芸士の山中さんが彫り、大学でデザインを学んだ娘さんが色を付けただるまは、水玉やボーダーからオリジナルの柄まで、デザインは自由自在です。全国から注文が殺到し、3年先までの予約が埋まっているため現在注文は休止中ですが、店頭ではキュートなだるまと、山中さんの仕事の様子を見学することができるので、ぜひ立ち寄ってみましょう。
▲店頭で彫刻の実演をされている山中さん。この日は仏像を彫られていました
さらに進んで石段を右側へ曲がると、道の両側に赤茶色の狛犬が立っています。この狛犬は石ではなく備前焼製。岡山から奉納された重要文化財です。
狛犬の辺りで、石段は100段を突破。ここからは「一の坂」と呼ばれる最初の難関です。石段の勾配が急にきつくなるため息が上がりますが、あまり急がずマイペースで進んで行くのがおすすめです。
「一の坂」を登った先にあるのは「大門」。高松藩初代藩主・松平頼重侯により奉納されたこの門をくぐれば、金刀比羅宮の境内です。
ここまで365段。門の前では飲み物を販売していることもあるので、ここでひと休みして後半戦に備えましょう。ちなみに「かご屋」さんに運んでもらえるのはここまで。後は自分の足が頼りです。
大門から来た道を振り返ると、いきなり遠くまで見渡せるほど視界が広がります。少しずつ足を進めてきたので分からなかったのですが、既にかなり高いところまで登ってきたことを実感。
境内に入ると、参道の両側で大きな笠を広げて店を出している人たちを発見。こちらは「五人百姓」という、境内で唯一営業を許されている由緒あるお店です。販売しているのは、「加美代飴(かみよあめ)」という砂糖と水飴で作られたべっこう飴のみ。素朴な甘さが歩きの疲れを癒してくれます。
大門からしばらくは、さっきまでの急な石段がウソのように、なだらかな石畳の道が続きます。この道の両側には桜が植えられていて、春には見事な桜のトンネルが目を楽しませてくれます。
少し道を右にそれた場所には、金刀比羅宮が所有する様々な宝物を展示する「金刀比羅宮宝物館」があります。十一面観音立像や、能面・舞楽面などの中裕文化財、三十六歌仙額などが見所です。
石畳の平坦な道が終わると少し開けた場所に出ます。正面に鎮座しているのは「こんぴら狗(いぬ)ゴン」の像。江戸時代、こんぴら参りに行けない人が、行く人に飼い犬を託して自分の代わりにお参りをしてもらったという話にちなんだ像です。
その右手には、日本近代洋画の祖といわれる高橋由一(たかはしゆいち)の油絵を、27点も常設展示している「高橋由一館」が。由一はここに滞在して油絵を描いたとこもある、金刀比羅宮ゆかりの画家です。
さらに周辺に点在している「君が代」の歌詞に出てくる「さざれ石」、奉納された巨大プロペラ、アフリカ象の像、本物の神馬などを見終えたら、参道に戻りましょう。ここからは再び石段が始まります。
石段を登り始めてすぐの「表書院」では、重要文化財の円山応挙(まるやまおうきょ)の障壁画や襖絵が見学できます。中でも虎の間に描かれた応挙の代表作「水呑の虎」は、ぜひ見ておきたい逸品です。
表書院前から石段を進むと、約500段目辺りで第2の難関が姿を現します。道幅こそ広いものの、勾配の急さは一の坂に劣らない角度です。
石段が切れると目の前に荘厳な建物が姿を現します。ようやくゴール…ではありません。
初めて参拝した人の多くが御本宮と勘違いするこの建物は「旭社(あさひしゃ)」。金毘羅大権現時代に金堂だった建物で、全体に彫られた細やかな彫刻は見る物を圧倒する美しさです。
ここまでの段数は628段。正面には休憩所があるので、最後の難関に向けて英気を養いましょう。
旭社の右手を進むと、ついに最後の難関です。全行程でも最も急角度の石段が133段も続くという苦行のような坂ですが、一歩登る毎に少しずつ御本宮の社殿が見えるようになるにつれて、登っている人たちの顔も少しずつ笑顔になってくるから不思議。
特に登り切った時には、さっきまで疲れ果てていた人たちが、皆一様に解き放たれたような爽快な笑顔に包まれています。このちょっとハイになる感覚は、785段を制覇した人だけが共有できる喜びなのでしょう。
上がった息が落ち着いたら、御本宮にお参りを。大物主神(おおものぬしのかみ)と崇徳天皇を祀る御本宮には、海上守護・農業・殖産・医薬など、様々なご利益があると伝えられています。
御本宮で引けるのが「開運こんぴら狗みくじ(100円)」。主人に代わってお参りをした「こんぴら狗」にちなんだおみくじで、犬の像の背中におみくじが入っています。袋の中には、おみくじと一緒に「こんぴら狗」の形をした金のお守りが。財布などに入れておけば、ご利益があるかも。
社務所では様々なお守りが購入できます。写真は金刀比羅宮のキャラクター・笑顔元気くんの刺繍が入ったお守り(500円)。カラフルな色使いが新鮮です。
御本宮の右手は展望台になっています。海抜251mの高さから見渡す風景は絶景で、天気が良ければ讃岐平野の向こうに讃岐富士や瀬戸大橋なども見ることができます。
御本宮と展望台の間には、奥社へ続く道が。奥社まではさらに583段、往復1時間以上かかるので、挑戦したい人は体力と時間に相談してチャレンジを。
こちらは絵馬堂。海上守護で有名な神様だけあって、様々な船にまつわる絵馬が奉納されています。中には宇宙飛行士などの有名人が奉納した絵馬も。

