パブリックアート・陶板レリーフを「クレアーレ熱海ゆがわら工房」で学ぶ
漫画家・大友克洋氏の原画から制作された作品で話題となった「陶板レリーフ」のパブリックアート。パブリックアートとは公園や駅など、公共の空間に設置されるアート作品のことで、中でも「陶板レリーフ」とは、焼き物(陶)の技術を使って制作する絵画作品のことです。色彩豊かで立体的。そして、巨大な作品を作ることができるので、駅や空港などの広い壁に設置され迫力満点!今回は、日本の「陶板レリーフ」制作のパイオニアで、パブリックアートのすべてに携わる「クレアーレ熱海ゆがわら工房」を訪問。「陶板レリーフ」の制作風景を見学し、その魅力をお伝えします。

じつは、「陶板レリーフ」と聞いても、どんなものかパッと頭に浮かばなかったのが正直なところ。取材するにあたり「クレアーレ熱海ゆがわら工房」(以下「クレアーレ」)のホームページで調べてみると、「見たことある!」という作品が次々と出てきました。
いつも利用している駅で見たあの作品、待ち合わせの目印にしていたあの作品……。



こんな巨大な作品、どうやって作るのだろう?あらためてこみ上げてくる「陶板レリーフ」への興味を抱きながら、クレアーレへと向かいました。
広~い工房に広がる大量の土!
あたたかい笑顔で迎えてくれた代表の中野竜志(りゅうし)さん、造形担当の谷本二郎さんの案内のもと、さっそく工房へ足を踏み入れました。
開放感あふれる広い工房は、吹き抜け構造の2階建て。工房の中央に、どどーん!と土が広がっています。現在制作中の作品とのことで、土の表面をよく見ると、細かな凹凸があり、絵が描かれていることが見てとれました。

「こちらは完成するまで公開できないのですが、とある有名漫画家さんの絵を陶板レリーフで制作しています。作家さんが描いた絵をどのように立体的に表現していくか、綿密に打ち合わせをしながらスタッフ全員で作り上げていきます」(谷本さん)

巨大な一枚を作る前に、縮小サイズの模型を作る
まずは、作家さんが描いた原画をもとに、縮小サイズの模型を作ります。模型は「陶板レリーフ」の制作にも使用する土で作り、どのように立体で表現していくかを決めていきます。
ちなみにクレアーレで使用する土は、信楽焼の土です。焼き上がりに強度があり、白っぽくなるので、さまざまな色をつけていく「陶板レリーフ」に適しているのです。


つづいて、模型をもとに図面を作ります。土の厚さを何センチにするか、どこをどのように造形するか、スタッフはこの模型と図面を見ながら造形作業をすすめます。
今回おじゃましたときは、まさにこの造形作業の真っ最中。





気がつくと、スタッフのみなさんが2階に集合していました。


「イメージ通りの絵になっているか、何度も上から全体を見てチェックします。作家さんの思いや絵を、“立体”に立ち上げていく。完成イメージをみんなで共有しながら作業をすすめていくのです」(谷本さん)
朝の9時から18時まで、みんなでもくもくと作業をします。みなさんの真剣な表情を見ていると、わたしも中に入って作りたい!という気持ちにかられました。それほど、みなさんが生き生きと、楽しそうに制作していました。

造形したら、作品を分割!


「顔の部分には分割線を入れない」、「より立体的に見えるようどこで切るか」……などを考えながら慎重に切っていきます。



この工程をふみ、ようやく窯に入れることができます。窯は、ガス窯と電気窯を必要に応じて使い分けます。温度は850度。3日ほどかけて素焼きします。
素焼きが上がったら、釉薬を乗せて1,230度で本焼成(ほんしょうせい)。色がよく出て、色味も安定する温度だとか。窯に入れてから出すまでに1週間かかります。
こんなにも細かく分割してしまうなんて、あとで「1ピース足りない!」なんてことになりそうですが、しっかり印をつけて迷うことなく組み合わせられるよう計画されているとのこと。まるで、大きなジグソーパズルのようです。


5,000色もの釉薬を使い、絵画の世界を表現する
「調合して完成した釉薬は5,000色はあるでしょう。でも、5,000色では足りません。よく、『陶芸家は“自分の色”に一色でも出会えたら、一生その色を使って作品が作れる』といいます。でも、絵の表現はそうはいきません。造形・素焼きの作業と並行して、釉薬テストを何度も行い、作品に使用する釉薬を一から作ります」(谷本さん)





