宮崎グルメ「チキン南蛮」必食の3軒。実はもともとはタルタルソースがなかった!?

2016.04.22 更新

宮崎を代表するご当地グルメ「チキン南蛮」。その象徴ともいえるのが揚げたチキンにたっぷりかかったタルタルソース。しかし、誕生当初のチキン南蛮には、タルタルソースがかかっていませんでした。では、なぜ、いつからタルタル付きのスタイルになったのでしょうか?そのカギを握る3軒を訪ね、宮崎市と延岡市に行ってきました。

爛漫のチキン南蛮
▲チキン南蛮と言えば、このスタイル

元は洋食屋さんのまかない料理。
その原形を守る店が延岡市にあり!

大分県との県境にある宮崎県北の延岡市。宮崎市内から車で1時間40分ほどのこの町が、チキン南蛮発祥の地なのです。かつてここに「ロンドン」という名の洋食料理店がありました。そこのまかない料理がチキン南蛮の原型、と言われています。材料はモモ肉に比べ、料理の出番が少なかったという鶏の胸肉。これに小麦粉をまぶして卵液にくぐらせ、油で揚げて、アツアツのうちにアジの南蛮漬けなどに使う甘酢をかけて出来上がり。厨房で“鶏からあげの甘酢がけ”と呼んでいたこのまかない料理が、今も延岡市内で営業する「元祖チキン南蛮 直(なお)ちゃん」によって、チキン南蛮となるのです。
タルタルソースなしのチキン南蛮
▲チキン南蛮900円(ご飯、味噌汁、小鉢、漬物付き)。ご覧の通り、タルタルソースはかかっていません。チキン南蛮はもちろん、いりこと椎茸でだしをとったお味噌汁も、実にいいお味

店名の“直ちゃん”は先代である故・後藤直さんのお名前。今から約50年前、直さんは居酒屋を営んでいました。営業は夜からだったので、昼の間は料理のレパートリーを増やすために、当時人気だった洋食料理店「ロンドン」で働いたそうです。

そこで学んだハンバーグやステーキなどと一緒に、あの“鶏からあげの甘酢がけ”も自分のお店で出してみると、これが大評判に。常連さんと相談の後、アジの南蛮漬けと同じ甘酢を使っていることから「チキン南蛮」と名も改めてようやく、名実ともに「チキン南蛮」の誕生と相成ります。その後、同じような料理が他のお店にも出始め、「チキン南蛮」の名と共に、延岡市内に広がっていったそうです。
箸持ちのアップ
▲糸けずりのかつお節、またはちりめんじゃこのような細かな衣が、鶏の胸肉を覆う。これぞ、直ちゃんのチキン南蛮の真骨頂!

この独特な細かな衣の正体は、鶏の胸肉を覆う卵液。油で揚げたアツアツの胸肉を、あっさり味の特製甘酢にさっとくぐらせます。甘酢を吸った卵衣は、サクッシュワ~な軽い食感を楽しませつつ、柔らかな胸肉を穏やかな甘みと酸味で包みます。そこにほんのり、柑橘類の香りも。

「8月~2月は甘酢にくぐらせたチキン南蛮の上に、カボスをギュッと搾りかけます。カボスのない3月~7月はレモンを」と語るのは先代である父・直さんからお店を引き継ぎ、今年で16年を迎える後藤浩一さん。「まず最初はこのまま食べてください。ちょっと味に変化が欲しくなったら、お好みで、マスタードなどをつけて」。そのお言葉通り、テーブルには小分けのマスタード、さらに柚子胡椒も用意されています。

「コンビニでおでんを買った時に貰った柚子胡椒を、うちのチキン南蛮に付けて食べたら、けっこうイケたんです。衣やお肉に直接塗ってもいいですが、甘酢ダレに少し溶かして、それにチキンをちょんちょんとつけて食べるのも、おススメです」と浩一さん。
タレのボトル
▲店内限定で販売される直ちゃんオリジナルのチキン南蛮のたれ(540円)。甘さも酸味も控えめのあっさり味。チキン南蛮をはじめ、さまざまな揚げ物はもちろん、カルパッチョやサラダにも合うと大評判。
店内
外観
▲2014年4月に先代より引き継いだ店舗から、2軒ほど左隣に引越し。カウンター8席の他、4人掛けのテーブルも4つ、さらに店舗奥の小上がりに2卓。

独自の衣を焦がさず、胸肉が持つ柔らかさも損なわずに、きちんと火を通す。そのために胸肉全体を均一の厚みになるよう、手間と時間をかけてしっかり下準備。「だから1日にお出しできる量にも限りがあります」と浩一さん。週末のほか、GWは特に大行列に。開店して2時間で、用意していた胸肉がなくなることもあるそうなので、確実に食べたい人はぜひ、開店時間の11時を目指していきましょう。
Tシャツ
▲直ちゃんの店頭ではチキン南蛮関連のオリジナルグッズも販売。おみやげに「チキン南蛮は延岡生まれ!」を大アピールするTシャツ(2,000円)を買いました。

