浮世絵の世界へタイムスリップ、元祖とろろ汁「丁子屋」は静岡にあり

2015.06.17

静岡でとろろ汁と言えば丁子屋とすぐに名前が出る程で、歌川広重による浮世絵・東海道五十三次にも登場するとろろやとしてもその名は有名。創業は慶長元年(1596年)で、なんと今年で419年目という長い歴史を持つ老舗です。浮世絵に描かれた丁子屋を再現した建物は、築350年の趣ある茅葺き屋根の古民家を昭和45年(1970年)に移築したもの。中に入れば江戸の生活を感じられる囲炉裏や歴史を重ねた漆黒の柱など、まるでタイムスリップしたかのよう。店内を見るだけでもその雰囲気は存分に感じられますが、併設されている歴史資料館では江戸時代の旅人が実際使用していた道具や広重にまつわる版画などの展示も楽しめます。

▲外観

「丁子屋」伝統のとろろ汁を味わう

▲とろろ汁

とろろ汁に、麦めし、味噌汁、香の物、薬味がついた「丸子」は1,440円(税込)。とろろ汁のだしとして使われる素材は各地方で異なり、サバ、シイタケ、アユなどがありますが、「丁子屋」のとろろ汁はカツオだし。自家製の白味噌、厳選された卵、静岡産の自然薯(じねんじょ)にこだわることで深い味わいのとろろ汁に仕上がり、一口すするとホッとするような安心感が身体全体に広がります。おすすめの食べ方は、少なめの麦ご飯にとろろをたっぷりかけて、よく混ぜ合わせること。麦ご飯のひと粒ひと粒にとろろ汁が絡むことで、ふんわりとした食感になり、まろやかさと風味がより一層増します。自家製の白味噌で作った味噌汁もおかわりを頼みたくなるほどの美味しさ。また、自然薯は「ごぼう5時間、人参2時間、玉子たちまち、山芋やたら」と言われるほど、すぐに疲労回復できると考えられているそう。お店の所在地である静岡市駿河区「丸子」はかつて、東海道五十三次の20番目の宿場町「鞠子宿」と呼ばれていました。ここを訪れた江戸の旅人たちも、「丁子屋」のとろろ汁をすすり、旅の疲れを癒していたのだろうかと想いを馳せてしまいます。
▲自然薯すったまんま

自然薯本来の風味を楽しみたい人には、「自然薯すったまんま」430円(税込)がおすすめ。すり棒で混ぜた時の粘り気の強さと、皮ごと擦った自然薯本来の香りや味の濃厚さが感じられます。お好みでわさびと醤油をまぜても美味しくいただけます。
▲揚げとろ

しいたけ、海苔、たたみいわしの三種がのった「揚げとろ」900円(税込)は
擦りおろした自然薯と一緒に揚げてあり、まわりはもっちり、中から自然薯がとろ~り。絶妙な揚げ具合で自然薯の旨みともちもちの食感が楽しめる、やみつきの一品です。
▲焼きとろ

「焼きとろ」760円(税込)は山芋と牛乳を使った玉子焼き風で、ふんわりもっちりの丁子屋人気のメニュー。シンプルな味わいでそのままいただいてもほっこり。ソースか醤油を付けても美味しくいただけます。
▲庭が見える部屋「今川の間」

食事は、静岡や丸子にゆかりのある歌川広重作「東海道五十三次」の版画が並ぶ大広間「広重」や、「芭蕉」「一九」「弥次・喜多」「徳川」「宗長」などの名前がついた部屋で楽しめます。どの部屋もそれぞれに個性と趣があり、何度も訪れたくなるほど。ひとりでゆったりとした贅沢な時間を味わうのもおすすめです。
▲味噌ダル

北海道産の大豆と、生きた麹から作りあげた自家製の白味噌。冷蔵庫内はたくさんの味噌樽が並びます。室温は約10度に保たれ、ひんやりとした空気の中に、発酵した甘い麹の香りが広がります。代々受け継がれてきた「丁子屋」自家製の白味噌は、大豆の味が活きた甘めで優しい風味。とろろ汁と味噌汁でその味を楽しめます。一般販売されていないのが残念なほど魅了される味わいでした。

「自然薯」の名のとおり「自然」なままにこだわって

▲14代目の柴山広行さん

「丁子屋」伝統の味のこだわりのひとつでもある「県内産の自然薯」への想いを、14代目柴山広行さんに伺いました。もともと丸子周辺はアルカリ性の土壌で養分に富み、天然の自然薯が育ちやすかったのだとか。今では丁子屋を含む数軒になっているとろろやですが、かつては多くのとろろ店が軒を連ねていたそう。「丁子屋」は、収穫したあとの自然薯を買い付けするのではなく、14代目の店主自らが20軒もある農家さんのところへ何度も足を運び、葉の様子やその年の気候なども考慮しながら自然薯の成長を見守り、収穫を待つのだそうです。静岡産の自然薯は、かけ合わせをしていない自然なままの品種にこだわり、デリケートでありながら土の香りが強く栄養価も高いのが特徴。たね芋から3年もの月日がかかって1mを超える立派な自然薯に育ちます。冬至を迎える12月20日過ぎから翌年3月頃までとなる収穫時期に一気に収穫され、1年分を巨大冷蔵庫で保管するそうです。収穫時期にこだわるのは自然薯の成長を待ち、栄養価が一番高いとされる「旬な時期」を選ぶから。
「大切にしていることは、人間の都合に合わせた生産ではなく、なるべく自然なものを自然なままいただくこと。生きるために当たり前だった自分で育てて食べるという自給自足の形は、今では珍しく逆に難しい。利便性や金銭的に得られる価値だけでなく、手間や思いを込めることから得られる価値がそこにあることを知ってもらえたら。」と、その想いを語ってくれました。
▲女将さん、13代目、14代目

「丁子屋」14代目柴山広行さん(右)と、その父親である13代目の柴山馨さん(写真中央)、母であり女将の柴山光代さん(左)。家族3人揃っての写真はめったにない!とすこし照れくさそうに、仲良く笑顔で写ってくれました。「丁子屋」は、従業員40名の大所帯。明治、大正の時代には鉄道の開通により、客足が遠のいた時期もあったそう。「丁子屋」は、そんな時代をも乗り越え、今も一つひとつの素材やもてなしに想いが込められています。約420年もの伝統を後世にも繋いでいくという強い心意気がそこに息づいているのだと感じました。
AYA

AYA

見た目を裏切りよく食べる、おいしいものが食べられるならどこまでも駆け巡る、食いしん坊な30代のグルメライター。現在は雑誌や本の取材を担当。大好物はラーメン、焼肉、寿司。

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