函館あいがけカレー/全国カレー巡礼の旅Vol.17

2016.03.11

今や世界中で愛されるカレー。しかし、カレーの世界というのは奥深いもの。この企画では、カレーの第一人者・井上岳久先生と、私、カレー初心者ライター・井上こんの“ダブル井上”で全国の名店カレーを食べ歩き、先生の解説とともに地域性や歴史背景も交えてさまざまなカレーを紹介していきます!

前回は、青森県民に広く支持される名物・味噌カレー牛乳ラーメンを紹介しました。さて、今回はどんなカレーが登場するのでしょうか。

【Contents】

1.天皇陛下も足を運ばれた 老舗中の老舗へ
2.明治と大正、ふたつの時代が口に広がる
▲二十間坂(にじゅっけんざか) を上っていく途中に目的のお店はあります

1.天皇陛下も足を運ばれた老舗中の老舗

今回の舞台は異国情緒あふれる街、北海道は函館。西洋建築が立ち並ぶ函館山麓の坂の途中にある老舗西洋料理店「五島軒(ごとうけん)」へやってきました。これまで数々の著名人のみならず天皇陛下も足を運ばれたことがある同店は、北海道の西洋料理店における開祖的な存在です。
▲どっしりと風格を湛える重厚な洋館を前に、背筋がシャンと伸びるのを感じます

130余年の長い歴史を持つ「五島軒」。東京で米問屋を営んでいた初代・若山惣太郎氏が函館に居を移し、明治12(1879)年、函館のハリストス正教会でロシア料理を習得した五島英吉氏を初代料理長に迎え、ロシア料理とパンの店として創業したのが始まりです。
▲宇宙飛行士の若田光一さんが「宇宙でもカレーを食べたい」と同店のレトルトカレーを宇宙へ持っていかれたというおもしろいエピソードも
▲荘厳な雰囲気が漂う館内。100年前にタイムスリップしたような感覚を覚えます
▲大きな窓から光が差し込む洗練された空間

ロシア料理の店としてスタートを切った同店でしたが、その後、より受け入れられやすいフランス料理に方向転換をし、さらにカレーやグラタンなどカジュアルな洋食も加わっていったとされています。

2.明治と大正、ふたつの時代が口に広がる

そんな「五島軒」には、当時 の味を感じられるカレーメニューがあります。
▲あいがけカレー(税抜1,300円)。サラダ、コーヒー付き

2013年から提供を開始した「あいがけカレー」。ライスを挟む2種類のルーが特徴です。実はこれ、向かって左側の薄い色のルーは、明治時代、 実際にお店で提供されていたポークカレーを13代目料理長・野口豊氏が再現したもの。「五島軒」の代名詞ともいえるカレーの原型というわけです。
明治時代といえば、カレーに脱脂粉乳を使うのがあたりまえだった時代。当時のレシピが記された資料を参考に、北海道産牛乳を使うなど食べやすいように工夫を重ねて昔の味を表現したとか。なるほど、当時のカレーはこんな色だったのですね。
対して右側は、現在もお店で提供されている「イギリス風ビーフカレー」と同じルー。こちらは見慣れた濃い茶色ですね。考案したのは、帝国ホテルで修行を積んだ2代目料理長・若山徳次郎氏。大正6(1917)年ごろメニューへの仲間入りを果たし、およそ100年ものあいだ愛され続けてきた伝統の味です。
▲イギリス風ビーフカレー(税抜1,200円)もあいがけカレーに負けず劣らずの人気

テーブル上に広がる上品な香りに口内はもうよだれでいっぱい。さっそくいただきましょう。
▲いただきま~す!
▲まずは明治時代の味から……

こん「牛乳を使っているだけあって、トロッと口あたりがまろやかですね。味わいも優しいし。……と思ったら、あれれ!あとからじんわりスパイシーな刺激が追いかけてきました!舌の上にピリピリ感が残りますね。ん~これは想像できなかったなぁ。良い意味で期待を裏切られました!」
▲続いて大正時代から続く伝統の味を……

▲「こちらは老若男女に愛される正統派タイプの欧風カレーだね 」
井上「こうして食べ比べてみると、全然カレーのタイプが違うよね。たとえば、野菜の使い方が違うのが分かるかな?明治時代の方は玉ねぎのシャキッとした食感をあえて残している。対して大正時代の方は、野菜の形がなくなるまでじっくり煮込まれていて、複雑な旨みがルーに溶け込んでいる」

こん「言われてみればそうですね!野菜の形がない分、大正時代の方が肉の存在感が増しています」

井上「それから、カレー粉やスパイスの配合もまったく違うよね。辛さのレベルでいえばどちらも中辛口だけど、明治時代の方が見た目によらず辛さが立っていてスパイシーな口当たり。これは食べてみないと分からないね」
▲ピーナッツやフライドオニオンなど5つのトッピングで味や食感の変化も楽しめます
井上「ほら、カレーってランチにぱっと食べるようなカジュアルな食べ物でしょ?カレーを食べに行くからってわざわざめかしこむことってあまりないと思うけど、『五島軒』の厳かな雰囲気では、きちんと正装してディナーとしていただきたくなる。ちょっと背筋がピンとするような、そんなカレーだなぁと私は思いますね」

異なる味わいのカレーを堪能したところで、本日のカレー格言の発表です。
井上「伝統とともにいただくカレー」

こん「明治と大正 ひと皿に2つの歴史を感じるカレー」

これまで度重なる火災に見舞われるなどその道のりは順風満帆とはいえない「五島軒」。しかし、創業から130余年、伝統の味を大切に守り続けてきました。今こうして、明治と大正ふたつの時代を食べ比べできるのも、長い歴史を持つ同店の成せる技。“変わることで変わらずにいる”、先進性と風格を宿す唯一無二のカレー、その一番のスパイスは“歴史”なのかもしれません。
▲「五島軒」本店営業部の竹内啓二さんと。ありがとうございました!

井上岳久(カレー大學学長/株式会社カレー総合研究所代表)

カレー業界を牽引する、業界の第一人者。横濱カレーミュージアム責任者を経て現職に至る。カレーの文化や歴史、栄養学、地域的特色、レトルトカレーなど、カレー全般に精通。レトルトカレーは全国から2,000種類を収集し試食している。著書に『一億人の大好物 カレーの作り方』『国民食カレーに学ぶもっともわかりやすいマーケティング入門』など多数。


井上こん

井上こん

1986年生まれのフリーライター。「Yahoo!スポーツナビDo」「SPA!」「nomooo」「ウートピ」などのWEBメディアや雑誌「散歩の達人」などで執筆。

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