全国でも珍しい山菜料理専門店「出羽屋」で春の息吹を感じる

2016.04.24

山形県の中央部に位置する西川町(にしかわまち)。霊峰月山(がっさん)の懐に抱かれた小さな町です。ここは全国有数の豪雪地帯。長い冬を過ごし、春を待ちわびる人たちへの山からの贈り物ともいえる「山菜」。全国でも珍しい山菜料理専門店「山菜料理 出羽屋(でわや)」を訪ね、ひと足早い春を感じてきました。

山菜料理一筋、創業80余年の歴史を持つ「山菜料理 出羽屋」。山形県の庄内地方と内陸地方を結ぶ国道112号が開通する以前、店の前は六十里越街道(ろくじゅうりごえかいどう)と呼ばれる道で、1200年も前から出羽三山(月山、湯殿山、羽黒山)参詣の行者が行き来する信仰の道として利用されてきました。「出羽屋」はその行者を泊める宿として、昭和4(1929)年にこの地に店を開き、地元で採れた山菜や川魚などを提供するようになったのです。
「ごめんください」
重厚な玄関戸を引くと、落ち着いた和の空間が目に飛び込んできました。
▲ホールにある、昔懐かしいいろり火にホッとして

山間地域に住む人たちの保存食だった「山のもの」を「山菜料理」として確立していった出羽屋。

その背景を女将の佐藤明美さんにお聞きすると、
「行者さんたちに食べてもらう料理をどうしようかと考えた二代目は、美味しいものを求めて様々な所に出かけたそうです。でも、食材そのものに差はなく、なかなかヒントは見つかりませんでした。結局、『いちばんおいしいのは自分が食べ慣れた“山のもの”』と気づいた二代目は、山菜を使った料理をお出ししようと考えたそうです。」と話してくれました。
▲三代目女将の佐藤明美(あけみ)さん

とは言っても、地元の人たちからは「“山のもの”が喜ばれる料理になるはずがない」と反対も。決して華やかではないうえに、あまりにも身近な食材だったため “ごちそう”という感覚とはかけ離れたイメージを持っていたのかもしれません。

しかし、蓋を開けてみると、その素朴な美味しさに行者たちは大喜び。そうして、出羽屋は「山菜料理の宿」として評判になり、その名を知られるようになりました。
現在は、宿泊者だけでなく、気軽に山菜料理を味わいたいという方たちが、友人同士のランチや記念日など様々な集まりに利用しています。

山菜は究極の地産地消!

▲山菜の代表格が勢ぞろい!

用意していただいたのは、ウルイ、コゴミ、ウド、うこぎ、行者ニンニク、タラの芽、コシアブラ、ふきのとうの8種類。山菜は繊維質でカロリーが少なく、体から老廃物の排出を助ける健康食材として注目されています。

温暖化の影響からか、昔ほど積雪が多くないとは言え、山菜が採れる山奥は例年2m以上もの雪が積もる西川町。3月中旬になると、解けかかった雪の隙間からようやくふきのとうが顔を出します。その後はカタクリ、タラの芽、コゴミ、うこぎ、アケビの芽と、次々に芽吹いていきます。5月のゴールデンウイーク過ぎまでは雪が残っている場所もありますが、5月下旬になるとワラビシーズンの到来です。

“手に入れることが難しい”と珍重されている「月山竹(がっさんだけ)」が楽しめるのも5月下旬から7月上旬にかけて。雪の重みで根元が曲がって伸びるため、別名「根曲がり竹(ネマガリタケ)」とも呼ばれ、雪が解けてから急成長するため、一般的な細竹よりも太くて、柔らかく、旨みがあると人気です。
▲「山菜は300種類以上あると言われているんですよ」と女将さん
▲山菜の天ぷらの王道を行くタラの芽
▲「山菜は不思議なカタチが多いね」
▲健康食材として注目されているうこぎ

これらの山菜は、添え物や盛り付け用の飾りではなく、料理の主役!
自然の恵みの山菜はその年の気候によって収穫量だけでなく、ほろ苦さなど風味も違ってきます。
▲太いウドにびっくり!
▲お浸しや天ぷらに。山菜ファンに人気のコシアブラ

山菜の採れる地域は全国津々浦々。でも、西川町の山菜は驚くほど種類が豊富。その理由は、遠い昔から旬の時期はもちろんのこと、冬には乾物にして保存食として重宝され、人々の暮らしに根付き、継承されてきたから。山菜は究極の地産地消なのです。

「○○を採ってきたよ」「今日はたくさん採れたよ」
山菜の季節になると、出羽屋には地元の人たちが「採り付け」担当として様々な山の幸を運んでくれます。

山の“芽吹き”をいただきます!

▲「山菜料理」5,500円(税別)

今や、高級食材と称されるものも多い山菜には、それぞれ独特の香りと味があります。
たくさんの山菜を前に、“山の香り”が空腹に沁みてきたのでそろそろ食事を。「人気のお料理を…」とお願いしたところ、目の前に運ばれてきたのは山菜づくしの「山菜料理」。
▲「いただきま~す!」
▲耳馴染みのない山菜もいっぱい!