タルタルソースたっぷりの
チキン南蛮はココから広まった

ナポリタン付のチキン南蛮
▲「味のおぐら」のチキン南蛮1,010円(ライス付)

延岡で生まれたチキン南蛮は胸肉を揚げて、甘酢にくぐらせて出来上がり。そこへタルタルソースをかけたお店と言われるのが、宮崎市内にあるファミリーレストラン「味のおぐら」。
その代表取締役社長の渡部(わたなべ)寛さんにお話を伺いました。
いらっしゃいませのポーズ
▲渡部さんは1986年に入社。2009年に社長に就任してからも調理補助やホール業務など、常に現場に立っています

「はい、チキン南蛮にタルタルソースをかけたのは、うちのおやじさんです」と渡部さん。おやじさんとは「味のおぐら」の創業者である故・甲斐義光(よしみつ)氏。味のおぐらは昭和31(1956)年、宮崎市にオープン。しかし、当初はなかなか軌道に乗らず、その活路を求め、甲斐氏は出身地である延岡市の人気洋食店「ロンドン」にて研修を。その時、まかない料理の“鶏からあげの甘酢がけ”に出会います。
メガネのおじさん
▲2009年に他界された創業者の甲斐義光氏。お店のトレードマークのメガネのコックさんは、甲斐氏がモデル

その後、宮崎市に戻ってきた甲斐氏。お世話になった「ロンドン」に敬意を表し、味のおぐらの第2号店を『洋食屋ロンドン』と“ロンドン”の名を入れたそうです。そしてロンドンで覚えた洋食メニューで勝負しますが、それらはロンドンの味やスタイルと少し違うものだったそうです。
「おやじさんはとにかく“普通”じゃもの足りない。メンチカツに自家製のハンバーグソースをかけたりと、ひと工夫をするのが好き。エビフライなどに使うタルタルソースをチキン南蛮にかけたのも、その辺のこだわりからだと思います」と渡部さん。そのタルタルソースも、現在の形になるまでには、ずいぶん時間がかかったとのこと。

「『あそこの店のタルタルが旨い!』とお客様から聞けば、すぐに店のシェフらを行かせる。東京の帝国ホテルまで飛んで、タルタルソースを勉強した先輩シェフもいました」と渡部さん。その追求は、甲斐氏が亡くなられるまで続けられたそうです。2号店の開店以降、味のおぐらは宮崎市内に数店舗、さらに延岡、鹿児島へも進出。それに応じて“チキン南蛮=タルタルソースがかかったスタイル”が世に広まっていきます。
チキン南蛮のアップ、こってり
▲こってり濃厚!甘みと酸味、さらに野菜や卵の存在感も立ったおぐらオリジナルのタルタルソース

さらに渡部さんは言います。
「薄味は食べてその場が美味しいが、濃い味のものは忘れられない。1週間後、無性に食べたくなる、と言うのがおやじさんの考え。常にインパクトのある味を求めました。だから、おぐらの料理にはどれも砂糖が多めに入っています」。
チキン南蛮も例外でなく、揚げたチキンをくぐらす甘酢にも多めの砂糖。これに呼応するように米酢の酸味も割と強めで。さらにナツメグをはじめ多彩なスパイスも入ります。

一方、タルタルソースは、煮切った米酢に5時間以上漬け込んだ玉ねぎ、人参、キュウリをゆでたまごと共に荒みじんにし、それらを砂糖入りの自家製マヨネーズの中へ。甘酢に負けない濃い味で、チキンをこってり覆います。一度食べたら忘れられない、まさにインパクト大な味わい!
ファミレスっぽい店内
「うちはご覧のとおり、昔ながらのファミレスです。瀬頭(せがしら)店は座敷もあるので、3世代でも楽しめます。また、チキン南蛮はハンバーグと一緒にお子さまランチにも乗っています。子どもの時に初めてチキン南蛮を食べて、学生時代や社会人になっても時々食べに来て、やがて結婚して、そのお子様もうちのお子さまランチでチキン南蛮デビュー。長く働いているとそんなシーンにも出会います」と渡部さん。甘くインパクトのある味は、その時々のいろんな思い出と共に、心に深く残るようです。
外観(山小屋風)
▲取材に伺った瀬頭店を含め、宮崎市内に2店舗の直営店を持つ
外観(路地裏風)
▲本店は宮崎市のど真ん中。老舗デパート山形屋の近くにあり