このようにして生まれた釉薬をかけて「本焼成」を終えたら、「陶板レリーフ」のパーツは完成です。あとは、工房内で仮組み、原画を描いた作家さんのチェック、最終調整を経て、いよいよ現場にとりつけます。

「陶板レリーフの作品は、現場に設置されてはじめて生きてきます。建築空間の中でどう映えるか。魚の絵であれば、ちょっと尾びれを出っ張らしすぎたかな、と思っていても、現場で見るとしっかりとした躍動感につながっていたり、もっとあばれさせてもよかったかな、と思ったり。そんなふうに絵が生きてくるのがおもしろいですね」(谷本さん)
今回見学させてもらった「陶板レリーフ」も、空間の中でどのような存在感を放つか、とても楽しみです。
「陶(焼き物)」の美しさを町づくりにも生かす


地元の小学生といっしょに作った一見へんてこな形のパーツ、鮮やかなブルーの文字が美しいタイルのような陶板。町の風景にどのようになじむのか、こちらも完成が楽しみです。

窓の外の風景も作品の一部に。ステンドグラスも制作
工房内には、色鮮やかなガラスがずらり。これらの四角いガラスの板を、絵に合わせてカットして組み合わせていきます。「陶板レリーフ」と同じく、まずは図面を作り、それを見ながら作業をすすめていました。



ガラスは、最高級の手吹きガラスとうたわれているドイツ・ランベルツ社アンティークグラスや、フランス・サンゴバン社のガラスを使用。ガラス独特の表面のゆらぎや、グラデーションの美しさにこだわって仕入れているそうです。

工房にあるさまざまなステンドグラスが、自然光を取り込んでみずみずしく輝いていました。ステンドグラスを通して見る窓の景色も楽しい!ずっと見つめていたいほどでした。



クレアーレでは、駅通路や博物館などを彩るステンドグラスを数多く制作しています。



アート作品を、美術館ではなく公共の場に
「陶板レリーフも、ステンドグラスも、1000年持つ素材です。陶板は2500年前から使われている。ですから、ずっとずっと先を見て、長い年月を重ねても力のある作品を作りたいという思いで制作しています。わたしたちにとって“100年先”というのは身近な未来なのです」(中野さん)


「陶板レリーフと、ステンドグラス、どちらも1枚の絵を違う素材にするという意味では同じです。陶板やステンドグラスの特徴に合わせてどう翻訳するか――。誰が翻訳するかで作品がかわってくる。それもまた、魅力のひとつです」(谷本さん)
今回、「陶板レリーフ」の制作風景を見学して、作品の大きさ、工程の多さ、平面を立体的に表現していく奥深さを知ることができました。そして、どんなにサイズが大きくても、クレアーレのみなさんの手によって、思いを吹き込むように作られていることが伝わってきました。
そんな作業の積み重ねだからこそ、完成した作品は、いつまでもエネルギーを放ちつづけるのだと実感しました。
ぜひ、駅や空港などのパブリックスペースに「陶板レリーフ」や「ステンドグラス」がないか見てみてください。身近な場所で、気軽にアートの力を感じることができますよ。
撮影 阪本勇
クレアーレ熱海ゆがわら工房
静岡県熱海市泉230-1
[見学料金]無料(2日前までに要予約)
[定休日]土日・祝日
[見学時間]13:00~18:00
[所要時間]約1時間(制作状況や見学人数などによって変わります)
※一般公開前の作品を制作中の期間は、「撮影NG」の場所もあるので、スタッフの方の案内のもと見学しましょう。
0465-62-2034

齋藤春菜
編集者、ライター。女性の美容・健康・ライフスタイルに関する書籍、雑誌を多数編集・執筆。文芸、料理、アート本の編集も行う。全国各地へと取材に訪れたさいには地元のおいしいお店を必ずチェックする。編集を担当した本に『お灸のすすめ』『瞑想のすすめ』(ともに池田書店)、『足もとのおしゃれとケア』『わたしらしさのメイク』(ともに技術評論社)、『はじめてのレコード』(DUBOOKS)、『顔望診をはじめよう』、『月の名前』、『健康半分』などがある。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
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