広島の名物麺と言えば「汁なし担々麺」と「呉冷麺」。人気の秘密は素材と仕込みに情熱を注ぐ店主のこだわり

2016.03.25

全国的にも知名度が急上昇中の広島名物がコレ。「汁なし担々麺」の元祖とされる広島市の「きさく」は本場・四川の味をとことん追求。「呉冷麺」発祥の店・呉市の「珍来軒」は、甘酸っぱい独自のスープで呉のソウルフードに。そんな2軒を訪ねてみました。

洞窟で味わう激辛「汁なし担々麺」の名店「きさく」のこだわりとは

▲広島市「きさく」の汁なし担々麺

まずは「汁なし担々麺」を求めて広島市の「きさく」へ。JR広島駅から路面電車(広電・江波線)で約25分。舟入幸町電停から徒歩1分で、繁華街でもオフィス街でもなく、地元民以外にとっては交通の便がいいとは言えない場所に、この有名店はあります。休日のお昼どきともなれば常連客や観光客で満席。行列ができるほどの人気ぶりです。
▲赤で統一された店舗は、街中でひときわ目を引く
▲店の前の看板。これが美味しく食べる極意!
店内は裸電球だけで統一されており、無造作に土を塗ったような壁や天井は洞窟を連想させます。L字形のカウンターのみで、15人ほどで満席になります。
メニューは専門店らしく「汁なし担々麺(530円)」のみ。とはいえ、バリエーションとして麺が冷たくスープが温かい「汁なしピン担麺(570円)」や、麺もスープも冷たい「冷やし汁なし坦々麺(530円)」もあり、いずれも温玉入りはプラス70円で、大盛はプラス70円、ダブルはプラス140円。常連はその日の気分や腹具合でローテーションするそうです。

しかし、ここはやはり「オーソドックスに汁なし担々麺でしょ!」と考えていたら「温玉入りにしんさい。絶対うまいけぇ」と常連さんの声。店主もそのやりとりを見てニッコリ笑っているようなので、その声を信じて「汁なし担々麺 温玉入り(600円)」に決定。
この店の「汁なし担々麺」は本場の味。日本人の口に合う味や、誰にでも美味しいと言ってもらえる味を目指したのではなく、かなり尖った味です。それがブームとなって競合店ができても「元祖」と言われ、根強いファンを生む理由です。
「汁なし担々麺」を作る手順。まず空の器にラー油を入れ、続いて豆鼓醤や酢を入れた醤油ベースのタレ、山椒、秘伝のスープを加え、茹で上がった麺を入れて、下味をつけた豚ミンチやネギをのせれば完成です。
▲注文が入ると秘伝のスープを丼へ。撮影もこれ以上近づいたらNG

味の決め手となるスープは秘伝中の秘伝。鶏ガラベースであることは明かしても、レシピは門外不出。毎朝5時から仕込みを始め、丸1日以上寝かせて翌日の開店前に仕上げるという手間のかけようです。
▲汁なし担々麺 温玉入り

いざ実食!30回以上かき混ぜるべし!

店頭の看板にもあったように、美味しく食べるコツは、よくかき混ぜること。それもササッと2~3回ではなく、最低でも30回。麺がタレやスープに満遍なく絡むように、とにかく、ぐちゃぐちゃにすることです。
▲箸を丼の底まで突っ込んで、ぐちゃぐちゃにかき混ぜる

かき混ぜる「儀式」が終わったらこの状態。混ぜることで山椒の刺激的で爽やかな香りが鼻腔に抜けて食欲をそそります。
口に運ぶとスープの旨みが細麺に絡まり、ラー油の辛みと山椒のしびれがたまりません。もちろん辛いのは当たり前で、2~3口食べると額に汗がにじみますが、なるほど、ここにきて温玉推しの意味が分かりました。辛さに口が馴れた頃には温玉のまろやかさが加わって、さらに旨みがアップするではありませんか!
▲カウンターには黒酢と鷹の爪が用意されているので、もっと刺激が欲しい人はお好みで

ぜひ試してみたい禁断の「シメ」

混ぜれば混ぜるほど美味しくなるのが「汁なし坦々麺」。食べている途中でもかき混ぜて、食べ終わったら最後は器に何も残っていないのが王道の食べ方です。しかし、常連には邪道と知りつつスープやタレをわざと残し、これにご飯に絡ませて「シメ」にするのが流行っているのだとか。

もともと「汁なし担々麺と一緒にご飯も食べたい」というリクエストでセルフ式のご飯を置くようになったそうですが、いつの間にか「シメにご飯」が広まり、今ではそれが正しい食べ方と伝えられることもあるそうです。
▲ご飯は自分で食べられる分だけ入れるセルフスタイル(50円)

しかし、邪道とはいえ「旨い」と言われれば試してみたくなるのが人間というもの。
で、やっちゃいました。
噂に違わず旨い。よく「スイーツは別腹」と言いますが、辛いものもアレンジを変えれば別腹に入ります。これなら正規メニューでもいいんじゃないかと思えるくらい旨い。

ということですっかり「元祖」の味を堪能。ちなみに、辛さのリクエストも可能で「辛」「大辛」にアップできるだけでなく、辛いのが苦手な人には「2分の1」「4分の1」「ゼロ」にもできます。
▲店主の服部幸一さん(右)とスタッフの鎌田渉(わたる)さん

「きさく」は1999年にラーメン店としてオープン。その後、本場・四川で「汁なし坦々麺」を食べ歩いて研究し、2001年1月に新メニューとして加えました。
すると口コミで評判が広まり、地元メディアでも取り上げられるように。1年後には「汁なし担々麺」の専門店となり、その後のブームを牽引しています。

※価格はすべて税込

呉市のご当地グルメを代表する唯一無二の「冷麺」

▲呉市「珍来軒」の呉冷麺

続いて「呉冷麺」の発祥の店を目指して、広島市のお隣にある呉市へ。今回おじゃました「珍来軒」はJR呉駅から徒歩15分の商店街にあります(バスを利用する際は本通3丁目バス停で降りて徒歩1分)。
▲看板には「呉名物」の文字

呉市は戦時中に日本一の軍港として栄え、人口も現在の約2倍の50万人規模。広島市を凌ぐほどの都市で、たいへん活気があったそうです。「珍来軒」のルーツは先代が戦後間もなく始めたラーメン屋台で、昭和30(1955)年に中華料理店として店を構える頃には「商店街に出たら珍来軒」と言われるほど評判の店になっていたそうです。
▲平べったい麺は「呉冷麺」の特徴

残念ながら創業時の店は火災で焼失してしまい、2007年に現在の場所に移転しましたが、今も昔もやはり「珍来軒」といえば冷麺があまりにも有名。特徴的な平打ち麺に甘酸っぱいタレを使った独特の冷麺は、今から半世紀以上も前の昭和35(1960)年頃に先代が「ラーメンの売り上げが落ちる夏のメニューが欲しい」と考案したもので、たちまち呉の名物になったそうです。

その後、ご当地グルメブームもあって「呉冷麺」と呼ばれるようになり、人気は全国区に。呉市の「ふるさと納税カタログ」にも掲載されるほどの呉名物になりました。

行列は覚悟の上!それでも食べたくなる味

メニューは「中華麺(ラーメン)」「ワンタン麺」のほか「小籠包」や「肉焼売」などの点心も豊富にありますが、オーダーの9割は「呉冷麺」。冬でもその割合は変わらないそうです。
▲テーブルと壁に面したカウンターの35席

お昼時を過ぎて、閉店時間の15時も近いというのに席の半分以上が埋まっていました。実際は14時頃にはその日のスープがなくなり、閉店となることも少なくありません。休日ともなれば開店と同時に行列ができることも当たり前で、大型連休には商店街の2ブロック先まで行列が続いたこともあるそうです。
▲二代目店主の檜垣(ひがき)さん。麺の茹で時間は約2分30秒

店主の檜垣さんは二代目で、先代の甥にあたります。25歳まで造船所に勤めていましたが、当時すでに呉の文化になっていた「珍来軒」の灯を消すわけにはいかない、と決心。35年ほど前から店を継いでいます。
▲この道35年。水切りの作業は職人技!

茹で上がった麺は、すぐに流水や夏場は大きな桶に入れた氷水で締めて、ザルに移して水気を切りますが、この一連の作業がまさに職人技。押さえるでもなく絞るでもなく、力ずくのようで軽やかで、実に手際よく締めて水気を切ります。時間をかければ麺がのびるし、水気が残っていると味が薄まってしまいます。
▲甘み、辛み、ゴマの風味が絶妙なスープ

スープは鶏ガラベースで、食べたときに感じる旨みや甘みは、このスープに含まれているようです。合わせるタレは独自にブレンドした醤油や唐辛子にゴマの風味が効いた創業当時からの味。仕込んでから2~3日寝かせることで味が落ち着いてまろやかになり、甘みと辛みのバランスも良くなるそうです。酢やショウガも入っているので、体にも良さそう。

呉のラーメンは酢をかけて食べる?

テーブルには2種類の調味料が置いてあり、鷹の爪を甘酢に漬け込んだ「酢がらし」をかけると味が締まってピリ辛に。味がまろやかになる「黒酢」は女性や子供に人気です。
▲呉冷麺(大)800円

具はチャーシューとゆで玉子、キュウリ、エビの4種。ちなみに「呉ではラーメンを食べるときに酢をかける」と耳にしますが「呉冷麺」のルックスは冷麺や冷やし中華というより、むしろラーメン。誰かの勘違いで広まった噂ではないでしょうか。
▲「呉冷麺」は呉市民のソウルフード

麺の幅は5mmほど。厚みは1mmほどしかない平打ち麺で、これも「呉冷麺」の特徴。この麺も季節や湿度で微妙にサイズを変えているそうで、ここにも美味しさを追求する店主のこだわりが感じられます。
「呉冷麺」のメニューには小と大があり、小は麺が約135gで650円。大は麺が1.5倍の約200gになって800円で、チャーシューも小は2枚、大は3枚になります。
▲冬季限定でスープがサービス(無料)で付きます

甘酸っぱさにピリッとした辛さが絶妙で、食べ終わった感想は「シンプルだけど、また食べたくなる一杯」。現在では、呉市はもとより広島市でも「呉冷麺」をメニューに加える店が増えていますが、やはり発祥の店の味には深みがあります。
シンプルゆえに、食材も技も少しの違いが味に大きく影響するのでしょう。呉の文化になった味を守り、続けてゆくことは大変だと思いますが、これからもずっと美味しい「呉冷麺」を提供してもらいたいものです。

※価格はすべて税込
廣段武

廣段武

企画から取材、撮影、製作、編集までこなすフリーランス集団「エディトリアルワークス」主宰。グルメレポートの翌日に大学病院の最先端治療を取材する振り幅の大きさと「NO!」と言わ(え?)ないフレキシブルな対応力に定評。広島を拠点に山陽・山陰・四国をフィールドとして東奔西走。クラシックカメラを語ると熱い。

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