甘酢あっさり、クリーミーなタルタル
ソース。チキンのモモ肉南蛮もあり

クリーミーなタルタルのチキン南蛮
▲特製チキン南蛮1,080円。お味噌汁とご飯のセットは210円増

宮崎市内の繁華街にある洋食店「グリル爛漫(らんまん)」。創業は1977年。二人の息子さんと共にこの店を切り盛りするのは、オーナーシェフの松田誠喜(せいき)さん。実はこのお店を開く前の昭和40年代、松田さんはあの「味のおぐら」の第2号店「洋食屋ロンドン」の調理責任者を務めていました。
「チキン南蛮を売り出した当初はハンバーグとかステーキばかり出て、チキン南蛮は1日1皿出ればいい方。鶏料理だけに格下に見られていたんですかね~」と語る松田シェフ。そう、シェフは「味のおぐら」の甲斐氏の片腕として、タルタルソースがかかったチキン南蛮を広めていった1人なのです。
カウンター席のある内観
▲創業以来のオープンキッチン。カウンター9席、4人掛けと2人掛けのテーブルの他、4人掛けの小上がりもあり

「調理場スタッフとああでもない、こうでもないといろいろ工夫しているうちに、少しずつ注文が入るようになって、いつの間にかですね、ハンバーグなどと肩を並べる洋食メニューになっていきました」と当時を振り返る松田シェフ。その後、独立してグリル爛漫を開店し、「洋食屋ロンドン」時代のチキン南蛮もメニューに取り入れます。しかし、現在の「味のおぐら」のチキン南蛮に比べ、グリル爛漫のは甘酢はさっぱりめで、タルタルソースもフレンチドレッシングのような、さらりとしたクリームタイプ。
クリーミーなチキン南蛮のアップ
古くからの常連から「爛漫さんのは『味のおぐら』の初期の味、あるいは2号店の『洋食屋ロンドン』で食べたチキン南蛮だね。懐かしいよ」と言われることも。

ナイフを入れた瞬間、胸肉の柔らかさを実感。切り分けて口に入れるとまろやかなタルタルソース、さらに軽い甘みと酸味の中に少し生姜の香りも感じる甘酢が絶妙に合わさって、ジューシーな胸肉を引き立てます。
「鶏料理ですから、鶏の味を邪魔しない味付けにしています。また、使用する鶏も、胸肉の大きさと味、柔らかさを考慮して、1.2kgサイズの若鶏に限定して、しかも丸鶏のまま仕入れます」と松田シェフ。
鶏肉を持つシェフ
「新鮮な丸鶏を、調理場で捌いて胸肉とモモ肉に分けます」

まるごと1羽仕入れるので胸肉とモモ肉の両方が手に入ります。通常、特製チキン南蛮は鶏の胸肉を使用。一方、モモ肉はハンバーグ+エビフライ+チキン南蛮の「爛漫ランチ(1,390円)」、さらに豚の生姜焼き+チキン南蛮の「Aランチ(1,130円)」に付くハーフサイズのチキン南蛮に。つまり、グリル爛漫では、ジューシーで歯応えのあるモモ肉のチキン南蛮も味わえるのです。ちなみに爛漫ランチ、Aランチとの呼び名ですが、こちらのお店は昼夜一貫のメニュー。よって夜も2つのランチは食べられます。
外観 爛漫
2016年でこの道55年、御年75歳になるグリル爛漫の松田シェフ。実は大のプロレスファンで、毎週1回ジムに通って鍛えているそうです。今も60kgのベンチプレスを挙げるとのこと。そんな松田シェフに今回取材した3軒について、プロレスを例に尋ねてみました。

「チキン南蛮の原点となった延岡市の洋食屋『ロンドン』をプロレスの父・力道山とすれば、その流れを汲んだ『直ちゃん』は16文キックのジャイアント馬場、『味のおぐら』はエンターテイメント性に富んだ燃える闘魂・アントニオ猪木。さすれば、味のおぐら2号店で働いた松田さんのお店は猪木イズムを継承しつつ、わが道に進んだドラゴン・藤波辰爾。いかがでしょうか?」
それを聞くと、シェフはニヤり。そしておもむろにファイティングポーズ。

だからと言って、紹介した3軒はけっして敵対してもおらず、お互いを尊重しつつ、それぞれの個性を活かし、ご当地グルメ「チキン南蛮」を大事に守っています。あっさり味と食感を楽しみたい時は「直ちゃん」、今日はこってりガツンと濃い味を、という時は「味のおぐら」、その中間の気分、さらに歯応えのある鶏モモ南蛮が食べたい!という時は「グリル爛漫」、といった感じでライター山田はそれぞれを満喫しています。

※価格はすべて税込です。
山田誠

山田誠

新潟県十日町市生まれ、現在は福岡県福岡市在住のフリー編集者・ライター。九州の宿や温泉、飲食、雑貨系のショップ、さらに漁村、農村、道の駅など、暮らしと休日に関わるスポットをほぼ毎月、年間150軒以上を取材。取材後は必ず近隣の直売所で地元食材を買って帰る。1児の父。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP