花から造られる日本酒。「花酵母」で醸す佐賀の蔵、天吹酒造を訪ねて

2016.03.16

日本酒大好きと自負していても、酵母に着目して呑んでいるという方は少ないのではないでしょうか。最近、花から採取した酵母というものが注目されています。全量花酵母で日本酒造りをする佐賀の「天吹(あまぶき)酒造」を訪ね、“花酵母から出来る日本酒”を味わい、歴史ある蔵を見学してきました。

花酵母と佐賀の酒蔵

▲入り口の扉。ステンドグラスで制作した「天吹」の文字が印象的

今回訪ねた「天吹酒造」は、佐賀県中原駅からも福岡県久留米駅からもタクシーで10分ほどの場所にあります。

こちらの天吹酒造は、珍しい“花酵母”を使ってお酒を醸造している蔵です。なでしこ、いちご、アベリア、ひまわり、しゃくなげなど、普段見たことのある花たちから採取して培養した酵母を11種類使用。華やかな香りのものから力強く味わい深いものまで、幅広い種類のお酒を造っています。
▲入り口の扉を開けると酒蔵へ続く通路が。脇には酒瓶や酒杯など天吹グッズが並んでいる

有形文化財に登録された歴史ある建造物

▲敷地にある欅の存在感に圧倒

天吹酒造の歴史はとても古く、創業は元禄年間ということで300年ほど経っています。創業当時の物は残っていませんが、明治前期以降に建てられた建造物群は、2013年、現在も使用している仕込み蔵を含めて煙突や貯蔵庫、母屋などが国の有形文化財に登録されました。
▲蔵人賄い用台所の煙突

以前炊事場だったという場所には煙突が残されています。昔はここで、酒造りに集まった蔵人全員の食事を作っていたとか。
▲過去に使用していた井戸

井戸も炊事場も30年ほど前まで使用していたとのこと。この小さい井戸から何度も水を汲み上げるのは、それだけでも相当な体力と時間が必要だったのではないかと想像出来ます。
▲白壁の蔵が並ぶ魅力的な風景
▲仕込み蔵

「仕込み蔵は現在も使用しています。20年ほど前に梁と柱を残して立て直した際、壁に風神様を描き、風神蔵と名づけました。」と会長の木下武文さん。
天吹という名前のように、天から吹く風に乗って天吹酒造のお酒が広がっていって欲しいという願いが込められているそうです。

石垣の上には樹齢300年という欅の木。
わたしが伺った時は曇っていたのですが、晴れていると欅の影が壁に映って美しいんだとか。
夏にはきっと緑が生い茂って、それはそれは元気な姿なんでしょうね。

仕込み蔵の内部に潜入!

▲仕込中のタンク

ここからは、武文さんの案内で蔵の中を見学させていただきました。
出入口付近には酒粕が積まれているせいか、蔵は酒粕の香りが充満していて、うっとりするほど。
ズラリと並んだタンクには、仕込中のお酒が入っています。
▲タンクの様子を確かめている製造部の佐野さん

製造部の社員、佐野さんがタンク内の様子を一つ一つ丁寧に見ていました。タンクによって仕込んだ日にちが違うため、それぞれの発酵具合を毎日確認しているそうです。
▲タンクの中は元気に発酵中。甘くとろけるような香りが漂ってきました
▲タンクには米と酵母の種類が記載
▲出来上がったお酒は温度管理ができるサーマルタンクに入れられ、瓶詰めされるを待ちます。温度が急激に変わることがないため、品質保持に役立つタンクです
▲貯蔵庫

瓶詰めされたお酒は、丘を掘って造られた貯蔵庫で保管。
庫内はとても広く、貯蔵されているお酒の出し入れ作業がしやすくなっています。もともとコンクリート打ちっぱなしだったそうですが、現在はウレタン塗装になりました。ひんやりとした空気感で、出来上がった日本酒も安心してここで出荷を待つことでしょう。

2階には昔使用していたという仕込み道具が

▲洗った米を入れておく木桶
▲お酒を仕込む木樽

蔵の2階には昭和35(1960)年まで使用していたという道具がそのまま残されていました。木の状態も良かったので、丁寧に大事に保管されているのでしょう。こうしてお酒の発酵に使っていた木樽を見ていると、凛とした雰囲気を感じられ、気持ちが引き締まる思いです。

母屋も有形文化財

▲京風の離れ座敷

国の有形文化財に登録されている母屋にも案内していただきました。
思わず、ほぉーと息が漏れてしまうほど立派で素敵な空間です。
▲武文さんの祖父が趣味で購入したという掛け軸
▲地元の焼き物、走波焼(そうはやき)の花器

美しい絵が描かれた掛け軸や陶器。心和む座敷。
あまりにも素晴らしくて気が引けてしまうほどでしたが、武文さんはここで育ち、幼少期は当然のように遊び場所としていたそうです。
美しいものが自然と周りにあり、酒蔵の活動を毎日見ながら成長したら、やはり美味しいお酒を造るようになるのは当然の成り行きなのかと考えてしまうのでした。