真っ先に目を引いたのは「山菜鍋」。中に入った鶏肉の旨みがたっぷりしみ出たしょう油味の出汁に、マイタケ、ワラビ、ぜんまい、ムキタケ等の山菜が10種類と凍み豆腐が入っています。入っているのは、えぐ味の少ない山菜ばかりなので食べやすく、誰にでも好まれる味です。
▲今回用意していただいた鍋は2~3人用
▲山菜がたっぷり!
▲「おかわりするぞ~」

そして、山菜料理の代表格と言えば「天ぷら」。肉厚のウドの新芽とやわらかなユリの根、定番のタラの芽とコゴミ、コシアブラ、ふきのとうの6種類。特製の「紅花塩」をつけていただきます。ウドやタラの芽のような独特な味の山菜を天ぷらにすると、味わいはそのままに甘みが増し、さらに美味しさがアップ。サクサクの食感もたまりません。
▲ほんのりピンクの「紅花塩」をつけて
▲クセがないので様々な料理にあうコゴミ

インパクトのある皿の上にのっているのは、うるい、葉ワサビ、アサツキ、あけびを使った料理が4種。酢味噌和え、お浸しと、素朴でシンプルな料理法がそれぞれの味を引き出してくれます。
▲手前から時計回りに、うるい、アケビの芽、あさつき、葉わさび
▲ウド特有の風味がまろやかに。「山ウドのくるみ味噌和え」
▲もって菊ときくらげの酢ぐるみ和え
▲うこぎご飯か蕎麦を選ぶことができます
▲地元で採れた山ブドウの原液
▲かなり濃厚!体の細部に沁みわたる美味しさ

今回いただいた料理は、ポピュラーなものから食べる機会の少ないものまで山菜づくし。山菜の風味を生かすため種類によって味付けが異なり、山菜の魅力がたっぷり味わえる贅沢なコースでした。他にも、気軽に食べられる山菜籠膳(2,300円・税別)からおもてなし会席(15,000円・税別)まで、用途に合わせて山菜料理を楽しむことができます。

素朴で、どこか懐かしい味を求めて

春や秋に採れた山菜は乾物や塩漬けにし、土地に住む人の知恵で、冬の間の保存食として食べられてきました。最近では瓶詰にしたり冷凍保存にしたりと、鮮度を命とする山菜の保存方法も変わってきました。また、促成栽培も可能になったため、一年を通して山菜を使った様々な料理を提供できるようになりました。

「昔はおばあちゃんに作ってもらって山菜を食べたけど、今は食べられなくなってしまったので、子ども達に山菜の味を伝えたくて来ました。」
「自分にとっては懐かしい味で、子どもにとっては初めての味です。」
「山菜の味でおばあちゃんの味を思い出しました。」と、お客さんの声。

「当店の山菜料理を食べるために、大阪から飛行機でいらして日帰りで帰られたお客様もいます。以前は、ホンダの本田宗一郎さんがヘリコプターでいらっしゃったことや、登山家の三浦雄一郎さんが月山にスキーに来た帰りに寄ってくださったこともあります。」と、女将さん。

江戸時代には北前船が京都や大阪と行き来していた山形。京からの帰り荷としては様々な品物や京文化が運ばれましたが、佐賀の伊万里焼もその一つ。出羽屋では舟運によって運ばれてきた当時の器も使用しています。伊万里焼や素朴な土物の器も、料理とともに楽しむことができます。

移築した江戸時代の蔵やこだわりの部屋で、贅沢なひととき

今回料理をいただいたのは、江戸時代の蔵を移築した趣のある「蔵座敷」。
「蔵座敷」は1階と2階に分かれており、結婚披露宴にも対応できる広さです。
▲重厚感あふれる蔵座敷入口
▲落ち着いた空間の1階
▲2階は贅沢な空間
▲梁の太さに圧倒されます

宿泊者向けの「麗峰(れいほう)」「雲海(うんかい)」と名付けられた各部屋は、西川町本道寺(ほんどうじ)地区にある口之宮湯殿山神社(くちのみやゆどのさんじんじゃ)の杉の木で造られています。その他にも中庭が見えるように配置されている部屋や、山形県出身の日本画家・福王寺法林の絵が飾られている部屋など随所に店のこだわりを感じます。
▲古くからのファンも多い部屋「麗峰」
▲少人数での宿泊にぴったりな広さの部屋「雲海」
▲「月山」と名付けられた部屋には日本画家・福王寺法林の絵が

「出羽屋」の中庭には、茅葺き屋根の古民家が佇んでいます。西川町の中心地から国道112号を庄内に向って車を走らせると、1990年に完成した寒河江ダムがありますが、当時、ダムの建設に伴い、112戸の住民が移転を余儀なくされました。その地に村があったこと、そこに人々の暮らしがあったことを記憶にとどめておきたいと、先代が店の庭に民家を移築し、当時のままの姿で保存しています。
▲庭のシンボルにもなっている移築した古民家

宿泊客用のお風呂は、24時間利用が可能です。軟水系の月山の自然水を利用しているため、肌触りがやわらかで、湯上りはしっとり感が続きます。温度は45度と熱め。大理石のお風呂に浸かりながら、体の芯まで温まることができます。
▲大理石のお風呂で至福のひとときを

出羽屋では、山菜の美味しさを知ってもらおうと様々な取り組みを行っています。
その1つとして、2014年には毎年3月31日を「山菜の日」として制定しました。
「以前は、“山菜はお年寄りの食べ物”というイメージが強くありましたが、これからは若い人たちにも山菜を親しんでもらおうと、わらび狩り体験や山菜のプロからの話を聞くイベントなどを開いています。また、当店とレストランとがコラボして、山菜を使った新しい料理も提案しています。」
女将さんの言葉に、古いものを守りながらも山菜の新たな魅力を見出し、次の世代に繋げていこうとする気概を感じました。

撮影:佐藤友美
佐藤昌子

佐藤昌子

エディター&ライター。山形県知事認可法人アトリエ・ミューズ企業組合専務理事。山形県内を中心にタウン誌、フリーペーパーや企業広報誌等ジャンル問わず、印刷物の企画、取材・編集の仕事を手掛ける傍ら、モデルハウスのディスプレイやリメイク等『気持ちの良い暮らし方』も提案している。

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