これも「こんぴら参り」のお楽しみのひとつ
グルメスポットを楽しみながらの帰り道

足下に気をつけながら、石段を下りてきました。帰りにはちょっと寄り道して、スイーツや美味しい物で疲れを癒やしましょう。
参道にはテイクアウトできるスイーツやドリンクのお店もたくさんありますが、そのうちの一軒「しょうゆ豆本舗」では、ひと味違ったソフトクリームが食べられます。その名も「かまたまソフト」。
▲爽やかなショウガの刺激がクセになる「かまたまソフト」(350円・税込)
茹で立てのうどんに生玉子をからめて食べる、讃岐うどん独特のメニュー「かまたま」をイメージ。ソフトクリームは細く絞り出したうどん風、味付けは甘辛いショウガ味、そしてなんと刻みネギがトッピングされています。
ありえないような組み合わせですが、食べてみるとソフトクリームの甘さとショウガ・ネギの刺激がマッチしていてビックリ! 怖がらずにぜひチャレンジしてみましょう。店内には椅子もあってイートインもできます。
もう一軒、味わってほしいのはお肉屋さんの揚げ立てコロッケ。商店街の出口にある「平岡精肉店」の名物です。奥さん手作りのコロッケは、マッシュポテトで挽肉を包むという独特の作り方で、食べると中からじゅわっと肉汁があふれてきます。「肉コロッケ」は1個150円(税込)、スパイシーな「ミンチカツ(1個270円・税込)」も人気です。
▲アツアツをほおばりたい「肉コロッケ」
お土産にぜひ買って帰りたいのが「浪花堂餅店」の「五色餅(1パック600円・税込)」。琴平で100年以上続く老舗餅店が、昔ながらの製法で作る素朴な餡餅です。5色のお餅は、白、ヨモギ(緑)・タカキビ(茶)・アワ(黄)・丹波黒豆(黒)。程良い甘さの餡は、北海道産小豆を4時間もかけて煮込んだもので、お餅との相性抜群です。
五色餅と同じ餡を求肥とパイ皮で包んだ「あん餅パイ(1個120円・税込)」も人気。夕方には売り切れてしまうので、参拝前に買っていった方がいいかも。
お店は路地の奥にあるので、案内看板を頼りに探してみましょう。
御本宮まで往復約1時間、785段の石段の旅。こんぴらさんには、その長い石段を登らせる不思議な力があります。そして登りきったときの達成感と爽快感は絶大で、参拝すればありがたさもひとしおに感じられます。
昔から多くの人々に親しまれてきた「こんぴら参り」の魅力を、ぜひ自分の足で踏破して、感じてみて下さい。
篠原楠雄

篠原楠雄

香川県のタウン誌・TJかがわ編集部で14年間在籍した後独立し、フリーライターに。5年間に渡り香川県内に新しくできるうどん店を取材し続けたおかげで、すっかりメタボ体質に。さぬきうどんブームを仕掛けた「麺通団」の初期メンバー・S原でもある。

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