花酵母で醸されたお酒を試飲

▲試飲はワイングラスで

歴史ある建物に感動しながらも、試飲が楽しみでなりません。
天吹酒造の試飲はワイングラスで行います。女性にも受け入れやすいよう、そして格好良く呑んでもらいたいと始めたそうですが、香りや口当たり、アフターフレーバーなどが分かりやすいので、ワイングラスで試飲というのは理にかなっていますよね。
▲酒米の「雄町」を使用したお酒

天吹酒造のお酒は様々な花酵母を使用しているので、酵母の違いを確認するために、同じ酒米が使われたお酒を試飲させてもらいました。
お米は「雄町」という、酒造りに適した品種です。

<純米吟醸 なでしこ酵母>
かなり華やかな香り。甘みと旨みが強く、わずかな苦味も感じられます。余韻も長く、鼻に抜けてからも暫く香りが残っています。乾杯用として、最初の1杯に最適なお酒でしょう。

<純米吟醸 いちご酵母>
フレッシュな味わい。爽やかな香りは後まで残りますが、後味にはキレがあります。全体的なバランスがとても良いお酒です。

<生(き)もと純米大吟醸 しゃくなげ酵母>
香りは少なめですが、しっかりした旨みを感じられます。コクがありキレも程よく、食中酒には最適だと感じました。

同じ酒米でも、酵母の違いでこんなにも味わいが変わるのかと驚きです。個人的には「しゃくなげ」のお酒が一番好みでした。
▲天吹酒造外壁

天吹酒造では、予約をすれば蔵見学が可能です。有形文化財の煙突や貯蔵庫、仕込蔵を実際に見ることができ、希望すれば酒造りの解説もしてくれます。

そして、500円(税抜)で3種類のお酒を試飲することもできます。
全種類から選べるため、酵母の違いを確かめたり、吟醸酒の呑み比べをしたり、ここでしか味わえない呑み方が出来ます。

取材日は試飲スペースが工事中だったため、特別に囲炉裏部屋で試飲させていただきました。
現在はリニューアルが完了し、大きい試飲テーブルが出来上がっています。
▲2016年の蔵開きの様子

立派な木のテーブルと花酵母の魅力を感じられるワイングラスでの試飲を楽しみつつ、是非好みの1本を見つけて欲しいと思います。

蔵元の酒造りに対する想い

▲天吹酒造会長の木下武文さん

今回、蔵を案内してくださった武文さん。気さくで温かく、お酒に対しての愛情がとても深い方でした。

現在は、長男の壮太郎さんが2014年11月に社長に就任し、次男の大輔さんは杜氏として天吹酒造を支えています。その木下兄弟が東京農大在学中、醸造学科の中田教授が花から分離した酵母「なでしこ酵母」に出会ったことがきっかけで今のお酒が造られるようになりました。

天吹酒造では、11種類の花酵母を扱っている上に、酒米も山田錦や愛山、雄町などたくさんの種類を使用しています。そのため、米と酵母の相性を見極めるために、何度も何度も組み合わせを替えながら仕込みをし、相性の良いものを完成形にもっていくのだとか。この取り組みは毎年行われているそうで、その努力には驚かされます。

また一方で、地元産の食用米を使ってお酒を醸し、安い価格にて地元で販売するという、地産地消も行っています。日本酒専用の米に比べると食用米は価格は安いのですが、満足度の高い日本酒にするのは難しい。それを美味しいお酒に仕上げるのですから、高い技術と研究努力の賜物ですね。

毎日、日本酒で晩酌を

▲美味しいお酒の嗜みを習慣化させたい

武文さんが、毎日1合程度の晩酌をする習慣が定着して欲しいと仰っていました。美味しいおつまみとお酒を味わいながら過ごして欲しいとのこと。全くもって同感です。
料理とお酒との相性は勿論のこと、シーンに適した日本酒を合わせることも重要です。とりあえずビールではなく、とりあえずこの日本酒というように、最初から最後まで日本酒を選びながら呑むのが良いと語り合いました。

武文さんのお話を伺っていると、天吹酒造のお酒の種類が豊富なことにも納得です。食前酒、食中酒、食後酒と様々な場面にぴったりのお酒が揃っているのですから。

2016年は新たな酵母での造りにも挑戦したそうです。今までの花酵母11種類に加えて新しく仲間入りしたのは、なんとバナナ酵母で醸した純米大吟醸。
研究熱心で努力を惜しまず、新しいことにも挑戦し続ける。そんな天吹酒造の魅力を知り、「天吹」というお酒がますます好きになりました。
まゆみ

まゆみ

日本酒専門メディア「SAKETIMES」ライター、酒匠、料理研究家。1年365日酒を呑み続ける驚胃の持ち主。日本酒を愛し、旨い肴に目がない。全国各地の酒蔵を訪ね、純米酒の普及に力を注いでいる。ブログ「スバラ式生活」では様々なお酒に合うレシピを公開。

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