煎茶道の聖地で宇治茶の奥深さを知る。「椿堂茶舗」

2015.06.17 更新

東京ほか他府県に住むゲストから度々、「京都でお茶を楽しみたい」とリクエストされます。美味しいお茶や抹茶スイーツは、京都市内の各地で楽しめるけれど、時間があれば私は宇治へ案内します。宇治には煎茶道の聖地として知られる黄檗山萬福寺(おうばくさんまんぷくじ)があり、煎茶道の開祖も黄檗宗を開いた隠元隆き(いんげん りゅうき。きはおうへんに奇)とされているため、全国煎茶道大会もここで開かれます。茶道とはまた違った煎茶の世界を「椿堂茶舗」で堪能するのも面白いものです。

商店街で宇治茶を味わう&学ぶ

京阪電鉄に揺られ、墨染(すみぞめ)駅で下車。駅のすぐそばにあるのどかな墨染商店街に、目的の「椿堂茶舗」があります。ちなみに、ここは今も地元の人が愛用する現役の商店街。私もお気に入りの焼き芋やさんやベーカリーなどがあり、そぞろ歩きも楽しいので、ぜひ散策してみてください。
まずは、お茶を一服いただきに茶房へ。店頭では茶葉などを販売していて、脇の路地を進むと、奥には茶房「竹聲(ちくせい)」が併設されています。柱時計が時を刻み、奥には蔵が見え、落ち着ける空間なのも、ここが好きな理由。
「椿堂茶舗」は明治12年(1879年)に創業した茶商で、大本山東福寺、伏見稲荷大社など社寺御用達でもあります。「6月からは、土日のみ伏見稲荷大社内でお茶をお出ししています。場所は元宮司官舎で、ちょっと面白いので来てみてください」とのお誘い。これまた楽しそうなので、ぜひどうぞ。
カウンターに座り、ご主人の武村龍男さんを質問攻めにしながら、お茶のこぼれ話をお供に一服を楽しむのが至福の時間。素人の疑問にも、面白い例えで解説してくれるので、私のお茶の知識あれこれの多くは、ここで学んだもの。
今日は「宇治茶初心者でも楽しめるものを」というリクエストに応じて、用意してくださったのが、宇治茶「雲華(うんげ)」のセット800円(菓子付き・税別)。「椿堂茶舗」を代表する人気のお茶です。
でも飲む前に、まずは出てくる道具をゆっくりご堪能あれ。中には「これ、欲しい!」と思う愛らしいものが。これもまた、煎茶の世界の楽しみの一つなのです。
目の前でお茶を淹れていただきます。仙媒(せんばい)に用意された茶葉を、じっくり拝見。針のようにピンととがっていて、深い緑色が艶やか。まるで春雨に当たった後の松葉のよう。「それが良質な茶葉の姿。綺麗でしょ?」と武村さん。
「ちなみにね、仙媒は茶葉を計って急須へ入れる道具ですけど、この名前の由来をご存知ですか?仙人の世界へ媒介するという意味なんですよ」おお、それまた面白い。お茶は仙人の世界へ誘う秘薬という意味かも。
「最初の一煎目にくらべ、二煎目からは丸みのある味へと変化していきます。その違いも楽しんでください」と、お次は自分でお茶を淹れて味わいます。
「自宅で淹れるなら、湯温は約70度前後といわれていますよね。簡単にいえば、高い温度で淹れると、苦味が出やすい。でもお茶は嗜好品ですから、いろいろな温度で淹れてみて、自分の好きな味を探すのも一興です」
「同じ煎茶でも、ちょっと変わったものがありますよ」と、出してくださったのが「唐仙(とうせん)」800円(菓子付き・税別)。茶葉を比べてみると分かりますが、写真奥の最初にいただいた「雲華」に対し、「唐仙」は白っぽくみえます。かといって、等級が劣るわけではなく、これは火入れ=焙煎をしているから。
「ほうじ茶みたいに長く火入れをするんじゃなくて、釜でさっとだけ炒ることで、香りを際立たせるんです。白っぽく見えることを、白摺れ(しろずれ)、なんて言いますね」
淹れてみたお茶の色も比べてみると見事に違うし、味も違います。「雲華」は、ちょっと山吹がかった宇治茶らしい色で、甘味が強く、のど越しはすっきり。一方、「唐仙」はもう少し強い味が印象的で、炒った香りがふわっと漂います。でも味は煎茶のすっきり感が残っているので、いわばほうじ茶と煎茶の中間みたい。
「でもね、宇治茶も煎茶道の作法で味わうと、また違うんですよ」と武村さん。では、それをまた体験するため、茶房の二階で行われる煎茶道教室へ。
がらりと雰囲気が変わり、武村さんも一気に先生モード。煎茶道の流派は、何と30を超えるほどあって、ある意味大らかなので、意外と親しみやすいものです。そして道具が愛らしく、見ていて楽しくなります。
「店や骨董市で、常に道具を探しているんです。この中では、この涼炉(りょうろ)が特に古いかな、200年くらい経ってます」
これは湯を沸かす道具ですが、元は中国で野点をするとき、野外で火をおこすために使われていた、いわば携帯湯沸かし器。ままごと道具のように、小さいサイズなのも、茶道とはまた違った魅力です。
「しかも、この小さな急須で5人分を淹れるんです。だからギュッと味が凝縮された、滴りのようなお茶を味わうんですよ。普段、茶房で飲むものより、もっとワイルドな味といったらいいかな」そんな違いも楽しめる、煎茶道教室もおすすめ(要予約)。
そして最後は、お土産の茶葉を購入。店頭では煎茶、玉露、京都らしい京番茶などがそろっている。中でも、「伏見」(80g650円~・税別)は店の看板商品。ほんのりと甘く、香味が上品なほうじ茶で、夏は冷やして飲んでも美味しいので、私は仕事場ではこれを愛飲しています。
私もプレゼントに使っているのが、この可愛いオリジナル缶。小350円、中・大各600円(いずれも税別・茶葉代は別途)の3サイズ各4色があり、好きな茶葉を詰めてくれます。
日本茶はその年の出来具合や、ブレンドで味が変化するので、ワインのような楽しみがあります。好きな茶葉を見つけたら、骨董市や器店で好きな茶杯を探すことを次の旅の目的にしてみるのもおすすめ。
宇治の旅は、そんなきっかけを与えてくれます。

内藤恭子

内藤恭子

編集者・ライター。京都出身。関西や東京の京都特集で取材・執筆を20年以上担当している。事務所である祖母の町家で土壁を塗り、モザイクタイルを貼りながらリノベーションしつつ、取材に出かける日々。著書に『竹中木版 竹笹堂 紙と暮らす京の一年』(宝島社)などがある。

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